第23話 ヴィラレットの剣技
ヴィラレットは、剣をじっと見つめると、剣の曲がりが、手元と中央、そして切先の方で、微妙に曲がりが異なる事に気がついた。
切先の方は、わずかではあるが、中央や手元と違って、曲がり方がそれ程強く曲がってない。
(曲剣といっても、曲がりが、どこまでも一緒ではないのね。 これは作った時のバラツキなのかしら、それとも、カインクムさんに何か思惑があったのかしら?)
視線が、切先から中央へ、そして、もう一度、切先へ戻ると、今度はゆっくりと、手元まで、視線を動かして、剣のしなり方を確認していた。
(不思議だわ。 なんだか、引き込まれる。 剣が、なんだか、語りかけてくれてるみたい)
ヴィラレットは、真剣に剣を眺めている。
時々、裏返したり、刃を自分の方に向けたりしている。
それを見たウィルリーンは、ヴィラレットが、手に持った剣と、無言のやりとりを行っているように見えたのだろう。
(ヴィラレットたら、まるで剣と会話しているみたいだわ。 きっと、あれが、達人の域に達した技を持つ人にだけ分かる、剣が語ってくれるって言うことかもしれないわね)
ウィルリーンは、ヴィラレットが剣を見る姿を嬉しそうに見ている。
「ヴィラレット、その剣は、あなたと一緒になりたいと思っているのよ。 だから、あなたの持つ最高の技をその剣に託してみなさい。 きっと、あなたの想いに、その剣は答えてくれるわ」
ウィルリーンの言葉に、ヴィラレットは、何度も視線を動かして、剣の様子を見つめていたが、迷いが吹っ切れたような顔をすると、試し斬りの場所に移動する。
ヴィラレットは、間合いを合わせてから、剣を右肩の前に立てた状態で両手で持った。
そして、右足を前にし、足を左右に擦りながら、わずかに間合いを前に動かしていた。
その微妙な間合いの調整によって、刃のどの部分を使うのか、自分が決めた位置で目標物を斬るようにしているのだ。
足元が決まったところで、ヴィラレットの体は、完全に動きが止まった。
すると、一瞬、切先を後ろへ、剣を右肩で軽く背負うようにし、少し体が浮いたと思った瞬間、一気に袈裟斬りに斬り込んだのだ。
しかし、ヴィラレットの動きは、それだけでは終わらなかった。
足がわずかに前に出て沈むようにして、振り込んだのだが、振り下ろした剣が左下に落ち切る前に、刃が180°回転すると、今度は、一気に返した剣が、斜め右に斬りあげられた。
振り下ろした軌道を、元に戻るように斬りあげられる。
だが、その時に剣が斬った時の音が、二つ有ったように思えたのだが、二つ目の音には、何か違和感のような、なんとも言えない、一つ目の音とは違う音が混ざったように聞こえたのだ。
一瞬に2度斬りつけたが、一般の人の目には、早すぎて、何が起こったのかわからない速度での剣の動きだったのだ。
何気に見ていただけだと、右肩から振り下ろしたのを見たのだが、直ぐに、刃が外を向いて、右肩の前に剣が立っているのだ。
振り下ろしたと思っていた剣が、構えた時と、ほぼ同じ状態で残って見えている。
知らない者が見たら、何がどうなったのか分からなかっただろう。
しかし、ヴィラレットには、手応えがあったのだ。
その証拠に、とても満足したような表情を浮かべている。
そして、地面には、斬った棒が落ちているのだが、その数を確認すると、3個有る。
落ちた木切は3個有る。
それを見て、ウィルリーンが口笛を吹いた。
ウィルリーンは、ヴィラレットの持つ技は、一般の冒険者以上のものがあると、以前から思っていたのだ。
しかし、ヴィラレット自身が、経験の少なさから、自信が無いように思っていると、ウィルリーンには映ったのだ。
その、自信の無さが、ヴィラレットの本領が発揮されてないと、ウィルリーンは、感じていたのだ。
ウィルリーンはヴィラレットの実力が、発揮されて無かったのは、剣にも影響があると考えていた。
自分の剣技に馴染む剣というのは、多くは無い。
冒険者は、剣を折ってしまった時は、同じような剣を探して使うのだが、それは、同じような剣の方が、馴れやすいからなのだ。
どんなに同じ剣でも、人が作る剣なので、同じように作ったとしても、バランスが微妙に違ってくる。
それを人は素振りをしたり、試し斬りをして体に馴染ませる。
しかし、ヴィラレットは、自分が教えられた剣技とは、明らかに違う剣を持っていたと、ウィルリーンは、思っていた。
しかし、それは、カインクムの剣が、ヴィラレットの剣技にマッチする剣に仕上がっているのだと、今の剣技を見て実感させられた。
「やっぱり、思った通りだったわね」
ヴィラレットは袈裟斬りに斬った後に、戻す剣で斬り上げていたのだが、その際に落ちてきた棒と、固定された棒を斬り上げた剣で一緒に斬ったのである。
その為、地面には最初の一撃で斬った棒が地面に落ちる前に、戻った二撃目の刃が、落ちてきた試し斬りの棒を、二撃目が捉えていたのだ。
その捉えた棒が、残っていた試し斬りの棒に当たって、そのままの状態で、二つの棒を斬ってしまったのだ。
一撃目に切り落とした棒を二撃目で、更に二つに斬られ、同時に台座に残っていた試し斬りの棒も斬っていたのだ。
それが、地面には木切が3つ落ちている理由となる。
その地面に落ちている3つの木切をウィルリーンは見て、ヴィラレットに話しかける。
「ほら、あなたの持つ力に、剣が答えてくれたわ」
それが、ヴィラレットに聞こえたのかどうかは分からなかった。
ヴィラレットは、剣をジーッと見ている。
そんな、ヴィラレットに近づくウィルリーンは、剣の使い心地を聞く。
「どうだった」
ウィルリーンが、優しい顔で尋ねると、ヴィラレットは、久しぶりに出会った姉妹のような目で、手に持った剣を見て答えた。
「とても手に馴染んで、わたしの手が伸びてくれたようでした」
ヴィラレットの答えで、この剣もヴィラレットに使ってもらって喜んでいるように、ウィルリーンは感じたのだろう。
「その剣も、あなたに使ってもらいたいって言っているのかな」
ニッコリと笑って、ウィルリーンが答えると、ヴィラレットは、剣を見てうっとりしている。
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