カインクムの作る日本刀
第11話 カインクムの考える剣
ジューネスティーンの剣については、娘のエルメアーナも世話になったと聞いた。
エルメアーナが、どれだけの剣を作ったのか、カインクムは、見てないので、何とも言えないが、それなりに売れているような事は、聞いたので、エルメアーナが、元気にやっている事は、喜ばしい事だとカインクムは思っていた。
カインクムとすれば、ジューネスティーンの話を聞いて、自分の鍛治技術の経験と照らし合わせて、自分なりにジューネスティーンの剣について、考えをまとめていた。
『剣は、大きくは、芯に軟鉄を使って、刃には硬鉄を使っています。 その2種類の鉄を、それぞれ、熱くして叩いて伸ばしたら折り曲げて重ねてまた叩く、それを、何回か行って中に含まれる不純物を叩き出していくんです。 それが終わったら、柔らかい鉄に、コの字型の硬い鉄を合わせて、叩いて剣の形にします。 それと、硬鉄を叩く時は、藁を使って暑く熱せられた表面を何度か擦り付けてあげます』
カインクムは、ジューネスティーンの言葉を思い出して、内容について、検討を重ねる。
(刃は、鋼鉄を使って、内部は、軟鉄なのはわかる。 それに不純物を取り除くために叩くというのも、わかる。 叩いて伸ばしていけば、その時に鉄以外の物質は、火花として外に出ていく。 そうやって、純度を上げる。 それと、鋼鉄には、藁を使うというのは、面白かった。 炭素の含有量を増やすことで、鉄の硬度を高めるって事なんだろうな)
カインクムは、ジューネスティーンの言葉を思い出し、自分なりに、その言葉の意味を考えるのだった。
ただ、試しに作ってみた。
上手くいったら、ラッキーで終わらせるなら、次も同じにできるとは限らない。
それぞれの工程を検討しておき、その通りにできるかどうかを、実験で確認する。
全く、世の中に無いものではなく、存在しているものを作るのであれば、完成品を見て、その完成品に近づける為に必要な工程を考えるのだが、今回は、ジューネスティーンに、作り方を解説してもらえているのだから、それを順序立てて行なっていくことで作ることは可能なのだ。
カインクムは、ジューネスティーンの言葉を、ひとつひとつ、思い出す。
(後は、軟鉄に鋼鉄を挟み込むのか。 コの字に挟むことで、刃側に鋼鉄が、刃の芯と棟側は、軟鉄になるのだな。 これは、その形に作って、打つだけだな。 後は、引き伸ばして、剣の形にするのか。 だが、この時に直剣で伸ばすことができるのは、ありがたい。 曲剣にするために曲がりをつけなくて良いなら、剣の厚みも幅も均一に伸ばせる事になる)
剣の幅や厚みについては、手元から切先に向かって見る事で、どのあたりが厚いのか、広いのかが分かるが、曲剣だとかざして見るようにしても、曲がりがあると、直剣と同じようにして厚みや幅を均等に作るのは、作りにくいのだ。
ジューネスティーンの方法だと、直剣を作っておき、焼き入れの際に、刃と棟の温度の下げ方で、曲がりを持たせるようにしていると言うのだ。
最初に直剣で作り、均等になるように作ってから、槌で叩いて曲げると、後で、微妙に厚みと幅が変わってしまうことがあるのだが、焼き入れの温度差を用いて、曲がりをつけるというアイデアには頭が下がる思いだったようだ。
『その後は、剣の焼き入れを行う事で、刃の部分を更に硬くするのと、更に剣に弧を描く様にする事で、折れにくくしてます。 なので、焼き入れの際は、刃には薄く、棟には厚く土を塗って焼いてから、一気に水の中に入れるのです。 これによって、薄く土を塗った部分は焼き入れが入り、硬い部分が更に硬くなります。 棟は厚く土を塗ってますので、刃より温度が急激に下がらないので、刃側よりゆっくり温度が下がります。 その時の下がる温度の違いによって、棟の部分は刃の部分より縮みます。 自分は刺す剣より斬る剣の方が好きなので、その時に変えた土の厚みで鉄の冷める温度差で曲がりを作ってます。 それで刃は硬く芯は軟らかい剣になってます。 もし、硬度を調べることが出来れば、硬度の違いは、数十倍の違いが出ると思いますよ』
カインクムは、ジューネスティーンの言葉を思い返していた。
(やきれの際に、土を塗る厚みを変えることで、焼き入れの度合いが変わるのなら、その厚みも、切先から10cm〜20cmの辺りは、棟側も刃側と一緒の厚みにしておけば、突く事も可能になる。 曲がりは、先端には入れずに、残りの部分に入れることで、剣にしなりを持たせればいいか)
カインクムは、出来上がりの剣の形をイメージして、ジューネスティーンの言葉から、具体的な方法をイメージしていく。
焼き入れの方法は、カインクム自身も、何度も行っているので、その方法についても、おおよそ見当がつく。
(後は、土をどうするのかだけだな。 ……。 これは、カットアンドトライになるのか。 なら、裏庭の土から始めるしかないだろうな。 ダメだったら、また、ジュネスが来た時に聞いてみればいいか)
ジューネスティーンの説明から、自分なりの考えによって、工程を考えたのだ。
そして、そこから必要な物を、取り揃えるのだ。
カインクムは、その工程と必要な物を、頭の中で描きながら、ジューネスティーンの剣と同じものを作る事を考えていた。
行き当たりばったりのような、いい加減な方法ではなく、計画を立てて、工程を立てることで、失敗を最小限にとどめるのだ。
この部分をおろそかにすると、失敗の回数が増えるのだが、計画がしっかりしている場合は、失敗しても、その計画のどの部分に問題があったのか、反省を行い修正をする。
無計画は、問題点の抽出ができない事を、カインクムは、経験からわかっているのだ。
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