第10話 アフターサービス


 ヴィラレットは、カインクムに手入れをしてもらい、返してもらった剣を抜いて、手入れの状態を確認すると、鞘に戻して腰につけた。


 カインクムは、ヴィラレットの身に付けている防具も気になったのか、防具をジーッと見た。


 そして、直ぐに、それも指摘するのだった。


「防具も、ちょっと傷んでいるから、それも見てやるよ」


 胸に付けている革鎧には、魔物に引っ掻かれたような傷が付いていた事もあり、ヴィラレットは、言われるままに、胸の革鎧を外して、カインクムに渡した。


「内の鎖帷子は問題無いみたいだな。 革鎧は本職じゃないので綺麗に治せないが、今のままよりは良いだろうから」


 カインクムは、ヴィラレットが革鎧を外した後、その下に着ている鎖帷子も確認したようだ。


 その事を指摘しつつ、傷付いたところに新しい革を当てて縫い付けていった。


 修理が完成すると、ヴィラレットに渡した。


「ありがとうございます。 手入れだけで無く、使い方まで教えて頂きありがとうございました。 それで、お代の方は如何程になりますか」


 カインクムは、フェイルカミラを見ながら少し考えるが、直ぐにヴィラレットを見た。


「それじゃあ、銅貨1枚だけ貰っておくか」


「……。 少し安いんじゃないですか。 普通なら、その10倍は取られますけど」


 金額を聞いて、金額が通常より安いと気が付いたのだろう、フェイルカミラが、話に入ってきた。


「あぁ、ユーリカリアには世話になっているし、次から、うちの剣を買って貰えれば、それで良い。 それに、今日は、いい物を見た後なのでな、機嫌が良いんだ」


 ユーリカリアは、それを聞いて、何か思い当たるのか、顔付きが僅かではあるが、変わったように思えた。


(ギルドでの話からすると、今日、カインクムが会っていたのは、ジュネス達だ。 それに、今、良い物を見たと言った。 あいつらの持ち物って、そんなに凄い物なのか? カインクムが、いい物なんて言う程に? あいつらには、もう少し探りを入れておく必要がありそうだ。 そうなれば、ウィルリーンとシェルリーンの事も有るから、友好的に接しておいて損はないな)


 そんなユーリカリアの思惑など知らずに、ヴィラレットは、カインクムに感謝していた。


「ありがとうございます。 今度、お金が貯まったらお邪魔させて貰います」


「そういえば、嬢ちゃんは、予備の剣は持っているんか?」


 その指摘にヴィラレットは少し驚いたような表情をした。


「いえ」


 それを聞いて、カインクムは、やっぱりといったような表情をした。


「ちょっと待ってろ」


 そう言うと、立ち上がって、奥に行くと、短剣を一振持ってきた。


「この短剣を貸しておくから、一緒に持っておけ。 まあ、お守り程度にはなるだろうから。 次に剣を買った時に返して貰えば良い」


 それを聞いて、ヴィラレットは恐縮する。


「宜しいのですか」


「構わないさ。 このパーティーに入ったのなら、それなりに見込みがあってとユーリカリアも考えたんだろうから、これからは、お得意様になってもらえると思うからな。 先行投資ってやつだ。 それと、この剣が、不要になった時は、嬢ちゃんが持ってくるんだぞ」


 暗に、死んで、他のメンバーが、この剣を届けることにならないようにと、思いを込めて、カインクムは言葉に出した。


「ご主人、助かる」


 そのことに気がついたユーリカリアは、短剣の事も含めてお礼を言う。


「お前さんも、見込みがあるから、顔つなぎに連れて来たんだろ、それに、この嬢ちゃんには、短剣を貸したんだからな、後であんたが、返しに来るなんて事にならないようにな」


 ユーリカリアにも、死なせないように、ちゃんと、面倒を見るようにという思いを込めてなのだろう、カインクムは言った。


「わかりました。 肝に命じておきます」


「じゃあ、暗くなり始めているから、そろそろ宿に戻るんだな」


「そうさせて頂きます」


 そう言うと、ユーリカリアのメンバーは店を出る。


 カインクムも見送りにドアの前まで出ると、メンバーたちは、カインクムに礼をする。


 特に、ヴィラレットは深々と礼をした。


 歩き出すユーリカリアのメンバーを見送ると、カインクムは店の中に有る 閉店 の看板をドアの外枠に掛けると、店に入り、ドアに閂をかけて閉店の作業をする。


 カインクムは、ヴィラレットのレイビアについて考えている。


(人の太刀筋というものは、直ぐに変わるものでは無い。 今、教えたレイビアの使い方を自分の物にするには時間が掛かるはず。 それまでは、咄嗟に今までの斬る太刀筋になってしまうだろう。 そうなると、ジュネスから聞いた剣は、直ぐにでも作る必要があるな。 あの嬢ちゃんが、レイビアを折る前に完成させる必要があるのか)


 ヴィラレットが、使用していたレイビアは、細身の剣なのだ。


 一般的な曲剣では、厚みも幅もあるので、持った感じが大きく異なる。


 だが、ジューネスティーンの持っていた剣なら、レイビアとは、大きな遜色は無く使う事ができるだろう。


 ならば、ジューネスティーンの言っていた剣を、早く完成させる必要が有ると思い、ジューネスティーンの持っていた剣の模倣品を作る意欲が、カインクムに湧いてきたようだ。

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