第5話 カインクムの後ろに見えるジュネスの影
ユーリカリアは、カインクムの仕事の相手が、ジューネスティーン達じゃないかと、薄々、感じている様子で、カインクムに話しかけていたのだ。
カインクムは、ユーリカリアの質問の意味がわかったのか、心の中で焦っていたのだ。
(おい、ユーリカリアのやつ、随分と絡んでくるな。 あまり、追求するなよ)
カインクムは、何かを考えている様子で、ユーリカリアの質問に答える。
「それは判らない。 俺は鍛冶屋だから、冒険者がどんな仕事をしたのかは興味が無いんでな」
否定ではなく、分からないとカインクムは言った。
カインクムは、倒した魔物については、ジューネスティーン達から聴いてはいなかったのが幸いした。
この質問には、正直に答えられたのだ。
(そうだった、カインクムは鍛冶屋なんだから、その答えも有りだ。 じゃあ、直接、ジュネスの名前を出す? いや、それは早計だ。 話の感じからジュネス達だと思える。 最近、帝国に来た新人の中でカインクムの眼鏡にかなうなんて、あいつら位だ。 これは、もっと調べておく必要が有りそうだ)
ユーリカリアは、何かを考えていた様子だったが、直ぐに、カインクムに社交辞令的な話をする。
「そうか。 あんたの眼鏡に叶う新人なら会ってみたいな。 すまんが、今度機会を作ってもらえないか」
相手が、ジューネスティーンの可能性が高いと、ユーリカリアは思いつつ、それなら、カインクム経由で会うのも良いかもしれないと思ったのだろう、カインクムにジューネスティーン達と、会う機会をお願いしてみたのだ。
(ちょっと待てよ。 ユーリカリアのやつ、こっちの事情も知らずに、図々しい事を言ってくる。 それができるなら、お前達に、紹介してもいいと思うんだ。 だが、こっちにも事情というものがある。 ジュエルイアンから、ジュネス達との接触は、他人に知られるなと、口止め料までもらっているんだ。 そんな、簡単に合わせるわけにいかないんだよ)
カインクムとすれば、いい迷惑だったのだ。
帝国内でカインクムとジューネスティーン達との接触を知られる訳にはいかないのだが、ユーリカリアが、なんとか聞き出そうとしてくるのだ。
そうなると、ユーリカリアに、差し障りの無い様に答えるしかないのだ。
「まぁ、あんたらなら安心だ、今度会ったら話してみる」
カインクムは、冷や汗が出る思いだったようだ。
(これなら、この場も凌げるし、次に今の話がどうなったか、聞かれるまでは、時間が稼げる)
ジューネスティーン達は、直接、カインクムの店に入る事は無いので、これから先は、カインクムとの接触していることを知られる事はない。
よって、ユーリカリアは、ジューネスティーンとカインクムが、接触している事を知る事はできないのだ。
なら、次に聞かれた時は、まだ、会ってないので、話ができてないでも通ってしまう。
一方、ユーリカリアは、ここで、面白い話を聞けたと思ったのだろう。
カインクムと会う前より、清々しい顔をしている。
ただ、そんな事より、ユーリカリアは、本題に入らなければと思ったのだろう、顔つきが少しだけ真剣になった。
「その話は、よろしく頼むよ。 それより、今日は、この後どうなっているんだい?」
ユーリカリアは、カインクムを引き留めた本題に入ると、カインクムは、ジューネスティーンの話から逸れたと思ったようだ。
内心、ホッとしているのだが、表情に出さないようにしていたのだ。
「今日は、店に戻るだけだ」
ユーリカリアは、カインクムに、今日は、大した用事がないと思ったので、安心して、自分の要件を伝える。
「それじゃあ、すまないが、一つ、武器を見てもらえないか。 できれば、ちょっと、手入れもして貰いたいんで、後で寄っても良いか」
「あぁ、この後なら問題は無い。 後は、飯を食って寝るだけだ」
それを聞いて、ユーリカリアは、少しイタズラ心を出したようだ。
顔が少しにやけている。
「それは、ちょっと、すまなっかったな。 若い美人の奥さんの手料理なら、帰って、直ぐにでも食べたかったな。 それに、奥さんは、料理の腕もいいって、評判だそ、この前、食堂の奥さんが、料理について教わったって聞いたぞ。 それに、昔から味に定評のある店の常連だったらしいじゃないか。 料理上手で、舌もこえているんだから、お前さんは幸せ者だな」
ユーリカリアは、少しからかったつもりだったのだが、カインクムは、かなり赤い顔をしている。
そして、冗談で済まそうと思っていたのだろうが、カインクムの言葉は、違っていた。
「あっ、フィルランカを褒めてくれて、ありがとう。 あいつも、ユーリカリアが、褒めてくれたと話したら、喜んでくれると思う」
ユーリカリアは、冗談のつもりで、話したのだが、カインクムは本気で答えた。
そのカインクムを見て、これ以上、フィルランカの話をしたら、恥ずかしさから、真っ赤になって、茹で蛸のようになってしまいそうだったので、ユーリカリアは、少し戸惑った様子で、話を切り上げてきた。
「それじゃあ、ギルドの用事が済んだら寄らせてもらうよ。 じゃあ」
そう言って、ユーリカリアは受付の方へ、横にウィルリーンが寄り添うようにして歩いて行った。
それを見て、カインクムはギルドを出て自分の家に向かった。
ウィルリーンは、ユーリカリアに、少し強い口調で話しかける。
「ダメですよ、カインクムにフィルランカの話なんて。 帝国一のデレデレ夫婦って噂だってあるんですから。 親子ほど離れていて、もう4年も経つのに新婚夫婦のままだって話なんですよ。 カインクムの前でフィルランカの名前を出しただけで、メロメロになるって話も聞いたことがあります。 これからは、気をつけてください。 大事な鍛冶屋さんなんですから」
ウィルリーンは、大事な鍛冶屋と疎遠になる事を気にしていたのだ。
ウィルリーン自身は、魔法職なので、武器を使うことは少ないが、ユーリカリアを含めた5人が、何らかの武器を使っている。
カインクムのように腕の立つ鍛冶屋を、余計な一言で、怒らせてしまって、出入り禁止にでもなってしまったら、たまったものではないのだ。
武器の手入れはするにしても、時々は、鍛冶屋に手入れをしてもらうこともあるのだから、カインクムと疎遠になることは、副リーダーとして見過ごすわけにはいかないのだ。
「ああ、さっきの態度を見て、カインクムをフィルランカのネタで揶揄うのは、やめることにするよ。 まあ、お前に、カミュルイアンの話をするようなものだからな」
それを聞いて、ウィルリーンも顔を赤くする。
ウィルリーンは、出会える可能性を諦めていた、男性エルフであるカミュルイアンに出会えて、自分にも子供を宿す機会に恵まれたのだ。
接触して、その日のうちに、同じエルフのメンバーであるシェルリーンと一緒に部屋を取って、お互いに種を分け合ったのだ。
ウィルリーンとしたら、久しぶりの男性エルフだったのかもしれないが、そんな話には、慣れてないのか、ユーリカリアに、カミュルイアンの名前を出されると、恥ずかしそうに顔を赤くしていた。
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