第8話 ヴィラレットのレイビア


 カインクムは、店でユーリカリアを待っていると、それ程、時間も掛からずに、ユーリカリアと、そのメンバーが店に来た。


 今日の収穫をギルドに買い上げてもらっただけなので、それ程時間は掛からなかったのだろう。


「カインクム、恩にきる」


 リーダーのユーリカリアが、店に入るなりお礼を言う。


「なぁに、良いってことよ。 それよりどうしたんだ」


 カインクムは、ユーリカリアの横にいつも居るウィルリーンが、一歩下がっており、ユーリカリアの横には、メンバーの中で一番若そうな亜人がいた。


 カインクムは、それが少し不思議に見えたのだが、腰には、レイビアと思われる剣を帯びているのを見ていた。


「ちょっと、ヴィラレットの剣と防具を見て欲しいんだ。 技には、目を見張るものがあるのだが、こいつはまだ駆け出しだから、まだ戦いに慣れてないのでな。 それで、道具の扱い方がイマイチなので、専門家の目で見て貰いたいんだ。 万一の事が有るといけないので、お願いします」


 そう言って、隣に居るヴィラレットを紹介するのだった。


 カインクムは、今の話を聞いて、今日の主役は、このチーターの亜人であるヴィラレットなのだと理解した。


「あんたは、新人の面倒見が良いんだな。 分かった、ちょっと剣を見せてくれ」


 そう言われて、ユーリカリアは、ヴィラレットに合図をするとヴィラレットがカウンターに座っているカインクムの前に、腰から鞘ごと外して剣をカウンターの上に乗せる。


「お願いします。 私、まだ、駆け出しなもので、剣の具合とかよく分からないので、お願いします」


「あぁ、構わないよ」


 そう言って、鞘から剣を抜く、細身の双刃のレイビアであるが、刃こぼれが何箇所かにある。


 明かに、この剣で斬った時に付けた傷である。


 その傷を見て、カインクムは、剣の使い方と、使っている剣が合ってない事を見抜いたのだろう。


 剣を抜いて直ぐに顔を曇らせた。


「嬢ちゃんは、剣で刺すのではなく、斬る方が得意みたいだな」


 抜いた剣を見つつ、カインクムは、話しかけた。


(見つけた。 この娘は、いいものを持っている。 剣にも歪みが出ているけど、これは、直剣で叩いた時にでる独特な歪みだ。 この娘は、斬る剣を持つべきなのだろう)


 カインクムは、ヴィラレットに話しかけつつ、剣の状態を見ながら、何かを考えているように見える。


「えぇ、何方かというと斬る方になります。 それで、後から双刃の刃を入れて貰いました」


 剣を見ただけで、カインクムは、その本質を突いたので、ヴィラレットは、驚き気味にヴィラレットは答えた。


 今の答えでカインクムは、武器選びに失敗した事にに気が付いたようだ。


(ユーリカリアは、新人のような事を言ってたが、技には目を見張るものがあると言ってたな。 冒険者になる前に、剣の修行でもしていたのか? だったら、小さい頃から剣技を教えてもらっていたって事なのか)


 カインクムは、顔を少し俯き加減にすると、剣に対するウンチクを話し始める。


「直剣というのは、刺す為に設計された剣なので、先端にだけ刃を入れるんだ。 側面は受け流しをするだけで、剣で斬る事は行わないんだよ。 直剣は刺す事に特化しているから、硬い素材で作られている。 嬢ちゃんのように斬ると、直ぐに剣が折れてしまうんだ。 もし、斬る方が得意というなら、直剣だと、刃幅の広い物を使うか、……。 でも、刃幅が広くなると、その分重量も増すから、直剣ではなく、反りの入っている曲剣を使うと良いよ。 ちょっと待ってな」


 そう言って、剣の棚から一本の曲剣を持ってくる。


「こんな感じの剣だ」


 そう言って、剣を鞘から出して見せる。


「こういった感じで反っている剣は、反りの外側だけ刃を入れてある。 反りの内側には刃が入ってない。 最悪の場合、柄と棟を使って、……。 あ、棟は剣の反りの内側を言うんだ。 それを手で抑えて使う事も可能だ」


