第24話 シェルリーンとフィルルカーシャ


 ヴィラレットは、うっとりと、カインクムが試作した剣の試し斬りを終えても、ジーッと剣を見ていた。


 それは、ヴィラレットが剣と対話しているように、周りには見えた。


 その姿をウイルリーンは、自分の妹か娘でも見るような表情で見ていた。




 ただ、そのやり取りを後ろで心配そうにみている2人がいた。


 それは、もう自分達の番が回ってこないのではないかと心配になっているのだ。


 顔には、不安が浮かび上がって見える。


「あのー。 私達には試し斬りは、もう、回ってこないのでしょうか」


 その言葉に、ウィルリーンは振り返って、困ったような顔を向ける。


 2人は、ウィルリーンが、ヴィラレットの剣技に見惚れてしまい、2人の事を忘れてしまったのではないかと不安になっていたのだ。


 先程、ユーリカリアと、フェイルカミラの剣を作る順番で揉めていたところに、入って、剣を取り上げてくれたまでは良かったのだが、その後のウィルリーンのヴィラレットを見る目が、2人は気になっていたのだ。


 嫌な予感がしていたので、恐る恐る、ウィルリーンに声をかけてきたのだ。


「そうだったな。 でも、この剣は、今、ヴィラレットを、持ち主と認めてくれたんだ。 試し斬りは、これまでってことかな」


 そのウィルリーンの言葉に、残った2人は、かなりがっかりして、愚痴るように答える。


「「そんなぁ」」


 悲しそうな顔をするフィルルカーシャとシェルリーンが、ウィルリーンに文句を言う。


「私達も試してみたいです」


「そうです。 わたしは、身長を補うために、柄を長くしているだけで、基本は、その剣と一緒です。 そんなに斬れ味の剣が、出来るなら、わたしにも使えるはずですぅ」


 シェルリーンは、弓の達人だが、接近戦になれば剣も使うので、使い勝手の良い剣は欲しいと思うし、重さが減って、今の剣と同等かそれ以上の剣となれば、使い心地を知っておきたいようだ。


 フィルルカーシャは、ウサギ系の亜人なので、身長が無い分を柄を長くすることで、間合いを補っている。


 一般的には、薙刀に近い剣となっている。


 薙刀は斬り付けるので、剣の斬れ味が良い細身の剣は薙刀の取り回しに影響する。


 今より軽く出来るので有れば非常にありがたい技術なのでなんとしても確認をしておきたい。




 その2人の嘆願に困った表情のウィルリーンが、ヴィラレットを見る。


「これからは、ヴィラレットの判断だな。 ほら、見てみろ」


 そう言って、ヴィラレットを見ると、新しいおもちゃを買ってもらった子供のように、太刀を眺めては構えてみたり降ってみたりして、うっとりとしている。


「ほら」


 うんざりしたようにヴィラレットを指差すウィルリーン。


「お願いして、試し斬りさせてもらうんだな」


 ヴィラレットを見る2人は、太刀を嬉しそうに眺めたり構えたりしているヴィラレットにむかって歩み寄る。


「「ヴィラレット、お願い。 私達にもその剣を使わせてください」」


 潤んだ瞳で両手を胸の前に握って、真剣にお願いする。


 しかも、何も打ち合わせをすることなく、一字一句異なることなくハモった。


 ヴィラレットは、その声に気がついて、振り返ると、2人だった事に驚いたようだ。


 視線が、2人の顔を交互に覗いていた。


 剣に気を取られていたので、完全にハモってしまったので、1人だったと勝手に脳が判断してしまったようだ。


 気がついたヴィラレットは、2人の真剣さにビビってしまい、一瞬、どうしたものかと悩んだようだが、2人の顔が絶対に断らないでと訴えているので、その気迫に押されてしまったようだ。


 すると、恐る恐る、剣を下に向けて、峰を2人の方に向けて差し出す。


「どうぞ」


 そう言って、剣を2人の前に差し出した。


「「ありがとう」」


 そう言って、2人が、同時に右手を出して受け取ろうとして、手が当たった。


 フィルルカーシャとシェルリーンはお互いを睨みつける。


 どちらも自分が先だと目で主張している。


 やれやれと、ウィルリーンが、助け舟を出す。


「これだから、刃物を扱う連中は困るんだよな。 2人とも順番で揉めるんじゃない」


 そう言って、銅貨を1枚出して、2人に見せる。


「これで順番を決める。 表が出たらフィルルカーシャ、裏が出たらシェルリーンが先な」


 銅貨をそれぞれに見せて、表と裏がどちらなのかを確認させ、お互いに納得させた。


「じゃあ、始めるぞ」


 そう言って、親指でコインを空中に弾いて、落ちてきたところを右手で掴み左手の上に乗せる。


 その状態でウィルリーンは、フィルルカーシャとシェルリーンの目を見て確認する。


「どっちが先でも文句は言うなよ。 それに何方にも試し斬りはさせてやるのだから、順番ぐらいで揉めるな」


 そう言って、右手を開けると、裏が出た。


「よっしゃぁ」


「うーん」


 喜ぶシェルリーンがヴィラレットから太刀を受け取る。


「全く、歳の割に大人気ない」


 ウィルリーンがぼやくと、ジロリと睨むとにシェルリーンがウィルリーンに質問する。


「何か言った?」


 シェルリーンは、長命なエルフなので見た目は、人属の19歳程度なのだが、実年齢は59歳となる。


 そのため、このメンバーの中では、3番目に年上なのだ。


 見た目なら、新人のヴィラレットの16歳を考えると年齢的にたいした差が無いように見えるのだ。


 ウィルリーンとすれば、遥かに年上なのだから、もう少し大人の対応をしてほしいとでも思ったようだ。


「いえ、何も。 それより、後がつかえているんだから、ちゃっちゃと、試し斬りして。 それと皆んなも少し下がるよ」


 そう言って、フィルルカーシャとヴィラレットと一緒に後ろに下がって、振り返ろうとすると、シェルリーンの気合の入った声が聞こえてきた。


「はっ!」


 3人が下がりきる前にシェルリーンは、ヴィラレットが斬った棒に斬りかかっていた。


「もう、せっかちなんだから。 まあ、その方が早く終わっていいわ」


 ウィルリーンが、シェルリーンの試し斬りを見てぼやく。


「ひゃーっ。 何、この斬れ味、羊皮紙でも斬ってる位じゃないの。 世の中に、こんな剣が有ったなんて、シンジらんない」


 はしゃぐシェルリーンを、なんとも言えない顔でウィルリーンは見ていると、フィルルカーシャが、シェルリーンの方に歩いていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る