第21話 フェイルカミラの試し斬り


 諜報活動に長けたフェイルカミラは、メンバー内で1番の長身の185cmである。


 リザードマンぽいが、若干、他のリザードマンとは異なり、時々、左右の目の方向が、別方向に向いている。


 一度に両方の目で、別々の物を見る事ができているのだ。


「私は、槍を使いますが、場合によっては短剣も使います。 ちょっと試させてもらっても良いですか」


 そう言って、ユーリカリアに歩み寄る。


「こんなに綺麗に仕上がっていて、まるで、見せる為に作ったような剣なのに、斬れ味も、剣の見た目のように鋭いなんて、信じられないです」


 カインクムは、ユーリカリアとフェイルカミラの身長差25cmを見て、試し斬りの棒の長さが足りないだろうと判断したようだ。


「嬢ちゃんなら、もっと長い棒にした方が良いから、試し斬りの棒を別のに変えるな」


 そう言って、新しい棒を用意して、ユーリカリアが、試し斬りで斬った棒を付け替えようと、動き出す。


 しかし、ユーリカリアから、剣を受け取っていたフェイルカミラが、表情を変える事なく答える。


「ああ、お構いなく。 そのままで構いません」


 そう言われると、カインクムは、棒を差し替えようとしてた手を止めて応える。


「そうか、じゃあ、このままにしておく」


 そう言って、カインクムはもとの離れた場所に戻る。




 ユーリカリアもメンバーの方に戻ると、フェイルカミラは、太刀の刃を一旦確認する。


 裏表に目を通すが、綺麗に研ぎ澄まされている刃、その刃に先端から手元までに波打つような刃紋が現れているのを確認する。


「綺麗だわ」


 思わず、その刃紋に見惚れたフェイルカミラが言葉を漏らすと、さっき店の中で見ていたヴィラレットも、同じ事を行っていた事を思いだす。


 ウィルリーンが咳払いをしたので、ふと、我に帰ったフェイルカミラが顔を赤くする。


「見惚れてないで、試してみてね」


 ウィルリーンが、試し斬りを促す。


「ええ、試させてもらいます」


 そう言うと、フェイルカミラは、両手で剣を持って、軽く上下に振って、重心の確認をすると、ユーリカリアが試し斬りをした棒の前に行く。




 フェイルカミラが、左足を前に出して、腰を低くし、太刀を右腰に持っていくと、太刀の切先を下に、地面に着きそうなほど下げて構える。


 左足で、地面を擦るように動かして、間合いを調整する。


 一瞬、動きが止まったかと思うと、体を伸び上げて、一気に腕を左上に斬りあげた。


 剣は、試し斬りの棒を通過して、斬れた棒が弧を描いて地面に落ちる。


「「「おおぉーお」」」


 思わず、メンバーから声が漏れるが、フェイルカミラは、信じられない物を見ているように、石に刺さっている棒を見たまま固まった。




 しかし、気を取り直したのか、自分の持っている剣を見る。


 そして、台座に刺さった、試し斬り用の棒の切断面を、目だけを動かして交互に見るとフェイルカミラは、カインクムに聞く。


「ご主人。 この剣はどんな魔鉱石で出来ているんだ。 これは、ただの剣であるはずがない」


 固まったまま、自分の斬った棒の断面を見つめつつ、フェイルカミラがカインクムにそう言うが、カインクムは困ったような顔をして応える。


「そう言われてもなぁ。 それ、普通の鉄から作っているんだが」


 カインクムは、頭をかきながら、ぼやくように言うと、フェイルカミラは、信じられないといった感じで、カインクムに食ってかかる。


「じゃあ、この斬れ味はなんなんですか。 今、私は下から斬り上げたんですよ。 棒の元が石の上に残っているんですよ。 私は槍が専門で、太刀はそんなに使う事は無いんですよ。 下から斬り上げたら刺さっていた棒だって抜けるでしょ。 私は剣の達人じゃないんですから。 この剣は、凡人を達人の域に上げられる剣なんですか」


 信じられないものを見て、興奮気味にカインクムに訴えるフェイルカミラを、カインクムは困ったような表情で答える。


「そう言われてもなぁ。 俺も、教えてもらって、初めて作った剣なんだ。 そんなに評価が高いと、こっちも驚くわ」


 固まってたフェイルカミラが、ズカズカとカインクムに向かって歩み寄る。


 それを見たカインクムが、殺されるんじゃないかと思いつつ、向かってきたフェイルカミラに、見下ろされながら、凄みを効かせた声で迫る。


「ご主人、この剣、私に売ってくれないか。」


 カインクムに、覆いかぶさるようにして、フェイルカミラが言うので、困ったように引きつった顔で答える。


「これは、あの嬢ちゃん用にと思って持ってきた物だから、……」


 それを聞いた、ウィルリーンが、慌てて2人の仲裁に入る。


「そんなに、ご主人を困らせるものじゃない。 それより、他にも、その剣を試したくて、待っている連中が居るんだ」


 しかし、フェイルカミラは引き下がらない。


(仕方がない。 この剣を買う事ができないなら、鍛冶屋であるカインクムに、新たに剣を作って貰えば良いのだ)


 フェイルカミラは、そう思ったのだろう。


 直ぐに、代案をカインクム出す。


「じゃあ、新しく作ってくれ、次に私の剣を作ってくれ」


「分かった。 分かったから。 俺は嬉しいけど、顔、近くないか」


 ハッと、我に変えるフェイルカミラが、顔を赤くしていた。

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