第40話 刃渡りの一番長い剣


 カインクムは、最初に焼き入れをしたウィルリーン用の剣の焼き入れを見て、曲がり具合が、思った通りにできたことで満足していた。


 ここまでは、ヴィラレットに作った剣とほぼ同じだったこともあり、ウィルリーンの剣は、思った通りの曲がりになった。


(これからが、気になる部分だな。 刃幅が太くなるにつれて、曲がり方は、弱くなるはずだ。 そうなると、泥の厚みを変える必要があるだろうな。 泥の厚みは、刃側は、大して厚く塗っているわけじゃないから、刃側をこれ以上薄く塗ることはできない。 やっぱり、峰側の泥を厚めに塗るようになるのかな)


 カインクムは、ユーリカリアの刃幅8センチの剣を見つつ、その剣を焼き入れするまでに、他の剣でデータを掴むための算段を考えていた。


(フェイルカミラは、身長が高いからな。 ジュネスの身長より高い女性だった。 リザードマンの亜人なら、あの身長は、当たり前なんだろうな。 だが、あの身長だからよくわからないが、彼女の腕や足は筋肉質だった。 身長があるからわからなかったが、ドワーフのユーリカリアと同じ位はあった。 筋肉の付きやすいと言われているドワーフと同じなら、身長のある分、フェイルカミラの斬撃は、もっと強くなるはずだ)


 フェイルカミラは、ヴィラレットの剣を試し斬りして、自分仕様の剣をオーダーしたのだ。


(あのリザードマンの嬢ちゃんは、チーターの嬢ちゃんの剣を一振りして決めてしまったのか)


 カインクムは、フェイルカミラのオーダーを見ていた。



【フェイルカミラの剣】


 刃渡り 90センチ、刃幅 3センチ、柄 40センチ



 カインクムは、次に進めようとしているフェイルカミラの剣について、考えた。


(あの身長と、腕や足の太さを考えたら、あのパーティーでは、剣の振り下ろした時の力は、一番大きくなるだろうな。 あの試し斬りの時だって、下から斬り上げても試し斬り用の棒が抜けなかったのは、彼女の剣速の速さなのだから、魔物に当たった瞬間の力は、パーティー内では、一番強いことになるだろうな)


 カインクムは、フェイルカミラ用に作った剣を手に取って、上にかざしてみる。


(フェイルカミラの事を考えたら、きっと、斬った時の衝撃は、一番大きいはずだ)


 フェイルカミラの要求は、刃幅3センチだったのだが、だが、ウイルリーンの剣より刃幅は厚く作られていた。


 だが、刃幅4センチと刃幅の広いものを要求した、シェルリーンとフィルルカーシャの剣より、細く作られていた。


カインクムは、フェイルカミラの事を考えて、刃幅を、3.5センチとしたのだ。


 使う相手の事を考えて、その人に合わせて、仕様の範囲で調節する。


 可能な限り、要望に応えるようにするが、カインクムとしたら、相手の能力に応じて変化を持たせるのだ。


 全く同じ仕様の剣を、2人の冒険者から頼まれたとしても、その冒険者の能力に応じて、微妙に変化させるのだ。


 その細かな気配りができるかどうかが、オーダーメイドの剣を買う側の満足度が変わってくるのだ。


 その使い勝手の良さが、鍛冶屋の評判を生むのだ。




 カインクムは、フェイルカミラの剣に施す焼き入れの方針が決まると、剣に泥を塗っていく。


 刃側を薄く塗ると、峰側に映るのだが、もう一度確認するように剣をかざす。


(きっと、あの嬢ちゃんが、一番腕力が高いだろうからな。 そうなると、斬った時の衝撃は一番大きいだろうから、剣の反りも少し強くしたほうがいいな。 なら、峰側の塗り方は、決まった)


 カインクムは、フェイルカミラの事を考えつつ、その剣を仕上げていくのだ。


 泥の塗り方は、ウィルリーンと同じように進めていく。


 特に、切先については、基本的な構造は、同じになるので、切先から、15センチのところまでは、ウィルリーンの剣と同じように、切先より少し厚めに塗る程度にする。


 同程度の反りになるか、刃幅が0.5センチ広くなったことで、微妙な変化が出るのかを確認するため、あえて、今回は、泥の厚みを先ほどのウィルリーンの物と同じにしたのだ。


 そして、その先から、手元までの泥の量は、先ほどと同じ厚みで塗る。


(これだと、ウィルリーンの剣より反りが弱くなるはずなんだ。 フェイルカミラなら、剣速も早いだろうし、当たった時の衝撃も強いはずだからな。 その衝撃をより抑えるなら、反りは大きくした方がいいだろう。 斬った時に刃が弧を描いていることで、徐々に刃が魔物の中に入る時、少しずつ位置が根本から先端に移動させられるようにして、斬りやすく作っておけば、耐久性は上がるはずだ)


 ウィルリーンと同じ厚みに泥を塗り終わった剣を眺めつつ、カインクムは考えていたのだが、また、剣を寝かせて、その剣に泥を重ねるように塗り始める。


 刃幅が広くなった分による反りの影響を考えつつ、泥の厚みを増やしていく。




 塗り終わった剣は、竈門に持っていき、剣の温度を上げていく。


 徐々に剣は熱くなり、泥を塗ってない、柄に入る箇所が、赤くなりはじめる。


 吹子で風を送って赤くなった炭の下から、空気を送ると、炭の温度は高温に熱せられた炎を出す。


 刀の温度は、上がり、その温度の頃合いを手元の鉄の色で識別するのだ。


 その色を見る。


(頃合いだ)


 カインクムは、剣を竈門から取り出すと、隣の水桶の中に一気に入れると、熱せられた剣は、水を一気に沸騰させ水桶から水蒸気を出した。


 だが、水を完全に蒸発させることは、熱せられた剣にはできないので、その水蒸気も徐々に減っていき、最後は、水の中で泡も立てなくなる。


 水面の揺らぎがなくなると、水の中の様子が見えるようになり、剣の全容が見て取れるようになった。


 カインクムは、剣を水桶の中から取り出すと、剣をかざして曲がり具合を確認していた。


(思った通りだ。 峰側に泥を厚めに塗ったことで、反りが強くなった。 これなら、ユーリカリアの剣も綺麗に曲げられそうだ。 あとは、もう2本で、同じ事をして様子を見よう)


 カインクムは、少し安心したようだ。


 立ち上がって、作業台の方に、フェイルカミラ用の剣を持っていくと、ウイルリーンの剣と並べるように、剣を置く台座に乗せた。


 2本目の剣を最初の剣と見比べて、反り具合を確認する。


 2本目に焼き入れをしたフェイルカミラ用の剣は、ウィルリーンの剣より、わずかに反りが強く出ていた。


 その反りの違いをカインクムは、満足げにみると、次の剣を手に取った。

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