第3話 作る人、使う人
ジューネスティーンの剣を、鍛冶屋である自分が、作れたとしても、一つ問題があった。
それは、自分には、剣を作ったとしても、剣を振り回すだけで、試し斬り程度で終わってしまうのだ。
素人が振り回す程度の技量で、良い剣だと言っても、周りから見たら、細身のこの剣は、直ぐに折れる剣という評価を、見た目だけで与えられるだけなのだ。
鍛冶屋がどんなに進めても、実際にその剣を使って、魔物と命のやり取りをするのは、冒険者達なのだ。
鍛冶屋は、自分の剣を売りたいから、この折れやすそうな剣を薦める。
具体的な実績が無ければ、薦めても購入される事はない。
そうならないためには、自分の作った剣を、本物の剣士に使ってもらい、どれほどのものなのかを、はっきりさせなければ、店のショウウインドウで飾るだけで終わってしまう。
そんな事にならない為には、実績のある冒険者に評価をもらうことが、一番良い方法になる。
ある程度の、斬れ味については、自分でも、裏庭で試してみることは可能となるが、それは、ただ、試しただけで終わってしまう。
腕のいい冒険者に、実際に使った時の状況を確認してもらうことができれば、更にデータは増える事になるのだから、できれば、腕のいい冒険者に使ってもらって、話を聞く必要があるとも思っていた。
(誰か、作った後に、しっかりと、評価を教えてくれて、剣の評判を話してくれそうな冒険者を確保しておかなければいけないのか)
カインクムは、個人商店なので、そう、都合良くカインクムの話を引き受けてくれそうな冒険者と契約しているわけではない。
しかし、帝都のギルドには、試してもらうに丁度良い、上位ランクの冒険者がいる。
カインクムは、ジューネスティーンの持っていた剣と同じものを作り、その評価もできる人材を、ギルドの冒険者から選ぼうと思ったのだ。
カインクムには、2組のパーティーの顔が浮かんだ。
その2組のパーティーは、どちらもAランクのパーティーだった。
一つは、父・母・息子の親子3人と亜人奴隷のパーティーで、その夫婦2人の剣技が、すごいと言われているのだが、パーティーの評判の悪い。
もう一つは、亜人女性ばかりのパーティーで、剣を使うのは1人だけで、その剣を使う冒険者は、新人で経験も浅いと言われていたので、Aランクパーティーではあるが、剣を使うのではないことから、どれだけの評価と宣伝効果があるか未知数となる。
しかし、その亜人女性ばかりのパーティーは、帝都でも評判の高いパーティーなのだ。
そのどちらかのパーティーに使ってもらえたら、剣の評価は可能となる。
そして、高評価を得られれば、ジューネスティーンの剣は、直ぐに広まるとカインクムは考えた。
また、その曲剣は、自分の娘である、エルメアーナが、南の王国で作っていた事を、ジューネスティーン達から聞いた。
そして、南の王国で噂のよく斬れる剣の出どころは、娘のエルメアーナだった。
エルメアーナも、ジューネスティーンの剣を見て、この剣を作りたいと思い、作り方を聞いて、作ってしまったらしい。
それを聞いて、娘のエルメアーナも同じような事を考えたのだと、ホッとすると同時に、カインクムも娘に負けていられないと思い、自分も同じ剣を作ろうと決意したのだった。
しかし、ジューネスティーンと、カインクムは、簡単に会うことはできないのだ。
ギルドの密命があること、パワードスーツの秘密を帝国に知られてはならないこともあり、ジュエルイアンから、ジューネスティーン達と、表立っての接触は禁止されているのだ。
最初は、なんでそんなと思っていたのだが、リビングでジューネスティーンのパワードスーツを見て、そして、翌日、2台のパワードスーツの組み立てを行った時に思い知らされたのだ。
完成されたパワードスーツを確認して、そして、翌日、2台のパワードスーツの組立を行うこととなり、その細部にわたって、革新的な技術が詰め込まれていることに更に驚いた。
そこには、自分の知らない技術が満載していたのだ。
外装骨格だけでも革新的な考えだったのだが、体の各部の動きをスムーズにするベアリングの技術を見せつけられた。
それだけでも驚いたのだが、それ以上の自分の理解の及ばないような技術が、自分が見ても分からない技術が有るように思えたのだ。
また、実際の組み立てを行う時にも驚かされるものがあった。
組立作業についても、ジューネスティーンは、組み立て方法を指示するだけで、実際の作業は、カインクムが行ったのだ。
全てのパーツもだが、組立後、その組立工程が、全て頭に入っている。
工程のフローチャートが、しっかり、自分の中にあるので、全く、失敗することなく、作業は進められたのだ。
初めて見たものを、すぐに組立させられたことにも驚いたのだが、全くの素人でも、効率よく組み立てられる方法を指示した手際にもカインクムは、驚かされたのだ。
そして、1日で2台のパワードスーツを完成させてしまったことにも驚かされた。
カインクムは、ジューネスティーンとシュレイノリアの2人に出会えたことで、新たな技術に出会うことになり、大きな転機を迎えていたのだ。
そして、カインクムは、娘のエルメアーナに作れた剣について、自分も作ると決意を固めた。
しかし、ジューネスティーン達と接触できないとなると、試作した剣の評価がこまってしまう。
娘のエルメアーナは、ジューネスティーンに試作品の評価を行なってもらえたらしいのだが、カインクムには、それができない。
これは、最初から大きなハンデを背負う事になる。
剣の出来栄えの良し悪しを、ジューネスティーンに評価をしてもらえれば、問題点を教示してもらえるだろうが、カインクムにはそれが叶わない。
そうなると、腕の確かな人に試し斬りをしてもらって、その剣の様子を聞いたり、斬った後の刃の様子を確認するなどの試験を手探りで行う必要がある。
そして、その剣を宣伝するための方法に問題があった。
それは、ジューネスティーンの剣を見て、そして、作り方も聞いた。
しかし、ジューネスティーンとカインクムは、表立って会う訳にはいかない。
パワードスーツの組立作業となれば、来店することはあるが、カインクムから、新たに剣ができたから来てくれと、ジューネスティーン達には言えないのだ。
そうなると、試作した剣を試す人を、ジューネスティーン達以外に見つける必要がある。
また、刃幅3cmの斬るための曲剣ともなれば、帝都では出回ってないので、どんなに優秀な剣でも、受け入れられるまでに、困難な道のりとなる。
剣を受け入れさせるための宣伝も必要となるのだ。
その人選も必要となるので、娘のエルメアーナとは、悪い条件で、ジューネスティーンの剣を作る必要があった。
カインクムは、全ての問題をクリアーするために知恵を絞ることになるのだ。
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