第9話 刺すための剣


 ヴィラレットの太刀筋と、使っている剣が異なっている。


 ヴィラレットの剣技は、刺すではなく、明らかに斬る太刀筋なのだ。


 剣技を習得した時、冒険者になった時、繋がりが無いと、カインクムは、思ったようだ。


 修行の際にどのような剣が、その剣筋に合うのかを教えて無かったのか、ヴィラレットが聞いていたが忘れてしまったのか、それとも、剣を選ぶ時にその剣を見て惚れ込んだか、予算的にその剣しか購入できなかったかだろう。


 そんな事を考えたのか、カインクムは、ヴィラレットに話しかける。


「それと、刺す剣は、引き抜いて初めて剣に仕事をさせたと考える事だ。 剣を魔物に刺して抜かないと、倒れた魔物の体重で剣が折れる事があるから、引き抜く事を忘れないことだ。 槍の嬢ちゃんなら、判るだろう」


 そう言うと、槍を持って入ってきたフェイルカミラに視線を送った。


 槍は刺すために作られた武器なので、レイビアのような直剣と使い方は同じになる。


 それなら、槍を使っているフェイルカミラにも意見を聞いた方が良いと、カインクムは考えたのだ。


「ええ、私も突いたら直ぐに引き抜くようにしてます」


 槍を使うフェイルカミラが、話を振られたので、少し驚いた様子で答えた。


「成る程なぁ、戦斧や斬る剣なら、勢いで魔物の体から離れるけど、突き刺した場合は引き抜かないと剣が残ってしまうな」


 カインクム達の話を聞いて、ユーリカリアも納得したようだ。


 それを見て、カインクムは話をまとめるようにヴィラレットに伝える。


「そう言うことだ、まぁ、新人の剣士には良くあるというより、多くの人がそう思っている。 嬢ちゃんだけじゃ無いからな。 じゃあ、ちょっと、そこで、その剣で魔物が居るとイメージして剣を構えてみな」


 ヴィラレットは、自分のレイビアを、上段に振り上げたところで、カインクムは声をかける。


「まった。 その剣は、突く剣だと言っただろう。 上段に構えるのは斬る剣だから、剣先を相手に向けるんだ。 そして突いて、引く。 だから、剣の先端を相手の鳩尾の高さ辺りに持っていって、相手の心臓か腹を狙うんだ」


 ヴィラレットは言われるがまま、剣を相手の鳩尾の前に突き出すように構える。


「剣の構えはそんな感じだ。 それと、体は正面を向くより、利腕側の足、嬢ちゃんなら右足の爪先を相手に向けて、左足は右足のかかとの後ろに添えるみたいに、90°左に向ける。 それで、腕を前に突き出す。 突き出す時は、腕を捻るようになるから、剣の切先が狙った所に向かってブレないようにする事が大事だ」


 言われるままに構えて剣を前に突き出す。


「剣が相手に刺さったら、直ぐに抜く」


 そう言われて、慌てて、自分の鳩尾まで剣を引く。


「剣は刺したままだと、相手が倒れてきた時に、折れてしまう可能性があるから、直ぐに引き抜く」


 ヴィラレットはカインクムに言われるままに、何度か剣を刺して引くを繰り返す。


 その動きを見ると、だんだん様になってくる。


(やっぱり、ベースとなる筋力が備わっている。 基礎ができているから、簡単なレクチャーだけでも、形になるな)


 カインクムは、一つ頷くと、次のステップに移ろうと考えたようだ。


「じゃあ、今度は、一歩踏み出して突いてみるか、嬢ちゃんは、右に剣を持っているから、剣を出す時に右足を一歩踏み出すんだ。 そうすると、さっきより間合いが長くなる。 突いた後は、剣を右腰の辺りまで引きながら右足を戻す。 右足に乗った体重を後ろに戻すのは、腕を引くより時間が掛かるから、剣を先に相手から引き抜くと思えば良い」


 今度は、右足を出しながら剣を前に突き、右腕を引きながら、右足で床を蹴る様に元の位置に戻る。


「なかなか呑み込みがいい嬢ちゃんだ。 それを繰り返す」


 ヴィラレットの剣捌きを見ながら、次に防御の話を始める。


「それと、防御の時は、剣で受けるのではなく、受け流す。 向かって来たものの角度に気をつける事だ。 自分に当たらないようにするだけで、方向を右や左にズラして、自分に当たらないようにするだけで良い。 だから、剣は向かって来たものに対して斜めに当てると剣に掛かる力は分散されて小さくなる。 そうする事で、剣の寿命は格段に上がるんだ。 メンバーの誰かに石でも投げてもらって、その石を叩き落とすんじゃなくて、方向を変えて自分に当たらないようにすると良いだろうな。 それなら木刀でも木の棒でも出来るから、時間のある時に練習してみると良いぞ」


 ヴィラレットは言われるまま、切先を動かさないで手首だけを左右に振って、剣を斜めになるようにする。


 新人にしては、剣の使い方が上手だとカインクムは思ったようだ。


 カインクムは、少し満足気な顔をする。


「成る程、ありがとうございます」


「助かりました。 うちのメンバーには、剣の使い手が居なかったので、良い勉強になりました」


 ユーリカリアも、カインクムにお礼を言う。


「そう言えば、あんたのところのメンバーは槍も使ってたな。 今の話だが、槍の嬢ちゃんに突いてもらって、その槍を剣で払うようにしても良いと思うぜ。 木槍の先を布で覆っている訓練用のものが有るだろ、それを木刀で受けるとかでも良いんじゃないか」


「成る程、フェイルカミラで、こいつの練習相手になるな。」


 そう言って、ユーリカリアはフェイルカミラの顔を見ると、分かっているといった顔をした。


 カインクムは、ユーリカリアとフェイルカミラの雰囲気から、面倒見の良い連中だと思ったようだ。


 そんな連中ならと思ったのか、さっき見た剣が見るに耐えない感じだったのか分からないが、ヴィラレットに声をかける。


「石は、一点を狙う事になるが、槍なら線を狙う事になる。 最初は槍で突いてもらって、慣れてきたら、石とかで訓練できると思う。 それと、チーターの嬢ちゃん、剣は少し見てやるから、ちょっと貸してくれ。 少し見てやるよ」


 ヴィラレットが、自分の剣をカインクムに渡すと、その剣を奥の作業台に持っていく。


 剣を鞘から抜いて、置いてある砥石で、軽く当てて擦り出す。


「刃こぼれは、無くす事も出来るが、刃こぼれしたたびに刃こぼれを取っていたら直ぐに剣は寿命になってしまって折れてしまう。 だから、刃こぼれは気にせず、刃こぼれの周りに変な引っ掛かりが無いようにするんだ。 それだけで長持ちするようになる。 ほら、出来たぞ」


 そう言って、研いだ剣を鞘に収めてヴィラレッとに渡した。

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