第49話 試し斬り、再び


 ヴィラレッとは、ウィルリーンから剣を受け取ると、一度、確認するように持った。


「やっぱり、柄の長さが違うと、持った時の感じが違いますね。 とても面白いです。 微妙な寸法の違いで、こんなに変わるなんて、思いもしていませんでした」


「私は、魔法職だからね。 剣を使うようになったら、終わりだけど、だけど、持っておきたいのよ。 この剣を使う時に、いい姿勢だとか、使い方とかがあれば教えてね。 それに、仕込み杖とかにできたら、かっこいいかも」


 ウィルリーンは、剣以外に何かを考えているのか、変なことを言った。


 そんな話をしていると、ユーリカリアが、試し斬りをしていた。


「あっちゃーっ! 」


 何か、失敗したといった様子の声をあげているので、ヴィラレットとウィルリーンも、ユーリカリアの方を見ると、試し斬りの棒が台座から抜けて、吹っ飛んでいっていた。


「あーっ、私には、上手くできないのか」


 そう言って、ユーリカリアは、持っていた剣を、右手で肩に担ぎ、左手は頭をかいていた。


 その様子を不思議そうに思ったウィルリーンが、フェイルカミラを見た。


「ちょっと、カミラ。 何かあったの?」


「ああ、この前、ヴィラが、立っていた棒を、上から袈裟斬りにした後に、逆袈裟で切り上げた時に、最初に斬った棒と一緒に立っている棒を一緒に斬ったじゃないですか。 あれを真似ようと思ったみたいですよ」


