第50話 試し斬りとメンバーの実力


 ユーリカリアは、周りに言われて、ヴィラレットの剣技を思い出していた。


「そうだよな。 最初に斬った棒が落ちる前に、剣を戻してもう一度斬るのだから、ゆっくりなんて、できるわけがないのか」


 周りから言われて、冷静になって考えて、自分の言ったことが、無理なことなのだと理解できたようだ。


 その一言が、場の雰囲気をもとに戻してくれた。




 ユーリカリアの無茶振りを、ヴィラレットは、困った様子で聞いていたのを、周りは、呆れた様子で、ユーリカリアをみていた。


 そして、ユーリカリアの一言で、緊張がほぐれたように、メンバー達は、思っている事を言い出した。


「リーダーは、もう少し頭がいいと思ってたけど、意外でした」


「ヴィラの剣技は、スピードが速いからなのに、ゆっくりやってくれって、あれはないですよ」


「人には、得手不得手があると実感させられました」


 3人の評価を聞いて、ウィルリーンは、微妙な顔をしていた。


「ちょっと、あんた、一応、このパーティーのリーダーなんだから、もう少し、考えてくれないかしら」


 ウィルリーンは、ぼやいた。


「ヴィラ」


 ユーリカリアの無茶振りの話が続くのかと思っていたのだが、そのヴィラレットを呼んだフェイルカミラの声は、真剣な様子が窺えた。


「すまないが、私の剣も使い勝手を確認しながら、私にも太刀筋を教えてもらえないだろうか? 構えとかもだけど、コツとかも色々、教えてもらえないだろうか」


 フェイルカミラは、槍を使っていたのだが、ヴィラレットの剣を試し斬りして、剣に惚れ込んで、剣をメイン武器に変更したのだ。


 それを考えると、小さな時から剣を習っており、精通しているヴィラレットの意見を聞きたいと思ったようだ。


「ああ、だったら、私も知りたいです。 私も基本は弓ですけど、いつでも弓で戦えるとは思いませんから、基本的な部分とかを知りたいです」


 それを聞いて、一番若いヴィラレットが、どうしたものかと思ったようだ。


「ヴィラ、あなたは、剣については、このメンバーの中で一番使えるわ。 ちゃんとした人に教わっているから、基本もしっかりしているのよ。 だから、基本になる型を教えてあげて」


 ウィルリーンも同意した。


 ウィルリーンは、一通りの冒険者として、武器の取り扱いはできるが、全ての武器について達人というわけではない。


 使える程度なら、構わないが、それは、もう、ある程度教えているのだ。


 だったら、達人の域にまで達しているヴィラレットに、これからの課題になりそうな型を教えてもらった方が良いと判断したようだ。


 特に、フェイルカミラやユーリカリアは、前衛として戦うのであれば、なおさら、ヴィラレットと連携する場面も増えるとなるなら、ヴィラレットの剣技を中心に覚えてもらった方が、ありがたいと思ったのだ。


「ああ、シェルなら、どうでもいいのか」


「ちょっと、ウィルねえ。 何で私はどうでもいいのよ!」


 シェルリーンが、ウィルリーンのどうでもいい発言に食いついた。


「ああ、あんたは、剣よりも中衛として、弓を、これからも使ってもらいたいのよ。 それから、溢れた魔物を、カリア、カミラ、ヴィラとカーシャが対応する。 私と一緒に近接戦闘を防ぐ側に回って欲しいのよ。 最悪の場面を考えれば、近接戦闘用に剣は必要だけど、そうならないためには、あなたの弓は重要なのよ」


「ああ、そういう事なのですか」


 シェルリーンは、納得する。


「でも、剣もちゃんと覚えておいてね」


「あのー、私は?」


 シェルリーンとウィルリーンの会話の中にフィルルカーシャが、恐る恐る入ってきた。


「カーシャは、今までの剣と、対して変わりはないわ。 だったら、その剣になれるだけだから、それ程気にする必要はないのかと思うけど」


「まぁ、そうですけど。 でも、私もヴィラの剣技で使えそうなものがあれば、覚えたいです」


 フィルルカーシャとしても、折角なので、ヴィラレットから、何か教わりたいようだ。


「まあ、それもそうね。 ヴィラ、ちょっと、何か使えそうな技があるなら、教えてあげて」


 ウィルリーンは、ヴィラレットに指示を出した。


「はあ。 でも、私も、師匠に教えてもらったのは、基本の件だけでしたよ。 師匠が言うには、全て基本ができてなければ、応用は無いって、だから、師匠とは立ち会い以外は、全て、基本的な振り下ろしをするだけでした」


「じゃあ、さっきの棒を3つに斬るのは、どうしたの?」


「あれは、師匠の目を盗んで、隠れて練習してました。 あの剣技については、師匠が1人で練習していたのを見ただけなんですよ。 何度、教えてくれと言っても教えてくれなかったんです」


