第6話 カインクムの試作の剣とフォルボグ

 

 カインクムは店に戻ると、店の鍵を開けて、ユーリカリアが来るのを待っていた。


 ただ、ユーリカリアから、ギルドで根掘り葉掘り聞かれた事が気になっていたようだ。


 ユーリカリアの話を聞いていると、今日、店を閉めていた理由が、ジューネスティーン達が、店に来ていたことに気がついていたように思えたのだ。


(ジュネス達の事は、黙っておかないとな。)


 カインクムは、少し難しそうな表情をしていた。




 カインクムとしたら、ユーリカリア達との接触はありがたい事なのだ。


 自分が知っているAランクパーティーは、フォルボグのパーティーとユーリカリアのパーティーだけなのだが、ユーリカリア達は、気さくで心を許せる相手だと思っているのだ。


 しかし、フォルボグについては、悪い噂しか聞かないこともだが、俺様的な上からの物言いを考えても、積極的に付き合いたい連中ではないのだ。


(さっき、話した時の事もある。 あんなものいいしかできないやつだからな。 腕はあっても、人としてのどうかと思えるからな。 できれば、積極的に付き合いたいとは思えないな)


 話をしていると、どうも、何か別の事を考えている様子が伺えるのだ。


 それは、話す相手を獲物のようにみており、少しでもおかしな発言があれば食いついてやるといった威圧感さえ感じるのだ。


 その点、ユーリカリアも、そのメンバー達も、そういった威圧感は無く、お互いに利益を望む同志のような雰囲気さえ漂っているのだ。




 これから、作ろうと考えているジューネスティーンの剣について、試作品の評価を行ってもらうためになら、どちらのパーティーに頼むか考えると、やはり、ユーリカリアのメンバーの誰かに、お願いした方が良いと、カインクムは、考えてしまうのだ。


(フォルボグのメンバーは優秀ではあるが、問題も多く抱えている。 金にもうるさいから、何を言ってくるか、分かったものではないのか)


 カインクムは、これから試作してみようと思っている、ジューネスティーンの剣の模倣品の評価をする相手を探していた。


 ギルドに出向いた時間も考えれば、冒険者の顔を見て、Bランク以下であっても、剣の腕が確かな者で、自分の店で買ってくれている冒険者の顔を見かけるかもしれないと思ったのだが、帰る時に見かけた冒険者には、目ぼしい冒険者はいなかったのだ。


(新しい剣の使い勝手については、やっぱり、ユーリカリアのところの、誰かにお願いするしかないか)


 カインクムは、ユーリカリアには、ジューネスティーンの事について、聞かれる可能性が有るのだが、そのリスクを考えても、自分が作る予定の、ジューネスティーンの剣の模倣品の、使い勝手を確認してもらうには、ユーリカリア達のメンバーの中から、誰かにお願いした方が良いと思ったようだ。




 帝国のギルド支部は歴史が浅く、ギルド支部に居る冒険者は全員、他国から流れて来た人達になる。


 大ツ・バール帝国が、ギルドに求める目的は、東の森の魔物を討伐できるパーティーの発掘にあるのだが、なかなか、思うように倒せるパーティーは、現れてこない。


 依頼を出したとしても、多大な被害を出して、しばらく冒険者稼業を休業したり、場合によってはパーティーとして機能できない程の被害を被って解散したパーティーもある。


 その中で、ユーリカリアと、フォルボグのパーティーは上位に位置するパーティーとなるので、この二つのパーティーから、東の森の魔物を倒せるパーティーが出てくれないかと、ギルドは、考えているのだった。




 フォルボグのパーティーは、親子3人以外は亜人奴隷という異色のパーティーなのだが、フォルボグとその夫人の剣の腕は、本物だと言われている。


 2人が、Aランクになれたのも、その2人の剣技が優れていたからだと、周りから思われていた。


 その為、2人の上半身の強さは、他の冒険者から、あの2人は、肩から足が生えていると言われるほどだった。


 それ程、上半身の鍛えられた肉体の2人なので、大剣を扱うにしても、木刀でも扱っているような手軽さで扱うと言われている。


 しかし、フォルボグたちは、魔物との戦いが不利と分かり、最悪の場合は、メンバーの奴隷達を魔物の餌にして、その間に逃げるという残忍な事も惜しまないパーティーなのである。


 また、奴隷のメンバーは、全てが女性の亜人であり、フォルボグが、以前、メンバーの女性と浮気をして、孕ませてしまった事がきっかけで、大きな揉め事になってしまい、その女性をメンバーから外した事もあった。


 そんな中、婦人がどうせ浮気するなら自分のわかる範囲でと、人属と亜人であれば、孕ませることもないので、フォルボグの夫人が、女性の亜人奴隷をパーティーに入れて、夫に当てがったと言われている。


 その為、自分達親子以外のメンバーは使い捨てにしている事で有名になった。


 しかし、フォルボグ達の実力は、本物で、魔法職こそ居ないが、フォルボグと、その夫人の剣技は、他のパーティーを凌駕するので、万一の時に、亜人奴隷を犠牲にして、狩場から逃げる事を、面と向かって、意見する人は、誰もいない。


 大ツ・バール帝国でなら、許される行為だが、他の国では許されることは決してない方法なのだ。


 そして、今ではアウトローパーティーとして有名になり、このパーティーと組んで依頼をする冒険者やパーティーは無い。


 最近は、2人の子供が成人して、親子3人と奴隷のパーティーになった。


 メンバーの亜人奴隷の、一人は子供用の性奴隷も兼ねていると言われているが、それを聞く冒険者も帝国臣民も居ない。




 カインクムは、フォルボグに剣の使い勝手の確認を行う事を、頼もうかと思ったが、すぐに諦めていた。


 フォルボグ夫婦の剣技は、一級品なのは、よく知っている。


 そんな2人に評価をお願いできれば、自分が作っても、何振りか作れば、ジューネスティーンの剣の、完全コピーもできるだろうと、カインクムは考えたのだ。


 しかし、この2人に任せてしまった場合、そのアウトロー的な部分から、どんな要求をされるか分かったものではない。


 そう思うと、フォルボグ達に、新たに開発した剣のモニターをしてもらう話をする事は無いと思ったようだ。


(あの夫婦は、周りから注意を受けることも無く、Aランクまで上がってしまったのだろうな。 実力をつけてきた時こそ、驕りが出る。 その時の、ワガママを抑えてくれる人が居たら、あれだけ非道なこともしなかっただろうに)


 カインクムは、フォルボグ達の、今までの冒険者としての能力よりも、それを抑えるための倫理観を伝えてくれる人に巡り会えなかった事を、可哀想に思うのだった。

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