第37話 新たな剣、受注した剣の製造準備
カインクムは、ユーリカリア達に依頼された剣を作るために動いていた。
ジューネスティーンから聞いた、新たな剣の製造方法は、先日の試し斬りの際にユーリカリア達に、好印象を与えた。
(まあ、通常の斬る剣なら、あんなに軽く作ることはできないからな。 折れたり、曲がったりといった問題を、ジュネスの考えなら、その問題を完全にクリアーできている)
カインクムは、購入してきた素材を見つつ、考えをまとめていた。
(あんな、2種類の素材を重ねるなんて発想は、転移者特有の感覚なんだろうが、それにしても、誰もがそんな技術を持っているとは思えない)
カインクムにしても、鍛冶屋であるから、ジューネスティーンの発想は、すごいと思ったのだが、南の王国の商人である、ジュエルイアンは、ジューネスティーンの剣の有用性について、直ぐには気が付かなかった。
カインクムに言われた事で、ことの重要性に気がついたのだ、鍛治の技術は、商人には分からない。
鍛冶屋同士でなければ、気が付かない部分が多いのだ。
そう考えると、ジューネスティーンが特別だったのだと思えるのだ。
(そうだよな。 シュレの魔法は、とんでもないものだと思ったが、他の4人については、オリジナルの何かがあったとは思えなかった。 カミューについては、男性エルフというだけだったしな。 種馬としての価値はあったみたいだが)
ジューネスティーンとシュレイノリアの2人については、別格のように思えたのだが、他の4人には、それ程大きな技術を持っているとは思えなかったのだ。
(転移者といっても、その以前の世界での知識は、等しく全ての人に同じだけ備わっているわけではないのだろうな。 仮に俺が転移しても、鍛治の技術が、チラホラと出てくる程度だろうが、俺の知らない技術は出すことはできないということなのだろうな)
ジューネスティーンとシュレイノリアの2人のことを考え、それを自分のことに置き換えて考えてみたようだ。
そうする事で、わずかではあるが、ジュネスティーン達の以前の様子をカインクムは想像するのだ。
(ジュネスは、こういった鍛治に関する事に精通していたのだろう。 それが、断片的な記憶を辿って、この2種類の素材を使った剣になったのだろうな。 しかし、そんなことに、よく気がついたものだ)
そう言って、カインクムは、また、考え出すのだった。
2種類の素材を重ね合わせることもだが、最初は、直刀を作っておき、焼き入れの際に、剣を曲げるということにも初めて聞く方法だったのだ。
焼き入れする時に、刃側と峰側とで、表面に塗った土の厚みで、焼き入れの時の熱の逃げ方を遅らせるなんて発想もカインクムには無かった技術なのだ。
それは、カインクムの師匠にも無かったことであったし、仲間内の鍛冶屋からも聞いた事は無かった技術なのだ。
直剣で作ることが可能なら、かざしてみることで、剣の厚みも幅も均等に作ることも可能だ。
曲剣を鍛冶屋が作るのを嫌がる理由は、剣を熱して叩いて伸ばし、作るのだが、曲がった剣だと、途中の剣の厚みの見極めが、甘くなってしまう場合が多いのだ。
それを最終的な、研ぎの時に厚みの違いによる影響が出てしまう。
剣の厚みが違うために、綺麗な曲線を描かない場合が多いのだ。
刃と峰までの厚みはなんとでもなるが、その中間の鎬については、厚みの違いが出てしまうのだ。
剣は、刃・鎬・峰のラインが揃っていると、綺麗に見えるが、叩いているときに微妙な厚みの違いが出てしまい、研いだ後に、鎬が刃側に寄ったり、峰側に寄ってしまったりと、中々、同じラインにするのは難しいのだ。
そんな事もあり、斬るための剣は、鍛冶屋泣かせの剣となっており、中々、お目にお目にかかることは少ないのだ。
そして、有ったとしても、同じような直剣と比べると、高額になっていたりするのだ。
それが、今、カインクムには、ジューネスティーンから聞いた技術で、斬るための曲剣を作ることができるのだ。
この技術は、他の鍛冶屋からしたら、かなりのアドバンテージになるのだ。
また、その剣は、通常の斬るための剣の強度を細くても維持できるのだ。
剣は、横から力が加われば、テコの原理で、手元に加重がかかり、折れやすい。
それを剣の中心から、峰にかけて軟鉄を使い、刃全体は、鋼鉄を使うことによって、中の軟鉄が、衝撃を吸収する役目をしてくれる。
軽く作れるようになったことで、ヴィラレットのような剣技を扱うものには、剣速が勝ることで、一瞬で斬ることが可能となる。
ジューネスティーンから教示された日本刀の技術は、カインクムにとって大きな武器となったのだ。
まだ、大ツ・バール帝国内では、カインクムの娘であるエルメアーナが、南の王国で、ジューネスティーンの剣を作って受注をこなせない程になってしまったのだが、その事を知っているものは、今のところ、帝都には詳しい話を知るものは居ない。
もし、カインクムがジューネスティーンに聞くのが遅かったら、カインクムの鍛冶屋としての信頼も揺らいだ可能性もあったのだ。
だが、こうして、信頼のおけるユーリカリア達にジューネスティーンの技術を聞いて作った最初の剣の評判が良かったことから、残り5振りの太刀の受注を得られたのだ。
(このユーリカリア達から受けた、5本の太刀を作ることで、完全に剣の製造方法を確立させないとな)
娘であるエルメアーナと肩を並べるような剣を作らなければ、師匠として、技術的に越されてしまうことになる。
カインクムは、まだ、そんなに老いぼれてはいないと、自分に言い聞かせて、受注した剣の製作に挑むのだった。
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