 そう言って、剣の棟に左掌を当てて見せる。


「そうだったんですか。 私がこの剣を買った時、側面には刃が無かったので、後で入れてもらったんです。 何で刃が無いんだろうと不思議に思ってたんですけど、お店の人も不思議そうに私を見てました。 今の話で、その時、お店の人が不思議そうにした意味がわかりました」


 カインクムは、ヴィラレットが、レイビアのような直剣についての知識が不足していたと思ったのだが、今の説明で理解してくれたことで、ヴィラレットの考える力が有ると思ったようだ。


 そして、考える冒険者は、長生きできる事をカインクムは知っているので、このまま、ヴィラレットが帝国で冒険者をするなら、長い付き合いができそうだと思ったようだ。


「新人には多いな。 剣の特性を知らないで使うから、それと、他のメンバーは嬢ちゃんのような、長い剣を使う人が居なかったから仕方が無いな」


 そう言って、リーダーのユーリカリアに視線を向ける。


「私も剣士だったら、色々、教えられるんだが、御主人のように知っている人に解説してもらえて助かるよ」


 ユーリカリアが言うと、ウィルリーンの顔を見た。


「お前は、直剣と曲剣について、何か知らなかったのか?」


 ウィルリーンも、剣については、そこまで詳しくは無いのだろう。


 申し訳なさそうな顔をして答える。


「師匠から、一通りの武器の扱い方は、教わりましたけど、剣についてそこまで詳しくは聞いてません。 それに教わったのは、50年も前の話ですよ。 ユーリカリアと会ってから、今日まで、私が剣を使ったのなんか、数えるほどしかなかったんですから、そこ迄、詳しく説明できるなんて思わないでよ」


 ウィルリーンは、魔法と一緒に、他の武器の使い方を、師匠であるエルフのお婆さんから教わっているが、本職ではないので、カインクムのように教えることは出来なかったのだ。


 それを言い訳のように伝えたのだ。


 それを聞いていたカインクムは、本職の剣士でもなければ、道具の事についても、その程度だろうと思ったのだろう。


 ウィルリーンの話は、そのまま聞き流しただけで終わった。


「まぁ、大事に使ってくれ。 刺す事に特化すれば、この剣も長持ちする。 でも、戦ってみて、斬る方が良いなら相談に乗るよ。 もう少し待って貰えれば、新しい技術で作った曲剣も完成する。 出来上がったら教えるから、見に来てくれ」


 ヴィラレットは、嬉しそうにした。


「ありがとうございます」


 そう答えると、カインクムは少し考えるような表情をする。


(多分、この嬢ちゃんは、斬る方法を冒険者になる前に教わっていたのだろう。 話の感じから、冒険者になった時に見つけたレイビアを、気に入って買ったんだろうな。 ユーリカリアが、メンバーにしたのなら、この嬢ちゃんに、何か光るものでも有ったのかもしれないし、お得意様だから、もう一つ大事な事を伝えておくか)


 ヴィラレットが、剣を教えられた時に、その師匠に当たる人が、刺すための剣ではなく、斬るための剣を教えたのだろうと、カインクムは考えていたのだ。


 そんな2人の会話を聞いて、ユーリカリアは、何かを感じたようだ。


(カインクムが、今日、休みにしていたのは、新しい剣について研究していたからなのか。 今の話だと、もう少し待ったら、カインクムが、新しい剣を作るって事じゃないのか)


 ユーリカリアは、黙って、カインクムとヴィラレットの会話を聞いていた。


 ただ、カインクムの新しい技術で作った剣については、口を挟まずにいる。


(でき上がった後に、見せてもらうまでは、黙っていた方が良さそうだ。 今、騒ぎ立てて、他のメンバー達が気がついてしまったら、どこかで口を滑らすかもしれないからな。 他の連中は、何も気に留めてないみたいだ)


 ユーリカリアは、他のメンバーの表情を確認していた。


(今は、私達以外のパーティーに、カインクムが、新しい技術の剣を作っている事を知らせないように動くのが賢明だろう)


 いつになく、ユーリカリアが、黙って何かを考えていた。


 その姿を、ウィルリーンは、不思議そうに眺めていたが、何を考えているのか聞くことはなかった。

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