第2話 ジュネスの剣


 カインクムは、送られた荷物の受取人である、ジューネスティーンが訪ねてくると、ジューネスティーンから、荷物の中身は、娘のエルメアーナが手がけている事を聞いた。


 4年も音沙汰なしの娘とは言っても、ジュエルイアンの商会経由でエルメアーナの話は聞いていた。


 だが、あれだけ物々しい警戒をしつつ、送られてきた箱の中身に、娘が関与したものが入っていると思えば、同じ鍛冶屋としてではなく、親娘として、師匠と弟子として、中身の確認をしたいと思ったのだ。


 そして、隣の道具屋から入る秘密の地下通路を使って、ジューネスティーン達を招き入れた。


 とりあえず、フィルランカに、お茶を振舞わせて、少し話を聞くことにしたのだが、その話の中に出てきた装備を見せてもらって驚いたのだ。


 カインクムの感覚では、体に纏う、フルメタルアーマーのような防具は、各パーツごとに分かれており、それを一つ一つ、体に取り付けていくのだが、ジューネスティーンの持っているパワードスーツは、人の形をしており、背中から簡単に出入り出来るようになっていた。


 それは、鎧の下に、人の骨格に連動した動きをする、外装骨格を有しており、その外装骨格に鎧を組み付けてある。


 外装骨格があることで、人が居なくても自立可能なのだと説明をされた。


 その腰には、細身の曲剣が取り付けられていたのだが、この大掛かりなパワードスーツには細身の曲剣だと鞘ごしに見る程度で終わった。




 だが、その後、ジューネスティーンの短剣を見ると、今まで見たことがない素材でできているように見えたのだ。


 それまで、ジューネスティーンもメンバー達も腰に付けている剣は、一般的な冒険者の持つような剣ではなく、細身の曲剣だったので、冒険者としては、大物を狩るのではなく、小型の魔物に特化した冒険者なのかと思ったのだ。


(帝都周辺で狩をするなら、そんな細身の剣の方が、都合がいいのかもしれないな)


 カインクムは、その時は、ジューネスティーン達の剣について、興味はそそられなかったのだが、短剣を見て剣の出来栄えに驚いたのだ。




 話を聞いて2種類の硬さの違う素材を貼り合わせて作っていると聞いて、剣の刃側と峰側とで、微妙な違いが有ったので、一瞬、どんな素材を使っているのか不思議に思ったのだ。


 ジューネスティーンから、説明を受けて、その微妙な違いが何なのか分かったが、軟鉄と鋼鉄のそれぞれの素材の良さを引き出す発想は、今まで聞いたことが無かったのだ。


 しかし、そのジューネスティーンの発想は、カインクムの心にとまったのだ。




 カインクムは、斬るための剣については、以前より、大いに気になっていた。


 斬るのなら、包丁で根菜類のような野菜を、輪切りにする斬れ味が欲しいと思っていたのだが、剣の性質上、斬るための剣は、そんな事にはならず、斬り口を潰すようになってしまっているのだ。


(斬る剣と言っても、斬るのではなく、叩き潰しているようだ)


 これが、カインクムの斬る剣に対する思いだった。


(斬り口が、スパッと斬れる剣を作ってみたいものだ。 それとも、もし、そんな剣があれば、拝んでみたいものだ)


 カインクムは、ぶっ叩くことで、斬ったような剣ではなく、本当に斬ることのできる剣に出会いたいと、常々、考えていた。


 そして噂に聞く、南の王国に、とんでもなく斬れる剣を売る店があると聞いた。


 隣の国だといっても、距離的にカインクムが、剣を買うからと、気軽に行けるような場所では無い。


 噂を確かめたいと思うが、その剣を持つ者が、帝国には居ないこともあり、カインクムには、確かめる手立てが無かった。


 カインクムは、ジュエルイアンから届いた荷物の受取人であるジューネスティーンが、持っていた剣を見て、そして金属を斬るところを見て驚いた。


 また、自分で、試させてもらって、さらに驚いたのだ。


 最初こそ、腰にさしている剣を見て、カッコつけの為の細身の曲剣だと思っていたのだが、持っていた短剣で試させてもらったことから、自分の求めていた曲剣、斬るための剣と理解した。


 そして、腰にさしていた剣を見て、斬る為の剣だと確信したのだ。




 細身の剣なのに斬る事に徹した技術に驚いた。


 通常の斬る剣と言っても、斬るために、剣に曲がりをつけるのだが、剣の刃に力が掛かることから、折れやすかったりする。


 そのため、斬る剣というのは、剣の幅が広く、剣の厚みも厚く作る事になるので、重量も増すのだが、ジューネスティーンの剣は、細く薄く作られていたのだ。


 一般的な硬い材料だけで、同じ厚みと幅で作った剣なら、硬い物を斬った時に、折れてしまう。


 折れないようにするなら、弾力を持たせるために、柔らかい素材を使う事になるが、そのような剣は、硬い物を斬った際に、折れるのではなく、曲がってしまう。


 それは、自分の鍛冶屋を始める前に修行していた時にも、師匠から言われた事だった。


 斬る剣を作るのなら、素材の硬度、剣の厚みや幅は、自分の経験と勘でみつけるしかないと、教えられたのだ。


 しかし、ジューネスティーンの剣は、違っていたのだ。


 その剣を、一眼見て、全く違う概念で作られていると、カインクムは、その剣から、感じたのだ。




 その剣について、ジューネスティーンに尋ねると、返ってきた答えは、2種類の素材をかぶせるようにして作られていると分かった。


『あぁ、それなら、ヤイバの部分の強度が硬くて、内部は柔らかくなっているんですよ。 斬る為には硬い方が良いのですが、それだと折れやすくなってしまいます。 逆に柔らかいと曲がってしまったり、刃こぼれし易くなりますので、柔らかい素材に、硬い素材で覆うように作っているんです』


 カインクムには、柔らかい素材と、硬い素材を使い、硬い素材を柔らかい素材に被せるという発想は、今まで全く無かった。


 一種類の素材を、形にすることで剣にしていたので、2種類の素材を使うなんてことは、考えられなかったのだ。


 剣の刃には、硬い素材を使い、剣の芯の部分に柔らかい素材を使う。


 硬い素材は、刃に向いているが、それは、折れ易いという欠点を持っていたのだが、剣の芯の部分に柔らかい素材を使うことで、その芯の部分が、衝撃を緩和させることで、その欠点を補って、折れにくく、曲がりにくい剣を作っていたのだ。


 カインクムは、そのジューネスティーンの剣の技術を、自分のものにしたいと考えた。

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