第26話 商談

 

 カインクムの店の中に向かう際、ウィルリーンは、一つだけ気になることがあった。


 ウィルリーンは、気になることを、ヴィラレットに小声で語りかける。


「おい、中に入ったら直ぐに支払いを済ませられるか」


 おどおどとするヴィラレットが、何事かと思っていると、ウィルリーンは、理由を説明し始める。


「リーダーの、あの様子だと、お前の持っている剣を、自分が買うと言いかねない。 そうならない前に購入しておけ。 それより、お金は足りるのか」


「ええ、銀貨3枚なんて破格な値段ですから、問題無いです」


「そうか、じゃあ、私もフォローしてやるから、早めに決めるんだぞ。 それと、この前の短剣はどうするんだ」


「それも買い取らせてもらおうと思っております。 今日、ここに来れたのは、あの短剣のお陰ですから」


「そうか、もし、足りないようなら言いな。 その代金が、足りない分を貸しておくから」


 そんな話をしていたおかげで、2人は、家に入るのが遅れた。


 それを見た、シェルリーンが、2人を気にしていた。


「どうかしましたか? 皆さんもう中に入ってますよ」


 慌てて、ウィルリーンとヴィラレットが家の中に入る。




 店のテーブルには、先に入ったメンバーが、椅子に座っており、試し斬りをしている間に、店番をしていたフィルランカが、お茶を渡していた。


 カインクムは、入口のドアに、「閉店」の看板を掲げて、戻ってきたところだ。


「よお、嬢ちゃん。 遅かったな」


 ヴィラレット達に声をかけると、ウィルリーンが、ヴィラレットの肩を叩く。


「あの、ご主人、この剣の代金をお支払いしたいのと、そのー、この前の短剣なのですが、こちらも購入させて頂きたいのですけど」


 ヴィラレットの話に、カインクムは、あまり、いい顔をしない。


「嬢ちゃん、その短剣で良いのか」


「レイビアが、折れてしまった時、この短剣が無かったら、私は、今ここには居なかったと思います。 レイビアが折れた時、咄嗟にこの短剣を突き出した事で、向かってきた魔物を倒すことができました。 なので、この短剣が有ると、次も生き残れるような気がするんです」


 困った様な顔をするカインクムなのだが、本当の話をするべきかと思ったのだろう。


 ため息を一つ吐くと話を始めた。


「嬢ちゃん。 その剣なんだが、俺が一番最初に作った剣なんだ。 若い頃に師匠の目をごまかして作ったので、剣としては、3流以下の代物なので、見た目だけ剣の形をしている程度なんだ。 だから、実用には向かないと思うが、嬢ちゃんのレイビアが折れた時の緊急用として渡しておけば、折れたレイビアを持って俺の所にまた来るだろうと思って渡したんだよ。 だから、持っていても使い物にならないと思うんだ」


 カインクムは、本音をヴィラレットに伝える。


 商売のためのアイテムとして、呼水の様に使うために渡しておいたのだ。


「でも、ご主人が、この剣を渡してくれたから助かったのは事実です。 私は、私は、……」


 そう言って、太刀と短剣を抱きしめている。


 困ったと思いつつ、頭をかくカインクムだが、思い詰めたようなヴィラレットを見ると、断る事もできそうもないと思ったのか、張り詰めた感じから、ゆっくりと力が抜けたようになって話だした。


「じゃあ、その短剣は、嬢ちゃんに譲ろう。 だが、その代わり、その短剣は御守り用に持つこと。 今後は、その短剣を抜く事と、剣として使う事は禁止する。 それと、万一用の剣を作ってやるから、今後、万一の時は今度作った剣を使う。 それで良ければ、その剣は嬢ちゃんにあげる」


 思ってもみないカインクムの提案に、喜んで良いのか、ただで短剣を貰っても良いのか、迷う感じにしていると、お茶を配り終わったフィルランカが、助け舟を出す。


「御守りとして貰ってあげてください。 この人、若い人には、結構甘いんですよ。 でも、言われたとおり、御守りとして持つだけにしないと、今度は、その短剣が貴女の命を奪うことになるかもしれませんから、言われた事は必ず守ってくださいね」


 目を潤ませているヴィラレットが、フィルランカの言葉にお礼を言う。


「ありがとうございます」


 ただ、そのお礼を聞くと、ちゃんと商売人としての話をする。


「でも、後から作る短剣は、ちゃんとお代をいただきますから」


 笑顔で答えるフィルランカをみて、しっかりしている奥さんだと、メンバー達は思ったようだ。




 短剣の話が済むと、ヴィラレットが、懐から皮袋の財布を出して、銀貨3枚をカインクムに渡した。


「確かに受け取った。 それじゃあ、今後は、その剣の使い心地や使った時の状況とかを教えてくれ」


「はい」


 短剣の件と太刀の支払いを済ませると、ウィルリーンが、ヴィラレット以外が、自分の剣の話をしたくてウズウズしているのを、調整するため、カインクムに次の話に移らせようとする。


「ご主人、大変申し訳ございませんが、あちらで、他のメンバーが痺れを切らせているので、そちらの対応もお願いできませんか」


「ああ、すまんかった。 直ぐにはじめよう」


 そう言うとテーブルに着く。


 ヴィラレットも続いて席につくが、カインクムの正面の席は、ユーリカリアとウィルリーンが座っていた。


 剣を作る順番について話し出すと、長くなってしまうので、最初にそれぞれの要望を聞くことになった。




 ユーリカリアは、戦斧を使っていた事もあって、もう少し重い物をを希望した。


 長さは、ヴィラレットの物より少し短めにという事だったので、刃幅を少し厚めにして、長さは刃渡り65センチ、刃幅を8センチとした。


 それと、柄は戦斧時の事もあるので、50センチ程度欲しいとのことだった。




 フェイルカミラは、今回の試し斬りした剣をそのまま、10センチ長くして刃長を90センチ。


 柄の部分も手が大きいので、柄を40センチで握りの部分も太くして欲しいと要求を出した。


 ただ、長くなった分、刃幅は、様子を見ながら数ミリ広くする可能性が有るとカインクムはフェイルカミラに伝えていた。


 その調整にフェイルカミラも納得していた。




 フィルルカーシャは、今日の剣をそのまま槍の柄を付けて欲しいので、今日の剣の手元の部分を伸ばして柄を長くするようになった。




 シェルリーンは、通常は弓を扱うのだが、接近戦になってしまった時用なので、可能な限り取り回し易い事が重要になるとの事で、刃渡り70センチ、刃幅4センチ、柄長25センチとなった。




 ウィルリーンは、共に刃幅も柄長も今日のものと同じ物を希望した。


 ただ、柄はウィルリーンは、50センチと少し長めを希望した。




 カインクムは、その内容を聞いて、石板に、それぞれの内容を書き留めていった。


 そして、1人1人、別々の石版に書いていくのだった。

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