第29話 衝撃を受けるウィルリーン

 

 カインクムが、魔法紋を付与した台車をウィルリーンは動かした。


 その動かした台車は、空の台車を動かす程度の力で動いてしまったのだ。


 その台車には、女子とはいえ、2人の大人が乗っているのに、軽い力だけで簡単に動いてしまったのは、明らかに魔法紋の影響によるものだと周囲で見ているメンバー達にも分かったようだ。


 その台車をウィルリーンは、青い顔で凝視した。


「どういう事、本当に魔法紋が描けたの」


 未だに半信半疑でいるウィルリーンにカインクムが声を掛ける。


「お前さん、魔法紋が描かれる前と後を確認しただろ。 それが、この前、ある人に教えてもらった方法なんだ。 あんたなら、チーターの嬢ちゃんの剣も、これから作るであろう剣にも、魔法紋を刻む事が出来るんじゃないのか」


 ウィルリーンは、半分、泣きそうになりながら、カインクムに向いた。


「あの、私、今、初めて、見たんですよ。 それなのに、直ぐに、そんな魔法が使えるようになるなんて、そんな事、出来るわけないです」


 カインクムは、困ったように右手を頭の後ろに当てた。


「あのなぁ、嬢ちゃん。 俺が、この魔法を覚えたのは、初めて見てから、1時間も掛からなかったんだ。 それに、それまで、魔法は使えないと思っていたんだが、少し教えてもらっただけで出来たんだ。 だから、嬢ちゃんなら、俺が教わった方法を聞けば、直ぐに出来るようになるんじゃないのか」


 カインクムが言うと、ユーリカリアが、ウィルリーンを励ましてきた。


「何しょげているんだ。 お前は、今、新しい魔法を目撃したんだ。 いつものように、貪欲に魔法を吸収したらいいんじゃないか。 目の前に教えてくれる人が居るのに、それをお前が拒絶してしまったら、この魔法はお前の物にはならないだろう! お前は新たな魔法が欲しくないのか」


 ゆっくりと、ユーリカリアに顔を向けるウィルリーンは、メンバーの中で、一番付き合いが長く、信頼するユーリカリアの言葉に、少し勇気づけられていたようだ。


「カインクムさんが、出来た魔法が、お前に出来ないわけがないだろう。 ひょっとしたら、お前の魔法は、今、新たな高みに昇るための、切っ掛けを与えてくれたのかもしれないのだぞ」


「でも、今、見た魔法は、どう言った概念で起こっているのか、まるで見当がつかなかった。 一般的な詠唱だった。 私の知っている魔法の中に、あんな物は無かったのよ。 どういった原理で魔法が発動したのか、全く見当がつかなかったのよ」


 すっかり、自信をなくしてしまった、ウィルリーンをみて、カインクムは困ってしまったようだ。


「うーん、参ったなぁ。 嬢ちゃんなら、この魔法紋を描く方法を見れば、直ぐに応用して、色々な魔法紋を作ってくれると思ったんだが、……」


 ここまで、大事な商談だと思って、何も話さなかったフィルランカが、この状況は不味いと思ったようだ。


 ウィルリーンを、励ますように話しかけた。


「お嬢さん。 貴女は、今、自分の魔法が、飛躍的に伸びるチャンスを迎えているんです。 私も少し魔法が使えたのですが、主人が、教わっていた時に、横で、一緒に聞いていたのです。 その話を聞いただけで、魔法の制御が、簡単に出来るようになったのです。 考え方さえ理解してしまえば、貴女なら、もっと素晴らしい魔法が、使えるようになりますよ」


 そうウィルリーンに話すと、暗闇で彷徨っていた自分に、僅かながらではあるが、自分に光が差し込んできたように思えたようだ。


 ウィルリーンの表情が、僅かに戻ってきたように見えた。


 そのウィルリーンが、フィルランカに、縋るように語りかけた。


「私にも、今の魔法が理解出来るだろうか」


 その問いにフィルランカは笑顔で答えてくれる。


「ええ、勿論です。 貴女程の魔導師なら、簡単に理解出来るはずです」


「本当に?」


 ウィルリーンは、再度問いかけた。


「貴女さえ覚えようとすれば、必ずです」


 フィルランカは、最高の笑顔を作って答えたので、ウィルリーンの顔つきが変わった。


 そして、考え込んでしまった。


 それは、今までのカインクムの魔法紋がどうやって出来たのか、自分なりに考えだしたようだ。




 すると、ウィルリーンは、自信の無い、しょげた表情から、徐々に変化して、だんだん目が輝き出し、眉間に皺を寄せると、カインクムに向かって、いつもの調子に戻って話しかけた。


「ご主人、すまなかった。 初めて見た魔法にビビってしまった。 それに奥方、貴女のおかげで立ち直る事が出来た。 ありがとうございます」


 そう、2人に礼を言うと、貪欲に話を聞き始めるのだった。


「すまないが、その魔法を、教えてもらった時の事を、初めから教えてもらえないだろうか」


 気持ちが戻ってきたウィルリーンを見て、安心したカインクムは、全てを話すつもりなのだろう。


 笑顔で、その問いかけに答えた。


「勿論だとも、嬢ちゃんなら、きっと今の魔法紋の作り方をマスターしてくれるはずだ。 それにメンバーの皆んなも、嬢ちゃんの魔法に期待しているはずだ」


 そうカインクムに言われると、ウィルリーンは、慌ててメンバー達の顔を見た。


「皆んなも、すまなかった」


 唐突にウィルリーンは、メンバー達に詫びを入れた。


「大丈夫だ、切っ掛けさえ見つければ直ぐに元に戻るとおもってたから」


 ユーリカリアは長年の付き合いから、立ち直ると信じていたのか笑顔で答えた。


 その様子をカインクムは、微笑ましく思ったようだ。


「じゃあ、始めようか」


 カインクムは、そういうとジューネスティーンに教わった事を話し始めるのだった。

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