第44話 剣作りの仕上げ


 ユーリカリア達パーティーから受注した剣は、焼き入れを終わらせると、最終工程の焼きなましを行い、研ぎに入った。


 研ぎは、その前にどれだけ、丁寧に形を整えられるかによって、研ぎの時間も変わってくる。


 表面を綺麗に叩いて、凸凹が無ければ、軽い研ぎで終わるが、凸凹が大きいと、その凹みにあわせて剣を研ぐ必要があるので、大きく削ることになってしまうが、叩いた時に丁寧に行えば、研ぎは、深く削るようにはならない。


 鍛冶屋の良し悪しは、最終段階の研ぎにどれだけ薄く研ぐだけで済ませるかも出るのだ。


 カインクムは、研ぎを外注するのではなく、自分で行なっているので、最終工程を考えつつ、剣を叩いていたので、そのため、かなり、丁寧に叩いてあった。


 一つ一つの剣を、丁寧に研いでいく。


 その研ぎの工程の中で、刀の出来具いを確認していく。


 焼き入れに失敗した場合は、研いでいるときに、直ぐに分かってしまう。


 それを自分で確認しつつ、研いでいくのだ。


(自分で、最初から最後まで行って、初めて後工程の重要性が見えてくるのか)


 カインクムは、作業工程が、後ろの方になると、前工程で、いい加減な仕事をすると、後工程に負担をかけることを、知っている。




 鍛冶屋で作られた刀を、研ぎ師に出す。


 研ぎが終わった後に、柄や鞘をつける。


 この後工程を外注する鍛冶屋も多い。


 それは、それぞれの部分にも、かなりのノウハウが有るので、1人で全ての工程を行う鍛冶屋は少ない。


 特に、今回のような斬るための剣は、剣が反っていることもあり、鞘は、剣の反りを考慮して作る必要があるのだ。


 また、切先の方は、突く事も考えて有るので、先端から手元まで、全てが同じ反りになっていない事もあり、鞘を作るにしても、高度な技術が必要となるのだ。


 そうなると、鞘も、刀を納めた時、抜く時、戻す時、その一連の動作を考えつつ、作られてなければならないのだ。


 外注しても、曲剣は、嫌がられるので、直剣と比べたら、割高になるのだ。


 カインクムは、それだったら、自分で鞘も作ってしまおうと思っているのだ。


 自分が、師匠の弟子として働いていた時には、最初に、最終工程を覚えろと言われて、鍛冶屋に修行に入ったのだが、入って直ぐに、木工細工を覚えさせられたのだ。


 そのおかげで、カインクムは、鍛治以外にも剣に関する全てのパーツを作ることが可能なのだ。


 カインクムの腕が良いと言われるのは、鍛治仕事以外のパーツにも気配りされており、柄を握った感覚もだが、それ以上に剣を収める鞘も含めて、使い勝手が良いと言われているのだ。


 これだけではないが、カインクムの腕が良いと言われている理由の一つなのだ。




 研ぎの工程が終わると、柄に取り付けるための様々なパーツを用意する。


 ただ、鍔だけは、新たに作ることにした。


 冒険者は、対人戦になることはないが、鍔は、戦っている最中に柄の長さを目で確認しながら戦うわけではないので、とても重要になる。


 柄を握っていても、戦っている最中に間違って、刃を握ってしまわないために、とても有効なパーツとなる。


 戦いの最中に細かな確認を行わないで済むだけでも、思考を魔物に集中している冒険者にはありがたいのだ。


 ただ、その微妙な感覚が理解できるか、できないかによって、上位冒険者になれるかなれないかなのだが、大半の冒険者は、その細かな違いによる影響を感じることができないのだ。