 そう言うと、ヴィラレットは、少し考える。


「あっ、でも、教えてくれと言った後、基礎練習にかける時間が増えました。 普通に上から下へ斬り下ろすだけだったのですけど、一緒に足捌きもだけど、速さを求められました。 それから後は、素振りも倍の数を同じ時間でできるようにって言われました」


 ウィルリーンは、それを聞いて、納得したような表情をする。


「そう、なるほどね」


 すると、少し考えた。


「じゃあ、ヴィラ。 試し斬りは、その基本で行って、それと、カリア、カミラ、シェルには、ヴィラの修行の時の様子を教えてあげて」


「はあ」


 ヴィラレットは、気のない返事をするが、ウィルリーンには、何か考えがあるようだ。


「ヴィラ、あなたの剣は私が持ってあげるわ。 それで、カミラとシェルに基本の型で、試し斬りの棒を斬ってみて」


 ヴィラレットは、自分の剣をウィルリーンに預けると、まず、フェイルカミラから剣を受け取る。


 そして、自分の剣より少し長めな事と、重さもある事、そして、フェイルカミラの身長を確認する。


 試し斬りの棒の前にくると、軽く素振りをして、バランスを確認する。


「じゃあ、斬ってみます」


 そう言って、試し斬りの棒に、中段に構えると、剣を上に引き上げると同時に前に出て、間合いを詰めると、一気に試し斬りの棒を上段から袈裟斬りにする。


 試し斬りの棒は、綺麗に斜めに斬れると、地面に斬った棒が落ちた。


「これが、基本です」


 そう言って、剣をフェイルカミラに返した。


 ヴィラレットは、さっきの、燕返しではなく、普通に斬っただけだったので、フェイルカミラは、少し物足りなさそうにしていた。


「カミラ、今の基本の型が、確実にできるようにして。 今まで槍を使っていたから、少し違うけど、あなたの身体能力なら、すぐに慣れてしまうと思うわ。 今の剣筋と同じようにできるようになれば、ヴィラレットと同じことができるようになると思うわ」


「はあ」


 フェイルカミラは、微妙な表情で、ウィルリーンに答えた。


「じゃあ、カミラ。 今と同じように試し斬りをしてみて」


(ヴィラの剣の試し斬りでは、うまくいったけど、今回は、身長に合わせて少し長いし、それにわずかだけど、刃幅も広くなっているわ。 それと、今、ヴィラは、中段に構えて、踏み出して斬ったのよ。 だから、きっと、前回のように、綺麗に斬れることはないわ)


 フェイルカミラは、言われるがまま、ヴィラレットと同じように試し斬りの棒に向き中段に構えた。


 振り上げると同時に、間合いを詰めて、一気に振り下ろした。


「あっ!」


 フェイルカミラは、試し斬りの棒を斬ったが、斬れ口にヒビが入って、立ててある棒が、わずかであるのだが、斬れ口に縦の割れ目が入っているのだ。


 その縦の割れ目をみて、フェイルカミラが、声を上げたのだ。


「カミラ、分かったみたいね。 ヴィラは、剣技を持っているけど、その基本をしっかり練習しているから、縦に割れるなんてことがないのよ。 前回のヴィラレットの剣を使った時は、たまたま、うまくいっただけだったのよ」


「そうですね。 ヴィラと私とでは、剣技よりも基本的な部分で、大きな違いがあるのですね」


 ヴィラレットと自分の斬り口を確認しつつ、フェイルカミラは、自分の未熟さを実感したようだ。


「わかりました。 これからは、時間を見つけて、基本を練習しましょう」


「そうね」


 ウィルリーンは、フェルカミラが、基礎の重要性を実感してくれたので、後の2人に話を進めるのが楽になったと思ったようだ。


「ヴィラ、残りの2人には、どんな事を教えるの?」


「いえ、今と同じです。 剣が、違いますから、多少は、違いはありますけど、基本は、中段から飛び込んで上から斬るだけです」


 ウィルリーンは、満足な答えを、ヴィラレットから聞いたので、満面の笑みをした。


 ただ、シェルリーンは、面白くなさそうだ。


「なんだ、必殺の剣技を教えてもらえるかと思ったのに」


 シェルリーンは、ボソリと漏らした。


「シェル。 何事も基礎が大事なのよ。 あなたも、フェイルカミラと同じよ。 でも、基礎体力は、素人じゃないから、少し訓練すれば、すぐに、上がれるわよ」


「はーい」


 シェルリーンは、しかたなさそうに答えた。


 そして、ヴィラレットに剣を渡して、試し斬りをしてもらうと、剣の訓練方法をヴィラレットから教えてもらうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る