第25話 フィルルカーシャの試し斬りと発注
シェルリーンは、ヴィラレットから剣を受け取ると、すぐに試し斬りの棒を斬ってしまった。
今までの3人は、間合いを確認したりしたので、斬るまでの動作が長かったのだが、シェルリーンは、もともと、弓をメインに使っていることもあってなのか、直ぐに、剣を振り下ろして、試し斬り用の棒を斬っていた。
シェルリーンが、直ぐに試し斬りをしてくれた事で、フィルルカーシャに順番が直ぐに回ってきた。
(こんな事なら、順番なんかでもめずに、最初からシェルリーンに、先を譲っても良かったわ)
フィルルカーシャは、何とも言えないような表情をして、シェルリーンと、その持っている剣を見ていた。
今まで、間合いをどうのと、微妙に位置合わせをしたり、緊張感を持って試し斬りをしていたのだが、シェルリーンは、剣を受け取って、試し斬りの棒の前に立った瞬間に斬ってしまったのだ。
ただ、シェルリーンは、斬った時の感じの、余韻を味わっているようだ。
そんなシェルリーンに、フィルルカーシャが歩み寄る。
「じゃあ、わたしの番だから、その剣、貸してくれる」
そう言って、右手を出した。
シェルリーンは、もう少し余韻を楽しみたかった様子だが、仕方がなくフィルルカーシャに剣を渡す。
「おーい、試し斬りの棒付け替えようか」
ウィルリーンが、フィルルカーシャに言うが、当のフィルルカーシャは、120センチの身長ならば、この程度でも問題無いので軽く断った。
「あ、わたしは、この長さでも大丈夫です。 どうせ、背が低いですから。 せいぜい、切先が地面に付かないように気をつけることにします」
そう言うと、試し斬りの棒に向かって、右から斜め下から斬りあげた。
薙刀のような剣を扱うのだから、身長が低くても、それなりに腕の筋力はあるので、立っていた試し斬りの棒は、簡単に斬り裂いた。
自分の手に残った感覚を実感するように見ながらフィルルカーシャは呟いた。
「本当に凄い。 こんなに斬れるものなのですね」
マジマジと眺めながら、ヴィラレットに歩み寄りながら剣を眺める。
ヴィラレットに剣を渡すと、安心した表情をヴィラレットに向けて自分の意見を伝える。
「これなら、あんたを守ってくれるね」
ヴィラレットは、フィルルカーシャから大事そうに剣を受け取った。
「ありがとうございます。 この剣で、皆さんの役に立って見せます」
「なんか、フィルルカーシャに良いところ持っていかれた」
シェルリーンが言いそびれた事を、フィルルカーシャが言ってくれたので、シェルリーンは少し拗ねたような表情を浮かべた。
そんな2人をほっといて、ウィルリーンは鞘を両手で持って、ヴィラレットに向いた。
「その剣なら、お前の技にも付いてきてくれる。 大事にするのね」
ウィルリーンが、ヴィラレットに笑顔で話した。
「ありがとうございます」
ウィルリーンが持っていった鞘を、ヴィラレットは受け取ると、剣を鞘に納めさせた。
「納得いったなら、大事にするのよ。 それより、しみじみした話は、そのぐらいで、商談に入らないとな。 ほら」
そう言って、カインクムの方を向くと、ユーリカリアとフェイルカミラが、何方の剣を先に作るかで、まだ、揉めていた。
「「「あっ」」」
自分達のことに集中していたために、2人のやり取りが聞こえてなかった、3人が気がついた。
フィルルカーシャとシェルリーンは、お互いに顔を向けた。
考えていることは、自分も欲しいのだが、あの2人の中に入って交渉をする気になれないということだった。
それを見た、ウィルリーンが、取り纏めるため、手をパンパンと叩きながら、ユーリカリア達の間に入っていった。
「あんたら2人が、揉めていたら話が進まなくなる。 それに、カインクムさんに、仕事を頼みたいのは、2人だけじゃないんだから」
そう言って、後ろに居るフィルルカーシャとシェルリーンを親指で指差した。
「ご主人、大変申し訳ないのだが、試し斬りした剣は、ヴィラレットが購入させてもらう。 それと、先程は失礼な事をいって申し訳ありませんでした。 あの剣の素晴らしさは、しっかり伝わりました」
そう言うと、一呼吸おいて、真剣な表情でカインクムにお願いを始めた。
「誠に申し訳ないのですが、その剣と同じ製法で作った剣を、5本作っていただきたい」
「5本って、1本多くないか」
ユーリカリアが、ウィルリーンに突っ込むと、ウィルリーンも直ぐに答える。
「あんな斬れ味の剣なら、わたしも欲しいです。 魔法職でも、接近戦が、全く無いとは言えませんし、詠唱が間に合わない時の、切り札として持っていたいんです」
その話を聞いて、ユーリカリアも納得した。
新たな剣の商談が、5本も入ると思ったカインクムは、長くなりそうだと思ったのだろう、嬉しいような思いもあるが、今のユーリカリアとフェイルカミラの話を目の前で聞いていたので、色々、揉めそうだと思うと、少しやり切れない表情を浮かべた。
「そういう事なら、中で話さないか。 それぞれの要望も聞かないといけないだろうから」
カインクムが、家の方を指差した。
ユーリカリア達も、その意見に同意した。
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