第20話 ユーリカリアの試し斬り

 

 カインクムは、ユーリカリア達を引き連れて、裏庭に行くと、試し斬りをするための場所に向かう。


 その場所は、裏庭の端の方に60cm程の石が、地面に少し埋めるように置いてあるところに行く。


 壁際にその石はあるが、壁からは1mほど離れて配置されている。


 石には、穴が4個開いている。


 明らかに、何かを差し込むように、開けられた穴である。




 カインクムは、その石の前にユーリカリア達を連れていくと、家の脇から、太さ5cm程の棒を持ってきて、丁度良さそうな石の穴に差し込む。


 穴は入口が広く、徐徐に狭くなっているので、ある程度、棒を差すと軽く固定される。


「とりあえず、この位からいってみるか。 最初は誰が試してみる」


 そういうと、先ほど、口を出したエルフのウィルリーンが、両手を肘のところで曲げて手のひらを向ける。


「私は魔法職だから、長剣は得意じゃないので、今日は見る専で、お願いします」


 そういうと、ユーリカリアが、興味があるのだろう。


 直ぐに、試し斬りの話に入ってきた。


「私は戦斧だから、微妙に違うんだけど、両手剣だから、ちょっと試させてもらう」


 そう言って、太刀を受け取って、剣を鞘から抜いて、鞘をウィルリーンに渡す。




 棒の前に立つと右肩の前に剣を立てて構える。


「これだと、重量バランスは違うが、曲剣だから使い方は戦斧に似ているな」


 そう言って、振りかぶると、一気に袈裟斬りに太刀を振り下ろす。




 ユーリカリアは、自分が使ったことのある剣や戦斧の感覚から、カインクムの剣の斬れ味をイメージしていたのだが、その感覚と全く違うと感じたのだ。


「?」


 ユーリカリアは、棒に刃が当たった感覚は有ったのだが、スムーズに刃が入り、木を斬る際にかかる摩擦も思ったよりも、かからずに棒を斬り裂いた。


 斬れた棒は、地面に落ちて、ユーリカリアは落ちた棒と立っている棒の切り口、そして、太刀が棒に当たった部分を、ユーリカリアはマジマジと見る。


 ユーリカリアは、斬った時の感覚が残っているのだ。




 いつも使っている戦斧であれば、切れるのではなく、折れるだろうと思っていたのだが、棒の切り口は綺麗に切れており、斬れ味の鋭さを物語っている。


 そんな初めて味わう感覚に、ユーリカリアは、信じられないような表情を浮かべる。


 そんな中でユーリカリアの頭の中に浮かぶものがある。


(魔法付与された剣なのか? これだけの斬れ味を出せているのだから、多分そうなんだろうが、そうなると、銀貨10枚は、中銀貨1枚か。 少し安すぎるんじゃないのか?)


 ユーリカリアは、考えながら、剣と切れた棒の切り口、そしてカインクムを見る。




 この世界の貨幣は、白銅貨、黄銅貨、銅貨、銀貨、金貨なのだが、白銅貨以外は、中間サイズの貨幣があり、金貨だけは、大金貨が存在する。


 貨幣の価値は、下から次のようになる。


 白銅貨、黄銅貨、中黄銅貨、銅貨、中銅貨、銀貨、中銀貨、金貨、中金貨、大金貨


 それぞれ、10枚で一つ上の貨幣と等価値となる。


 中銀貨1枚となると、白銅貨が100万枚となる金額になる。




 一般的な剣を新品で購入するとなれば、安い物なら銀貨1枚程度だが、高価な物なら、中銀貨1枚と言われても、上位の冒険者なら購入する。


 ただ、魔法紋を付与した魔剣なら、そんな値段では購入する事ができないのだ。


 それを考えると、斬れ味は、魔剣並みで、価格は、一般的な高級剣程度となっているので、そのギャップが、ユーリカリアには理解に苦しんだようだ。




 ユーリカリアは、剣を見ながら、カインクムに問いただす。


「おい、この剣、魔剣なのか。 魔法付与された剣なのか?」


 斬れ味の鋭さに、ただの剣なのか、それとも何らかの魔法紋が刻まれていて、斬れ味を増すようにされているのかと思ったのだろう、ユーリカリアがカインクムに尋ねた。


「あぁ、そうか、その剣に魔法紋を刻んだら、もっと、斬れ味が上がるし、耐久性も上がるなぁ」


 カインクムが、呑気にそんな事を言うと、それを聞いて、ユーリカリアは、顔を痙攣らせた。


 ただの剣に、これ程の斬れ味が有るとは、思ってなかったようだ。


 それで、かなり驚いた表情で、カインクムに聞き返した。


「これ、魔法付与も無く、これだけの斬れ味を維持しているのか」


「あぁ、何の付与もしてない、ただの剣だ」


 ユーリカリアは、自分の持っている太刀をマジマジと見つめる。


 何の魔法付与も無く、剣の持つ性能だけで、木の棒を斬った斬れ味に驚いていた。


 そのユーリカリアの試し斬りを見ていた、他のメンバーも自分のイメージと違う事に違和感を持っている様子だ。




 斬れ味の鋭さに、唖然として剣を見ているユーリカリアは、その表情が、だんだんと、新しいおもちゃを手に取った子供のようになる。


 それをみてウィルリーンが、このままだと、その剣を手放さなくなると思ったようだ。


 慌てて、ユーリカリアに話しかける。


「あんた、自分だけ、試し斬りをするために来たんじゃないだろう。 ほら、今の試し斬りを見て、気になっているのが、他にも居るんだから、変わってあげて」


 そう言うと、メンバーの3人が、うなづいているが、ヴィラレットだけは、不安そうにユーリカリアを見ている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る