第19話 試作品の剣に対するメンバーの不安


 ヴィラレットは、いつまでも、カインクムの作った剣を眺めていた。


 それ見た、ユーリカリアと、周りのメンバーが、剣が動くたびに、体を捻らせて避けているのを見て、ヴィラレットに注意を促す。


「その辺にしておけ」


 ハッとしたヴィラレットが、慌てて太刀を鞘に納める。


 そして、ヴィラレットは、少し残念そうな顔をした。


「ありがとうございました。 大変、貴重な剣を、見させていただきました」


 そう言って、太刀をカインクムに返すが、カインクムはその表情を見ていた。


「気に入ったみたいだな。 使ってみるか」


 カインクムが、ヴィラレットに聞くと、ヴィラレットの表情が一気に変わる。


 ヴィラレットは、まだ、新人冒険者だが、剣を扱うので、それなりに、色々な剣を見て回っていたので、見せてもらった剣が、かなり手の込んだ物だと理解できたようだ。


 見せてもらえただけ、手に取らせてもらっただけでも、ありがたいことだと感じて、まだ、自分には早い逸品だと感じていたのだった。


 これ程の逸品だと、お金を持っていっても、腕がその剣に追い追いてないと、店側が、売るのを断る事もあるのだが、カインクムは、ヴィラレットに使ってみるかと聞いてきたのだ。


 見て、触っただけで、満足していた。


 これは、自分には、まだ、早いと諦めていたところにカインクムは、自分に使ってみないかと尋ねてくれたのだ。


 希望が見えたような表情になってカインクムに応える。


「ええ、是非使ってみたいと思いますが、これ程の技物を、私のような新人には勿体無いですし、それに、このような技物を買う予算も有りません」


 それを聞いてカインクムは、僅かに笑う。


「これは、試作品なんだ。 まだ、完成品とは言えない代物だ。 本格的に売り出すまで、実際に使った感じが知りたいと思っている。 試し斬りも、まだなのでな。 嬢ちゃんさえ良ければ、モニターとして、この剣を使ってもらえないか。 それで、使ってくれた感想を教えてもらいたい。 ああ、それと、使った後の剣の状況を確認させて欲しいんだ」


 カインクムは、ヴィラレットの表情を見る。


 その表情には、自分で使ってみたいと思っているように、目をキラキラとさせていた。


 そんなヴィラレットに金額の話をする。


「販売価格は、銀貨10枚程度で考えているんだが、これは、試作品なので、銀貨3枚でどうだ。 その代わり、狩に出た後、ギルドに戻ったら必ずこの店に顔を出してもらって、剣の状態の確認と、斬った魔物について聞かせてもらいたい。 その手間賃として嬢ちゃんには銀貨7枚分を割引かせてももらう。 どうだ?」


 銀貨10枚と聞いた時は、がっかりしたような表情をしていたが、銀貨3枚と言われると、ヴィラレットの顔が明るくなる。


 その話を聞いていたエルフでユーリカリアと長年付き合いのあるウィルリーンが、少し不安そうに話に入ってきた。


「ご主人、ありがたい話なのだが、その剣は、まだ、試し斬りもしてないと仰っていた。 こいつはまだ新人なので、剣の良し悪しも分かっていない。 それに、失礼だが、試し斬りをしてないとの事だと、最初の一撃で剣が折れるなんて事になったら、我々の生存率に影響する。 最低限、何かで試し斬りをさせてもらえないか」


 新人で剣の使い方も未だ未熟なヴィラレットと、ウィルリーンは、思っているのか、それとも、カインクムに対しての言い訳なのか、なんとも言えない様子で、話に入ってきた。


 新しい技法で作った剣、しかも一般的な剣より刃幅が狭いので、すぐに折れてしまうのでは無いかと不安がある事を、ヴィラレットの未熟さを加えることで、カインクムに失礼にならないようにと思って、ウィルリーンは言ったのだ。


 そのような剣を、未熟なヴィラレットが試せるのか、万一のことを考えれば、もっともな意見である。




 ウィルリーンの話しは、もっともな意見であることはカインクムも十分に承知している。


 それならと思いカインクムはウィルリーンのメンバーに提案をする。


「それじゃあ、裏庭で試し斬りしてみるか」


 それを聞いて、ユーリカリアとヴィラレットの目が輝き出す。




 ユーリカリアとしても、時々、鍛冶屋で剣を眺めていたのだ。


 冒険者になったときに、ウィルリーンが剣を勧めたのに、頑として戦斧を選択した手前、なかなか、変更できずにいたのだ。


 変更したいと思ってはいたのだろうが、きっかけが無かったのだ。


 それが、時々、鍛冶屋で食い入るように剣を眺めていた理由と言える。


 ユーリカリアには、今、見せてもらった剣が自分が変われるチャンスのように感じた様子で、目を輝かせたのだった。




 それをみてカインクムは、もしジューネスティーンの剣が本物で自分の剣の出来が良ければ、このメンバー達は同じ物を欲しがるだろうと思ったのだろう。


 手応え有りと感じたのか、カインクムは続ける。


「確かに、試し斬りもしてない剣を、新人に押し付けるのは良くない。 いっそのこと、全員で試し斬りしてもらえないか。 それで、剣に問題が無ければ、この嬢ちゃんに使ってもらうってことでどうだろうか」


 そう言われると、全員が納得したような顔で、ユーリカリアを見る。


 カインクムとしては、理論的な内容だけで、試してない剣を、この冒険者達に試してもらい、感想を聞けるのはありがたいのだ。


 頭の中で考えていた内容を証明してくれるには、ユーリカリアは打って付けだと思っているのだ。


「すまないが、そうさせて貰えるか。 こちらとしても、ご主人の鍛治の腕を疑っている訳では無いのだが、曲剣で、これだけの刃幅の剣は見た事がなかったので、試し斬りをして安心させてもらえないだろうか」


 そのユーリカリアの提案に笑顔で答えるカインクムが、直ぐに行動に移る。


「それじゃあ、ちょっと、裏に行こうか」


 そういうと、フィルランカに視線を送った。


「フィルランカ。 店番頼む」


 カインクムは、ユーリカリアのメンバー6人を引き連れて裏庭に行く。

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