プロローグ
第1話 ジュエルイアンからの荷物
大ツ・バール帝国の帝都で鍛冶屋を営むカインクムは、ギルドが入っている第9区画に店を構えている。
カインクムは、南の王国の商人ジュエルイアン商会の頭取であるジュエルイアンとも面識があり帝都でも名の知れた鍛冶屋で通っていた。
それは、カインクムの鍛治の腕も優れていることもあるが、数年前に娘の友人であるフィルランカが、カインクムの押しかけ女房として後妻に入り娘であるエルメアーナを南の王国へ追いやったという話でも有名である。
しかし、そのフィルランカの押しかけ女房の話は、今では沈静化しつつありカインクムも腕の立つ鍛冶屋として第9区画のギルドの近くで店を営んでいた。
カインクムは、冒険者からの信頼も厚く自分の店を
そんな中、知り合いのジュエルイアンから新人冒険者の装備の面倒を見て欲しいと依頼があった。
ジューネスティーンと言う新人の開発したパワードスーツの組み立ての依頼を、ジュエルイアン経由で引き受けさせられたのだ。
本来なら、南の王国のギルドの高等学校を卒業した程度の冒険者なら、ギルドのランクも低いので、そんな新人冒険者の装備の組み立てなどは断ってしまうのだが、ジュエルイアンとは古くからの付き合いで娘のエルメアーナが、南の王国で鍛冶屋として生活できているのも、ジュエルイアンと、その秘書であるヒュェルリーンのおかげでもあり、そのジュエルイアンからの依頼となったら断るわけにはいかなかった。
そして、今の店舗への転居も、ジュエルイアンが全て手配してくれていた事もあり、親娘共々ジュエルイアンには恩が有る。
そんなことで、世話になっているジュエルイアンの頼みという事もあり、断るわけにもいかず、仕方なく南の王国のギルドの高等学校を卒業した程度の新人の世話を引き受けた。
特に帝都周辺の魔物は攻撃力はそれほど高くはないが、敏捷性が高く高速で移動して急所である首筋に牙を入れるので有名だ。
新人は、その敏捷性に対応できずに一瞬にして倒されてしまうと言われているので、帝国国内で冒険者を目指す者は、他の国へ行ってC1ランク程度までギルドランクを上げてから帝国に戻ってくる。
そんなところに、卒業したばかりの新人を送ると言われて、二つ返事で引き受けるわけにはいかなかった。
むしろ、もう少し、南の王国で経験を積んでからなら、快く引き受けたのだが、ジュエルイアンに押し切られて、渋々、引き受けることになってしまった。
新人の冒険者が帝都周辺で、無惨な遺体で見つかったという話は、ギルドの開設当時に良く聞いた話なので、引き受けた新人が、そうならない事をカインクムは望んでいた。
ジュエルイアンから、話を受けてから、暫く何の音沙汰も無かった。
南の王国の王都と大ツ・バール帝国の帝都までなら距離にして1500キロメートル程あるので、その距離を移動するとなれば移動だけで1か月かかってしまう。
そのため、連絡があってから、暫く何も音沙汰も無かったのだが、突然、カインクムの店にジュエルイアン商会から荷物が届いたのだ。
その荷物は、かなり、厳重な警備と共に送られてきた。
通常ならば、十数台の荷馬車に対して2台の警備が付く程度なのだが、その荷物は荷馬車1台に2台の警備がついていた。
しかも、長距離を得意としている地竜の4頭立ての警備馬車と、荷馬車には地竜が6頭つながれていた。
(ジュエルイアンのやつ、荷馬車1台に、2台の警備なんて、しかも、高速移動用に数頭立てだと! この荷物に、そんな価値があるのか?)
送られてきた荷物は、大きな木箱が6箱だった。
その木箱には、一箱毎に別々の数字が底面以外の5面に描かれていた。
11、12、13、21、22、23。
その数字の意味するものは分からなかったが、こんな荷物に警備を2台付けていた事に驚いた。
その警備の馬車は、前後に荷馬車を囲むように、カインクムの店に来ると真ん中の荷馬車だけが店の裏から敷地に入り、残った2台の護衛の馬車は、荷物の受け渡し中周囲を警戒していた。
それも丁寧に、最初に店の入り口に2人が降りて、店の表を警戒しつつ、ジュエルイアン商会の従業員が挨拶にくると、荷馬車と護衛の1台が一緒に移動して店の裏に付け荷馬車の荷を下ろす間周囲を警戒していた。
カインクムは、何事かと驚いた様子でいたが、荷物がジュエルイアンが送ってきたものだと分かったので、その物々しい荷物について困ったような表情で見ていた。
(ジュエルイアンのやつ、この荷物は、新人の冒険者の物だと言っていたが、なんで、こんな物々しい警備が必要なんだ?)
カインクムは疑問に思うが、荷馬車の御者から荷物の持ち主が来るまで開けないようにと言付かった。
(荷物の中身って、ジュエルイアンのやつは、何とか言っていたが、要するにフルメタルアーマーだろう。ミスリルなのか、アダマンタイトなのか知らないが、これだけの物々しさは、……。まさか、宝石でできているとか、黄金でできているとか、そっち方面なのか?)
カインクムは、疑問に思っていた。
そして、御者が荷馬車の御者台の下にある隠し扉の中から、カインクムに、ジュエルイアンからの預かり物だと言われて高級そうな木箱を渡した。
その木箱を受け取ると、その重さに中身が貨幣だと予想できたようだ。
木箱の封印が剥がれてない事を確認すると、御者とジュエルイアン商会の従業員に伝えると2人はホッとした。
すると、荷物について、くれぐれもよろしくと頼んで、カインクムの店を出て行った。
カインクムは、その物々しさに驚いていた。
「あの荷物は、そんなに大事な物なのか」
そうつぶやいて、届いた荷物を眺めるのだが、渡されて手に持っている木箱が気になり、その木箱を持ってリビングに移動した。
リビングに、フィルランカは居なかった。
フィルランカは、店番に出ていたので、カインクムが、店に行くまでは、店番をしてくれている。
カインクムは、木箱の封印を切って中身を確認すると、その中には、ジュエルイアンから、羊皮紙に書かれた手紙と中銀貨10枚が入っていた。
カインクムは、ジュエルイアンの手紙に目を通すと、手紙の下にあった中銀貨10枚を眺めた。
「ジュエルイアンのやつ、金貨1枚を送るより、中銀貨10枚の方が、俺には都合がいい事を知っているな。だが、こんな大金は、家の中じゃなくてギルドに預けた方が良さそうだな」
そう呟いて、木箱の蓋を閉めるとリビングの壁にある隠し扉の中に木箱を入れ鍵をかけた。
(しかし、新人冒険者の荷物に、何でこんな警備が必要なんだ)
カインクムは、不思議そうな表情のままフィルランカと店番を代わるために店に向かった。
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