第42話 フィルルカーシャの剣


 焼き入れを完了させた3本の剣を並べて比較してみる。


 シェルリーン用の剣は、刃幅が4センチと、他の剣より広めにできている。


 特に、ウィルリーンの剣と比較をしてみるのだ。



【シェルリーンの剣】


 刃渡り 70センチ、刃幅 4センチ、柄 25センチ


【ウィルリーンの剣】


 刃渡り 80センチ、刃幅 3センチ、柄 50センチ



 柄の長さは、大きく違いはあるが、柄の部分は、泥で焼き入れの入れ方を変えているわけではないので、この部分の違いはどうということはないが、刃渡りは、10センチ短いが、どちらも同じような仕様なので比較がしやすい。


 フェイルカミラの剣は、シビアに彼女に合わせる必要があったので、比較対象にはなりにくいので、この二つの件によって、焼き入れにより反りの入り具合を確認するのにはちょうど良かったのだ。


「うーん。 やはり、刃幅の厚いものは、曲がりが弱いのか」


 カインクムは呟いた。


(やはり、刃幅が厚くなったら、反りも減ると思っていた方がいいようだな)


 フィルルカーシャの剣をみる。




【フィルルカーシャの剣】


 刃渡り 50センチ、刃幅 4センチ、柄 100センチ



 フィルルカーシャは、身長120センチと小柄なこともあり、それを補うために、柄を長くして、手で持つ位置を調整しつつ戦うのだ。


 長い剣で補おうとしても、自分の腕の長さもあるので、腰に差したとしても、剣を直ぐに弾き抜く事ができない。


 槍を使うことも考えたようだが、剣のように使いたいということで、槍の先に短めの剣を付けた薙刀を使うようになったのだ。


 なので、今までの戦闘スタイルを、そのまま、続けている。


 その経験もあるので、フィルルカーシャは、以前の薙刀から継承した形で注文を出しているのだ。


 ある意味、彼女のための剣が、以前のものとの良し悪しが比較される可能性が高いのだ。


 そうなると、カインクムもフィルルカーシャの薙刀の剣は、慎重に作る必要があるのだ。


 今まで、使っているものより、使い勝手が良くならなければ、高い金を払って買う必要は無いのだ。




 カインクムは、慎重にフィルルカーシャの薙刀を手に取る。


 柄の部分が長いので、それに合わせて、柄の中に入る金属も長くなっている。


(重くはなるが、叩いた時に柄が折れてしまっては困るからな。 柄の中に芯のように入れておいた方が良いだろう)


 カインクムは、フィルルカーシャの柄の長さをどうするのか悩んでいた。


 最初は,刃渡り50cmの刀として,柄の長さを30cm程度のものと同じにしようかと思っていたのだが,槍を考えると,柄の中に芯として刀剣を柄の中に入れるか、ギリギリまで悩んでいたのだが,最終的に槍と同じように刀剣の芯を柄の中に入れることにしたのだ。




 フィルルカーシャの剣については、剣というより、槍のように柄が長いが、その分、刃渡りは50センチと短い。


 槍は刺すのだが、刺すとなれば、刺した後,直ぐに引く必要もあるのだ。


 小型の魔物との対戦では、それでもなんとかなったのだが、パーティーを組むにあたり、一般的な冒険者と比べたら、120センチの身長は低いので、子供扱いされて、なかなか、メンバーに恵まれなかった。


 当時は、魔法も使えなかったフィルルカーシャなので、自分が冒険者として生き残るために、必死で考えたのが、槍の先に短剣を付ける方法だったのだ。


 一般的な長さの槍を使って身長差を補ったのだが、取り回しに難があり、扱いにくかったのだ。


 それを、短くすることで、取り回しを良くすることにした。


 そして、剣を扱う者達の間合いなどを自分なりに研究して、柄の長さ、剣の長さなどを、自分で決めて作らせていたのだ。




 カインクムにしても、このフィルルカーシャの剣を扱うのは、これが初めてなので、後に回してしまっていた。


(店に来た時に持ってきた時のイメージを見てだったからな。 どれだけ、ウサギの嬢ちゃんのイメージに合わせられるか、心配なのだが、槍をイメージして、槍の部分を剣にするつもりで作ったので、柄の中に入る部分も長くなっている)


 カインクムは、フィルルカーシャの薙刀型の剣を見て柄の中に入る部分を少し気にしていた。


(この方法で、作ってみるが、あとは、出来上がりをウサギの嬢ちゃんに確認してもらってから、考えよう。 中に入る部分が長いことで、重心は、柄の方にきている。 重心が、中央に近い方が、振り回すなら、都合がいいと思うが、最後は、嬢ちゃん次第だな)


 カインクムは、剣の出来上がりを思いつつ、眺めていたが、自分の思いが決まったところで、フィルルカーシャ用の薙刀型の剣を焼き入れ作業に入る。




 カインクムは,フィルルカーシャの剣に泥を塗る作業に入る。


 刃幅4センチのシェルリーンの剣で試したことから,刃幅が広くなったことでの影響を1本は確認できたので、方向性は掴めたと思っているのだ。


 その方法を今回の剣で行うのだ。


【シェルリーンの剣】


 刃渡り 70センチ、刃幅 4センチ、柄 25センチ


【フィルルカーシャの剣】


 刃渡り 50センチ、刃幅 4センチ、柄 100センチ


 二つの剣は,刃幅は同じになる。


 フィルルカーシャの剣の使い方を考えると、柄の頭を持って振り回す。


 身長差と、リーチの長さを剣の柄で補うのだから、斬った時にかかる剣の衝撃は大きいと考えられ、なおかつ、斬るために引く事は、考えにくいと思えるのだ。


(ウサギの嬢ちゃんは、刺すことを考えない方がいいのかもしれないな。)


 カインクムは、ギリギリまで焼き入れの方向性を決められずにいるのだ。


 当初の方針で進めるのだが、考えていると様々な事が脳裏に浮かぶのだ。


(そうだな。 トカゲの嬢ちゃん達とは違って、一番、扱いが悪いのかもしれないな。 振り回す事が多いなら、しっかり、曲げておいた方がいいだろう。)


 カインクムは、泥を塗る段階で、今までの方針を切り替えた。


 刃側を薄く泥を塗ると、峰側を今まで以上に厚く泥を塗り出した。


 カインクムは、可能な限り剣を反らす方向にしたのだ。

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