魔法紋付与
第27話 取り乱すウィルリーン
カインクムが、5枚の石板に、ユーリカリア達の、それぞれの剣の要求を書くと、その石板を、隣にいるフィルランカが、大事そうに受け取って、カインクムが書いた内容が、擦れて消えないように、注意しながら、その石板を保管していった。
最後にもうひとつの石板に、ヴィラレットに合いそうな短剣を考えて、簡単な絵と寸法を入れていた。
ヴィラレットは、カインクムの試作品の剣のモニターをする事を条件に格安でその剣を購入していた。
その剣の性能を生かすために、カインクムが、主導してヴィラレットの補助に使う短剣についてまとめていた。
その横で、フィルランカは、カインクムの書いた石板を持ちつつ、カインクムが何か必要なものがあれば、すぐに用意するつもりで横に座っていたのだ。
そんなカインクムとフィルランカの、仲の良い連携を見つつ、ウィルリーンが相談を持ちかけた。
「ご主人、この剣なのだが、魔法紋を付与させてはもらえないだろうか。 魔法紋付与のスクロールはこちらで手配するし、付与は私が行うようにする」
カインクムは、持っていた石板に書いていた手を止める。
魔法紋と聞いて、シュレイノリアが魔法で描いていた事を思い出して、つい、聞いてしまうのだった。
「嬢ちゃんは、魔法で魔法紋を描けないのか」
「エッ!」
カインクムが、なんの気無しに言った一言にウィルリーンは驚いていた。
今まで、魔法で魔法紋を描くなんて話を聞いた事が無かったので、そんな魔法が世の中に有るわけが無いと思ったようだ。
そう思っていたため、ウィルリーンは、思わず声が出てしまったのだ。
「まさか、世の中にそんな事の出来る人なんて聞いた事が無いです。 もし、そんな事が出来る人が居たら、依頼なんて放ったらかして、その人の家の前で座り込んででも、教えてもらいますよ」
あり得ない話だと、相手に出来ないといった感じで、ウィルリーンは答えた。
カインクムには、自分ができた程度の魔法なのだから、ウィルリーンのような大魔法使いなら簡単かと思って話していたのだ。
「そうなのか、でも、俺、それ教わったら出来るようになったぞ」
カインクムの話に、ウィルリーンが血相を変えて、椅子から立ち上がり、座っていた椅子が後ろに倒れるのをかまいもせず、顔をカインクムに近づける。
「あり得ません。 魔法については、私の師匠に、お墨付きを頂きました。 その師匠は、国の魔法指南も行なっていたと聞いてます。 その師匠からは、もう、お前は世の中の魔法を全て覚えたと、太鼓判を押されました。 その後は、魔法に関する事の情報にも、お金を掛けて集めてますから、その私の知らない魔法を、貴方が知っているのですか。 そんな事がありえるとお思いですか。 出来るなら今ここで、その魔法紋を魔法で描いてみていただけませんか」
今まで温厚で、メンバーの揉め事の仲介もしてくれていたウィルリーンが、豹変したのにカインクムは驚いたようだ。
そして、鼻が触れそうな位まで、顔を近づいている事にも驚いていた。
「分かった。 じゃあ、やってみせるから、ちょっと、顔近い、こっちは嬉しい、け、ど」
カインクムが書いた石板を大事そうに持っていた、フィルランカだったのだが、要望を書いた石板は、丁寧にい重ねてフィルランカの前に置いてあった。
そして、今は、震えながらカップを持ち上げていた。
横をちらりと見たカインクムなのだが、そのフィルランカの引き攣った笑顔と、震える手が、フィルランカの怒りを表現していたと思ったのだろう、カインクムは、青い顔をして、ウィルリーンから離れようとしていた。
そんなカインクム達の様子を見たヴィラレットが、ウィルリーンを制するようにしてカインクムから顔を遠ざけた。
「すみません。 この人、魔法の事になると、人が変わってしまうので、悪気は無いんです」
ヴィラレットが、そう言ってウィルリーンを引き離すと、ユーリカリアが、フィルランカにも詫びを入れた。
「ご主人、本当に申し訳ない。 それに、奥さんにもすまない事をしました」
フィルランカは、引き攣った笑顔をユーリカリアに向けて、表面上は、何でもない様子を装っていた。
しかし、カインクムとしたら、言ってしまった手前、魔法紋付与の魔法を、本当に見せなければならないと思ったようだ。
カインクムは、直ぐに表情を元に戻した。
「いやいや、こちらこそ、それより魔法紋の付与方法だが、俺も教わったばかりで使えるのは、2個だけなんだ。 だから、もし、この魔法の嬢ちゃんが出来るようになれば、あんたらの思った通りの魔法紋を、この嬢ちゃんに、描いてもらえればいいんじゃないかと思ってな」
そう言うとカインクムは立ち上がって、店の中を見回して何かいいものはないかと探していた。
その態度をウィルリーンが、うらめしそうに睨みつけいた。
ウィルリーンとしたら、カインクムが言っていた、魔法紋を付与する魔法が、存在するとは思ってないのだ。
そんな思いから、ウィルリーンは、カインクムを睨みつけてしまったのだ。
横にいるヴィラレットが、ソワソワしながらウィルリーンを見て、直ぐにでも止めに入れるように身構えて声をかけた。
「落ち着いてください」
時々、繰り返すようにウィルリーンの耳元で、そう囁いていた。
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