第30話 魔法制御


 ウィルリーンが立ち直ると、カインクムは、ジューネスティーン達に教えてもらった事を話し始めた。


「最初は、魔法はイメージが大事だと言っていた。 イメージが、この周りに有るらしい、目に見えない魔素が、魔法になると言っていた。 それと、魔法は誰にでも、使えるものだってことなんだ。 現に、俺は、その話を聞くまで、魔法は使えなかった。 だが、今は少し使えるようになった」


「ご主人、本当に、魔法は、何も使えなかったのか。 それで、あの魔法が、できるようになったのか」


 ウィルリーンが、信じられないといった様子で話に割り込んだ。


「ああ、小さい時に、子供の魔法特性を、帝国が確認しているだろ。 あの時に、魔法の素質は、何も無いと言われて、それ以来、俺には、魔法は使えないと思ってたんだ。 だから、鍛冶屋になったんだ。 だが、この前に、さっきの魔法紋を描いてくれた人が、魔法紋が、有効になるということは、その人に魔法を使えるという事だと言われたんだ。 確か、魔法紋を発動する魔法を、使ったんだと、言ってた。 その時に、言われるままにやったら、カップに、水を溜める事が出来たんだ」


「あのー、ご主人、その水魔法、今もできるんですか」


 ウィルリーンが恐る恐る、カインクムに尋ねる。


「あぁ、問題無いと思う。 ちょっとやってみるか」


 そう言うと、カインクムは、自分のカップを飲み干して、カップをテーブルの中央に置き、全員に見えるようにすると、手をかざして詠唱を唱えようとする。


「我は、命ずる。 森羅万象に基づき、ここに願いを伝える。 カップに半分の水を貯めよ。 ウォーター」


 すると、カップの底に、徐々に水が溜まってきて、半分になると水が溜まるのが終わる。


 それを見ていた全員が、声を上げた。


「「「おおーぉ」」」


 周りは、水が、カップに溜まるのをみて感心するが、ウィルリーンだけが、それ以上に、魔法に制御がかかっていたことに気がついたのだ。


「ご主人、今、貴方は、このカップに溜まるだけの水を入れたのか、それともこれが限界だったのか」


 その問いに、カインクムは少し驚いたようだ。


 ウィルリーンは、水が出たことではなく、出た水の量について、食い入るように聞いてきた。


「あぁ、このカップに、半分溜まるだけの水を、イメージしただけだ」


 カインクムは、当たり前のように答えたが、ウィルリーンは、震えだしていた。


「じゃあ、ご主人は、これ以上の水も、出す事が出来るって事なのか」


「ああ、この前、焼入れの時に使う水桶にも、この魔法で使ってみた。 その時は、カップを水桶に変えたかな。 お陰で水汲みの手間が省けるようになった」


 ウィルリーンは、テーブルの上に置いた掌を握りしめて、ワナワナと震えてだしていた。


「これは、魔法の制御を行なっている。 自分の思い通りに必要な量を調整しているってことなんだ。 これは、魔法の在り方自体が変わっている」


 テーブルを睨みつけながら、ウィルリーンが呟くように話した。


「ダメだ。 ダメだ。 私は、今新たな魔法の境地に達しようとしているんだ。 落ち着け。 落ち着け」


 自分に言い聞かせながら、呟いていると隣に居るヴィラレットが、ウィルリーンの背中に手を当てて、心配そうにしているが、声を掛けられないでいる。


 その姿を見たユーリカリアが、呑気に質問してきた。


「これって、そんなに凄いことなのか」


 何が凄いのか、全く、分からないといった様子で、ウィルリーンに問いかけたのだ。


 それには、ウィルリーンもイラっとしたようだ。


「凄いなんてもんじゃ無い。 こんな事が、自分の思った量の制御が出来るなんて、魔法そのものが変わってしまうんだぞ。 魔法は使えるだけだったのに、そこに制御が加わったら、日常生活にも使えるんだ。 魔法は、冒険者が攻撃するために使うものだけじゃなくなったんだ。」


 ユーリカリアが、何のことなのか分からないような表情を浮かべていた。


「すまないが、ウィルリーン。 お前以外、誰も、ただ、水魔法で、カップに水が溜まっただけにしか見えてないんだ。  申し訳ないのだが、説明してもらえないだろうか」


 ユーリカリアは、メンバー達を代弁するように答えた。


「……」


「今、考えている事、説明してもらえれば、楽になると思います。 問題は、1人で解決するのでは無く、メンバー皆んなで解決した方が、……。 貴女のお陰で、私も皆んなも助けられてきたのですから、今度は私達にも助けさせてください。」


 黙っているウィルリーンに、ヴィラレットが、心配そうに声をかけたので、そう言われて、顔色が戻るウィルリーンが、気を取り直したようだ。


「そうだったな。 すまなかった。 ありがとう」


「良かった」


 笑顔で返すヴィラレットに、気を取り直したウィルリーンが、全員の顔をみて話し始めるのだった。


「今の魔法の凄さなのだが、魔物に対峙して使う時の事を考えて欲しい」


 そう言われて、弓をメインに使うエルフのシェルリーンが気になったようだ。


「矢に付与する魔法だったら、全力で最大火力で打ち込みますね」


「そう、魔法を扱うのも、教える方も、魔物に対峙する事を考えているから、最大出力の魔法になるんだ。 だが、ご主人の水魔法は、このカップに溜まる程度の水を出した。 それに水桶に溜めるだけの水を出したともいう。 これは、自分の意思で、魔力量を制御しているって事なんだ。 そんな事、今までで誰も考えた事がなかったんだよ。 それを今、ご主人が見せてくれたんだ。 丁度良い水の量を、自分で調整して出したんだ」


 そう言われて、カインクムが、シュレイノリアの事を思い出したようだ。


「あぁ、そういえば、あっちのパーティーの魔法職も、魔法の制御がどうとか言ってたな」


 その一言をウィルリーンは、聞き逃さなかった。


 一瞬、ジロリとカインクムの顔を見た。


「その魔法職はかなりの腕だな」


 完全に、自分より上位の魔法職だと確信したようだ。


 そして、ウィルリーンが、カインクムに食い入るように話を続けた。


「ご主人、その水魔法の時の話を、詳しく教えてもらえないだろうか」


 ウィルリーンは、完全に吹っ切れたといった様子で、カインクムに尋ねた。


 もう、自分より優れた魔法職が居たのならその技術をどれだけ引き出せるか。


 それを自分のものにして今以上の魔法を扱えるようになる。


 今のウィルリーンには、それしか無くなったようだ。

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