 体を使うが、その僅かな違いが理解できるかできないかが、良い冒険者になるための試金石と言っても良い。




 また、鍛冶屋のような立場であれば、その冒険者の使い方も含めて使い勝手の良い物に仕上げるのだ。


 斬れ味はもとより、握った感覚が、手に馴染むようにとか、取り回した時の感覚、剣を引き抜くときの感覚など、全ての面で冒険者の感覚に合わせるように作れるかとなるのだ。


 カインクムは、冒険者の体型や性格的なことまでを考慮して細部まで寸法にこだわるのだ。


 パーツについては、鞘・柄・鍔の他に、ハバキ、目釘で、ある程度の形になる。


 しかし、柄については、冒険者が握るところになる。


 ただ木だけで握りを作っても構わないのだが、柄は、剣を振り回すため、可能な限りスッポ抜けないように配慮する。


 これについては、個人的な好みによって大きく左右される。


 ユーリカリア達は、握りについては特に何も言ってはこなかった。


 それは、カインクムにとっては、逆に緊張する要素が増したのだ。


 何かの材質にして欲しいとか、何かあれば、リクエストの通りに作るのだが、何も言ってこなかったので、前回の、ヴィラレットの剣の柄が気に入ったのかもしれないが、完全に任されたのだ。


 それは、逆に、試されている可能性があるのだ。


 どれだけ自分達に合わせて作れるのか、鍛冶屋の腕が試されているのかもしれないのだ。


 そう思うと、カインクムとしたら、剣以外のパーツにも力が入るのだ。


 鍔もだが、剣と鍔を固定するためのハバキもだが、目釘にも木を配ることになってしまった。


 カインクムは、剣を鞘に入れるまで、気の休まることはないのだ。


 刃に合わせて、ハバキも鍔も最終的な微調整のためにヤスリで刀との勘合を合わせていき、柄も刀のナカゴに合わせて丁寧に削り、丁度良い厚みにする。


 目釘で柄と刀のナカゴにある目釘穴を合わせて固定することになる。


 振り回す剣なのだから、柄と刀がしっかり固定されてなければ、使っている最中に剣が抜けてしまうことになるので、柄と刀の固定にも注意をする。


 刀のナカゴと柄の内側の隙間、そして、目釘穴の位置をピッタリ合うように柄の内側を調整しつつ、位置を合わせていく。


 かなり、手間のかかる作業だが、この加減によって使い勝手が決まってくるので、カインクムは、丁寧に調整しつつ、パーツを揃えていくのだ。


 整ったところで、組み立ててると、最後に柄に滑り止め用の細い紐を巻き付けていく。


 この紐については、ジューネスティーンのデザインが気に入ったので、そのデザインに倣って巻き付けた。




 そして柄が取り付けられると、鞘を作る。


 鞘は、2枚の板を貼り合わせて作るのだが、反りのある刀なので、角材の幅は少し広めの物を用意した。


 その板に刀を当てて、刀の入る部分を削る。


 削っては、刀を当てて、刀と鞘の隙間を確認して、刀と鞘のクリアランスを見る。


 刃から峰と、鞘との隙間は、上から確認できるが、刀の厚みは、横から見て、刀の鎬がどれだけ出るかを確認する。


 それを左右対称に2枚用意して、その板を貼り合わせるのだ。




 刀が、入る部分を決めると、刀の反りに合わせて、鞘の外側を決める。


その外側を最初は、切り落とすのだが、その後は、削って形を整える。


 反りの有る剣なので、鞘も反ることになるので、鞘を等間隔に削るのは、至難の業となる。


 軽くなるように、鞘は木材を利用するのだが、削り過ぎないように注意を払いつつ、形を整えるのは、神経もすり減らす。


ただ、鞘があって、初めて剣となるのだ。


そして、剣を作る最後の工程なので、カインクムは、丁寧に削っていく。


 鞘が形になると、鞘を合わせるための接着剤と、そして、鞘じりと鍔付近、そして鞘の中央部分に飾りになる金具を用意して、鞘が簡単に開いてしまわないようにした。


 最後に、鞘に金具を取り付けると、剣を鞘に収めて、作業台の上の剣を乗せる台の上に置く。


 カインクムは、5本の剣を仕上げていくのだった。

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