新たな剣を試す候補者

第4話 ユーリカリア


 カインクムは、ジューネスティーン達のパワードスーツについて、組み立て完了の連絡を、ジュエルイアンに伝えるため、ギルドの通信装置を借りて、連絡をつけた。


 ジュエルイアンとの通信が終わって、ギルド、ツ・バール支部の建物のロビーに出る。


 通信施設を使うにしても、ギルドの受付を通して行うので、鍛冶屋のカインクムでも、ギルドのロビーを通るので、冒険者と顔を合わせる事になる。


 そんな中を、カインクムは、歩きつつ、ロビーの冒険者の顔を確認していく。


 自分が作る、新たな剣、ジューネスティーンから教示してもらった、2種類の素材を使った剣を試してもらえそうな冒険者を値踏みしつつ、ロビーを移動していく。




 人で蔓延しているロビーには、冒険者が、今日の上がりを換金する者と、換金待ちで、持て余した時間を、他のパーティーと情報交換や無駄話で盛り上がったりしていた。


 数年前なら、カインクムとフィルランカの話で盛り上がっていたのだが、今のギルドでは、そんな事もなく、別の話で盛り上がっている様である。


 そんな冒険者で、混雑している中を、カインクムは、縫う様に歩いていると、ユーリカリアが声を掛けてきた。


「よお、カインクム、今日は、店が休みだったみたいだが、何かあったのか」


「あぁ、店と言うより工房に入っていた。 その時は、多分、フィルランカが、買い物に行ってたんだろう。 最近、遊びに来る人が多かったから、不足してきた食材とかの買い出しに出てたんだろう」


 カインクムは、思わず、工房に入っていたと言ってしまった事を後悔したのだ。


 その時の工房には、ジューネスティーンが居たのだが、ユーリカリアだった事で、警戒心が低かったのだろう、思わず、工房に居たと言ってしまったので、慌てて、休みの理由をこじつけたのだ。




 カインクムとしては、フィルランカの話は、他人と、話したくは無いのだが、ジューネスティーンの話を、人前ですることができないので、工房にいた話を、何か別の事に振らなければならないと考えたのだろう。


 それが、フィルランカの買い物になってしまった様だ。


 そう言って、工房にいた時の話の内容を逸らそうとした。


 しかし、ユーリカリアは、嫁のフィルランカの買い出しより、工房に入っていたという言葉に反応していた。


 カインクムの、押し掛け女房の話は、この帝国ではよく通っている。


 娘の友達が、友達の父親の押し掛け女房になって、娘を追い出した。


 ただ、現在では、その噂話も下火になっているので、カインクムを、そういった目で見る人は少ない。


 娯楽に飢えた帝国臣民にとって、その手の話は娯楽の一環として、飲み屋でのサカナ、婦人たちの井戸端会議の話題となって尾鰭がついている。


 ユーリカリアもカインクムとフィルランカの話は、酒場などで聞かなくても隣の話が耳に入ってくるので、何度も聞いてい知っているのだ。


 その話を直接、本人から聞く事は無いが、店で歳の離れた仲の良い夫婦にしか見えないので、話の真相を聞く必要は無いと思っているのだろう。


 むしろ、ユーリカリアとしては、その話を聞いた事で、店に入り辛くなることの方が問題なのだ。


 これ程、腕の良い鍛冶屋は、帝国でも多くはない。


 腕の立つ鍛治師は、帝国の旧市街に多いので、ギルドのある新市街から離れている。


 ギルドと自分の宿から、それ程離れていない場所に、腕の良い鍛治師が店を構えているのは、直ぐに、武器や防具の相談にのってもらえるので助かっている。


 そのメリットを、自分から手放すつもりも無い。




 ユーリカリアは、カインクムの、工房に入っていたと、いうことに反応したのだ。


 鍛治師のカインクムが、工房に入っていたということは、何か新しい物を作っていたのだと判断できる。


 工房で、何を作っていたのかが、ユーリカリアには興味をそそられたのだ。


「って事は、新しい装備の開発か何かか」


 カインクムは、話を逸らすことに失敗した。


 女性のユーリカリアなら、嫁のフィルランカの名前を出せば、そっちに気を取られるかと思ったのだが、なかなか思った様にはいかなかった。


 そのためなのか、少し間を置いていた。


「いや、今日は、新しい客の装備の手伝いだったんだ。 それで、店は休みにしていた」


(ジューネスティーンの名前は出せない)


 カインクムは、言葉を選びながら話しをしているようだ。


(お得意様のユーリカリアだからな。 下手な嘘で、信頼を落とすわけにはいかない。 このタイミングでは、会いたくは無かった。 しかし、会ってしまった以上、それなりの対応はしないとまずいな。 ここは、慎重に言葉を選んで、話を濁しておくしかないか)


 カインクムは、慎重にユーリカリアへの対応に迫られていた。


「へー、その新しい客は、あんたに仕事を頼むのだから、それなりの名が知れたパーティーなのか?」


 カインクムは、少し困った顔をする。


(ちっ、余計な事に頭を回す)


 心の中とは裏腹に、顔には、思っている事は出さない様にしているのだろうが、わずかに顔が引き攣っていた。


 だが、お得意様のユーリカリアとあらば、答えない訳にはいかない。


「いや、駆け出しだ。 恩義のある知人に頼まれたので、それで手伝ったんだ。 それに、初めて見る顔だった」


 それを聞くと、ユーリカリアも、その話が気になったようだ。


(恩義のある知人が誰なのかは分からないが、帝国でも名のしれたカインクムに仕事を頼むとなれば、冒険者としてそれなりに腕は立つはずだ。 その駆け出しが、誰なのかは分からないが、……。 いや、ジュネス達か。 あいつ、カインクムへのパイプまで持って、帝国に来たのか)


 ユーリカリアも、何かを思ったようだ。


 少し顔つきが変わった。


「へー、あんたが手を貸すって事は、それなりに腕が立つみたいだな。 そう言えば、東街道の魔物を倒した、駆け出し冒険者パーティーが有ったって聞いたな。 ひょっとして、そいつらなのか?」


(ジュネスなのかは、この答えで分かる)


 カインクムは、ジューネスティーンたちのことを、ここで話すわけにはいかないのだ。


 今回の話には、ギルドも絡んでいるのだから、ギルドの中で、カインクムの口から、ジューネスティーン達6人の名前を出すことはできないのだ。


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