受注した剣の製造

第34話 ユーリカリア達の剣作りのつもりだった


 鍛冶場には、カインクムが、剣の材料を用意したり、段取りをしていた。


 ユーリカリア達、5人から依頼を受けた、新しい剣の製作にあたる準備をしていた。


 片付けをして、5本分の日本刀を作る準備を行い、そして、材料である、鋼鉄と軟鉄を用意する。


 今までは、剣の製作に使うことの無かった軟鉄を作業台の上に置く。


(やはり、軟鉄は、足りそうもないか)


 作業台に置いた材料を見て、依頼された剣の材料用に、自分のところの在庫だけでは、賄いきれない事を確認した。




 カインクムは、リビングに行く。


 フィルランカに声をかけるつもりだったのだ。


(こんな時間だからな。 店の方か)


 カインクムは、店に向かった。




 扉を開けて、店に入ると、フィルランカは、飾ってあるフルメタルアーマーの埃を雑巾で拭いていた。


「……、とても、昨夜は、激しかったのよ。 ふふふ」


 フィルランカのいつもの日課である。


 店番を始める前に、店の中に置いてある商品の確認を行って、掃除をする。


 売り物に埃があったら、いくらお客様が、冒険者のような人たちでも、買う気になるとは思えないといい、毎朝、綺麗にしてくれていた。


 そして、オーダーメイドでしか作ることのないフルメタルアーマーだが、こんなものも作ることができますと、お客様である冒険者に見てもらうためだけに置いてあるフルメタルアーマーを最後に綺麗にして、フィルランカの朝の工程は終わるのだ。


 ただ、フィルランカは、時々、フルメタルアーマーと、何か話をしているの事もある。


 カインクムは、そんなフィルランカが、時々、夢中になって自分の話をフルメタルアーマーに話しかけていたフィルランカを見てしまったので、それ以降、この時間に店に入る時は、店の扉を開けた瞬間に、フィルランカに声をかけるようにしていた。


「フィルランカ」


 フィルランカは、案の定、フルメタルアーマーを雑巾で拭いていた。


 カインクムの声を聞くと、慌てて、声の方を向くのだが、ただ、その顔は少し恥ずかしそうな顔をしていた。


「あら、どうしましたか? 今日は、ユーリカリアさん達の剣を作るのでは無かったのですか?」


 フィルランカは、話を逸らすようにカインクムの声に反応した。


(今の独り言は、カインクムさんに聞かれてしまったのかしら? 誰もいないと思ったから、昨夜の事を、この鎧さんに聞いてもらってたのだけれど。 えっ! カインクムさんに聞かれてしまったのかしら? 男の子が欲しいって、話してたのにぃ)


 フィルランカは、少しモジモジしつつ、カインクムに答えた。


(フィルランカのやつ、また、フルメタルアーマーに、何か話していたな。 まあ、内容は、どうでもいいか)


「ああ、ユーリカリア達に頼まれた剣の材料が、少し足りないんだ。 材料を買い出しに行ってくる」


 カインクムの答えに、フィルランカは、少し安心した。


(よかったわ。 さっきの話は聞かれてなかったみたいね。 流石に、いくら夫婦だといっても、ベットの上の話を聞かれるのは、少し恥ずかしいわね。 ……。 でも、それを聞いて、カインクムさんが、その気になってくれたら、私にも、男の子が授かるかもしれないのかしら)


 フィルランカは、少し、ニンマリした表情をした。


 その表情を見て、カインクムは、不思議そうにフィルランカを見ていた。


「おい、フィルランカ? 何か、あったのか?」


「えっ! いえ、にゃんにもありましぇんよ」


 フィルランカは、自分の心の中を見透かされたのかと思ったのか、カミカミで答えてしまっていた。


「あっ、違います。 昨夜の事を考えていたわけじゃありませ」


 そこまで言うとフィルランカは、両手で慌てて口を塞ぐと、それまで、フルメタルアーマーの埃を拭き取る雑巾を持っていた事を忘れて、そのまま、口に当ててしまった事に気がついたようだ。


「いやん」


 乾いた雑巾ではあったが、雑巾は雑巾なので、フィルランカは、口に当てた雑巾を放り投げてしまった。


「まったくぅ。 おっちょこちょいなのは、子供の頃から変わってないな。 まあ、そんなところも、可愛いところなんだがな」


 カインクムは、思わず、思ったことを口に出していた。


 ただ、後半の部分は、少し顔を赤くして、声も小さめだったのだが、フィルランカは、よく聞き取れなかったようだ。


 しかし、その内容について、フィルランカは、確認しなくてはいけないと思ったようだ。


 投げ出した雑巾を拾って、カインクムを見ると、そこには、満面の笑みを讃えていた。


「すみません、カインクムさん。 今の話の最後のところが、少し聞き取れなかったのですけど、なんとおっしゃったのでしょうか?」


「……」


 カインクムは、顔を赤くして、視線をフィルランカから斜め上の方を向いてしまった。


「あのー?」


 フィルランカは、そう言って、徐々にカインクムの方に近寄っていく。


 そして、カインクムの目の前までくると、フィルランカは、カインクムを下から覗き込むように見つめるのだった。


「今、カインクムさんは、私に大事なことを言ったと思うんです。 でも、私は、それを聞き逃してしまったようなのです。 子供の頃から変わってないなの後に、何と言ったのでしょうか?」


 カインクムは、フィルランカに聞かれて、さらに顔を赤くしてしまった。


 黙っているカインクムを見て、フィルランカは、聞き逃してしまったことに後ろめたさを感じたようだ。


「すみません。 妻の立場としては、夫の言葉を聞き逃してはいけないのでしょうけど、大事な部分を聞き逃してしまいました。 本当に申し訳ありません」


 フィルランカは、申し訳なさそうに言うのだが、カインクムは、自分の言った言葉が、とても恥ずかしいので、聞き逃したと言った言葉を、もう一度言いたいとは思ってなかったようだ。


 しかし、フィルランカは、その聞き逃した部分は、絶対に確認しておかなければならないと思ったのだ。


 フィルランカは、上目遣いでカインクムを見ているのだが、カインクムは、その視線がとても重いものだったようだ。


「いやだ。 答えたくない」


 フィルランカの、訴えるような視線に、限界を感じていたカインクムは、黙っていよと思ったのだが、結局、一言だけ答えた。


 そして、フィルランカは、拗ねるような表情をカインクムに向けていた。

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