 それを聞いて、ウィルリーンは、あんな芸当が、剣を握って数日しか経ってないユーリカリアに使えるのかと思ったようだ。


 少し、小馬鹿にするような表情をユーリカリアに向けた。


「ねえ、ヴィラ。 今のカリアの剣は、この前の試し斬りをした、あなたの真似をしたみたいなんだけど」


「あーっ、燕返しですか。 ははは」


 ヴィラレッとは、少し引きつったような笑顔をした。


「あれは、一朝一夕でできるは思えないですよ。 私も結構、練習しました」


「リーダーったら、この前、ヴィラが簡単にやったもんだから、自分も試してみたかったみたいだな」


 フェイルカミラが、ボソリと言うと、その表情と声音には、仕方ない人を見たといった様子が窺えた。


「くっそー」


 フェイルカミラ達の話が聞こえたのかどうかは分からないが、ユーリカリアは、落ちている試し斬りの棒を拾い上げると、新しい試し斬りの棒を持ってきた。


 そして、カインクムの作ってくれた剣を、無言でウィルリーンに押し付けると、今度は、エルメアーナの剣を取って、右上段に構えた。


 そして、間合いを決めると、一気に袈裟斬りにすると、直ぐに戻して逆袈裟に斬りあげた。


 しかし、その戻した剣は、立っている試し斬りの棒を斬るだけで、最初に斬った棒の上側は、地面に落ちていた。


 それをイラっとした表情で見ると、後ろにいたビラレットを見た。


「ヴィラ! お前のあの技は、どうやったらできるんだ!」


 少しイラついた様子で、ユーリカリアは、ヴィラレットに聞いた。


「えっ! 私ですか」


 突然、イラついた声でヴィラレットに話しかけるので、怒られているっぽい感じの声になってしまっていたこともあり、ヴィラレットは、少し驚きつつ返事をした。


「そうだ。 この前のあの剣技、私も、使えるようにならないか!?」


「あ、ああ、はは」


 ヴィラレットは、顔を引き攣らせて返事をすると言うより、困ったと思って声を漏らしたようだが、パーティーのリーダーの言葉なので、仕方なさそうにした。


「すぐは、無理かと思います」


 徐々に声が小さくなりつつ、ヴィラレッとは答えた。


 その答えを聞いてユーリカリアは、自分の技術の無さが気に入らなかったのか、険しい表情をしたので、ヴィラレットは、何とかフォローしなければと思ったようだ。


「私も、師匠に見せてもらって、修行以外の時間は、あれを練習してましたけど。 2年近くかかりましたよ」


 それをユーリカリアは悔しそうに聞いていた。


「そうよ。 つい最近まで、戦斧を使っていた人が、そんな達人技を使えるようになるわけ無いでしょ」


 ウィルリーンがヴィラレットを庇うようにユーリカリアに言うと、ユーリカリアは、ヴィラレットに睨みをきかせた。


「だったら、ヴィラ。 また、その技を見せてくれ」


「え、エェーッ!」


 困った様子で、声を上げてしまった。


「燕返しですか。 ……。 はい、じゃあ、ちょっと、試してみます」


 ヴィラレットが答えると、ユーリカリアは、試し斬りの棒を新しくして、場所をヴィラレットに譲った。


「ヴィラ。 私の剣で試してみて」


 ウィルリーンが、そう言うと、ヴィラレットに自分の剣を、抜身で渡し、そして、ヴィラレットは自分の剣を腰から鞘ごと抜いて、ウィルリーンに渡した。


「何も無い方が良いと思ったけど、鞘は、腰に付けておいた方が、扱いやすかったかしら?」


「あ、いえ、この方が、良いです」


 ヴィラレットは、ウィルリーンの剣を持って、試し斬りの場所に移動すると、少し困ったような表情で、試し斬りの棒を見ていた。


 すると、後ろを向いてみると、全員が、ヴィラレットの後ろに並んで、ヴィラレットの様子を伺っていた。


 ヴィラレットは、一瞬、怯んでしまうが、仕方なさそうにする。


「あのー。 失敗しても、怒らないでくださいね」


 ヴィラレットが自信が無さそうに言った。


「ああ、失敗しても何でも構わないから、とにかく、見せてくれ」


 ユーリカリアの返事を聞いて、並んでいた周りのメンバー達は、それでもいいのかと思った様子でユーリカリアを見た。


 だが、誰も、ユーリカリアの言葉にツッコミを入れる様子はなく、黙って、また、ヴィラレットを見た。


「じゃあ、燕返し。 試してみますね」


 そう言うと、ヴィラレットは、試し斬りの棒に対峙した。


 そして、右上段に構えると、切先が、一瞬後ろに下がったと思った瞬間、次には、刃が後ろを向いて右上段に戻っていた。


 その時、何か音がしたようだったが、後ろから見ていたメンバー達には、その様子がどうなったのかよくわからなかったが、ヴィラレットが、しゃがみ込んで、床に落ちた試し斬りの棒を拾ってから、ウィルリーンに剣を返していた。


「ウィル姉さん、ありがとうございました。 とっても使いやすかったですよ」


 剣を返すと、今度は、ユーリカリアに向いた。


「はい。 一応、上手くいきました。」


 そう言って、試し斬りで切ってしまった棒を3個、ユーリカリアに渡す。


「え、おい、今の、どうなったんだ。 よく見えないかった。 すまないがもう少しゆっくり、もう一度、見せてくれないか!」


 ヴィラレットは、ウィルリーンから、持ってもらった自分の剣を受け取りつつ、ユーリカリアの話を、困った様子で聞いていた。


「リーダー。 それは、流石に無理な相談です」


「何でだよ。 少しゆっくり斬るだけじゃないか。 そうしたら、私にも太刀筋が見えるかもしれないんだよ。 それで、斬れた棒が落ちていく時に刃が、どう、落ちてくる木に入るのか確認したいんだよ」


「いや、流石に、それは、無理です」


「ヴィラ。 そんな意地悪を言うなよ」


 ユーリカリアは、懇願するのだが、それを聞いてヴィラレッとは、引きつった笑いを浮かべていた。


 ただ、ユーリカリアの言っていることは、周りのメンバーには、ヴィラレットが何で出来ないのか、理解できているのか、苦虫を噛むような表情をしていた。


「リーダー。 それは、ヴィラがかわいそうだと思います」


「そうですよ。 ヴィラが剣技の達人でも、ゆっくりは無理でしょ」


「流石に、それは無理だと思います」


 フェイルカミラ、フィルルカーシャ、シェルリーンが、ユーリカリアのリクエストは無理だと納得した様子で、ユーリカリアに言った。


 ウィルリーンは、ユーリカリア1人だけが、分かってないと思うと、気落ちしたような表情で、ユーリカリアを見た。


「カリア。 今の、ヴィラの剣技は、剣速が有るからできるんです。 ゆっくり、剣を動かしたら、剣が戻ってきた時には、最初に斬った棒が、地面に落ちてしまいます。 だから、今のヴィラの剣技をゆっくりやったら、試し斬りの棒が、3つに斬れるなんてことはないんですよ」


 ウィルリーンの説明を聞いて、ユーリカリアも落ち着いて考え出したのか、哀願するような表情から、考える表情に変わった。


「そうか。 そうだな。 ゆっくり、剣を動かしたら、3つには斬れないのか」


 ユーリカリアの顔が、僅かに赤くなっていた。


 それは、自分の言ったことが、子供じみた事を言っていたと思ったようだ。


「そうだな。 そうだよな」


 ユーリカリアは、凹んだような表情をした。


 場の雰囲気が、悪くなり、誰もが、何とかしてくれと訴え始めていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る