第32話 魔法の制御方法


 カインクムは、自分が魔法を覚えた時の事、魔法紋の魔法を覚えた時の話を詳しく説明する。


「成る程、イメージが大事なのか」


「ああ、あっちの魔法職の嬢ちゃんの魔法紋を刻む時も見せてもらったが、もっと簡単な詠唱だった。 頭に、 “ドロウイング” って唱えて、それから何か色々と言ってたんだが、単語を何個か唱えたと思うが、よく覚えてないんだ。 その後に、 “ここに有る全ての物質の反発力を、重力の方向にときはなち、重力の力と相殺せよ。” だったかな。 しかも、本当に小さな魔法紋が描けて、同じように使えたんだ」


 そう言って、親指と人差し指を丸めてシュレイノリアが描いた魔法紋の大きさを示す。


「あっちの魔法の嬢ちゃんは、説明が難しくてな、一緒にいた兄ちゃんに解説してもらったんだ。 そういえば、あの兄ちゃんから、最初に俺が魔法を半信半疑で試そうとしたら、直ぐに発動しないって言われたな。 それで、自分は魔法が使えると思えと言われたな」


 そういうと横にいるフィルランカが、その時の事を思い出したのか、カインクムの話に入ってきた。


「そういえば、私の水魔法は、いつも桶に向かってやってたのです。 そうしないと、周りが水浸しになってしまうのですけど、この人に水魔法を見せてと言われた時も、このカップに溜まる水をイメージして唱えるように言われたんです。 そうしたら、いま主人が見せたように、カップ一杯分の水が溜まったんです」


 ウィルリーンは考え込みながら、何か呟いているようだが、周りには何を言っているのか分からない。


「ご主人、それと奥方、おおよその事は分かった。 その魔法職の魔法が大した詠唱も無く作れたって事は、そのイメージする事が、魔法に大きく影響するって事が肝なんだろう。 私も詠唱をどれだけ師匠の内容に近くするかという事に気を取られていた。 だから、声の強弱やテンポとかそいった方に気を取られていた。 魔法はイメージが大事だったなんて、目から鱗が落ちたようだよ」


「そうだ、魔法の嬢ちゃん。 ちょっと待っててくれ」


 そう言って、店の奥にカインクムが向かった。




 直ぐに帰ってくると、台車を押してきた。


 持ってきた台車をひっくり返すと、そこに描かれていた魔法紋を見せた。


「ちょっと見てくれないか。 あっちの魔法職の嬢ちゃんが描いてくれた魔法紋なんだ」


 そういうとウィルリーンがカインクムの横に来て台車の裏を見た。


「かなり小さい魔法紋なんだ。 この大きさに描ければ、チーターの嬢ちゃんの剣にも魔法紋を刻めるんじゃ無いのか」


 真剣に覗き込むウィルリーンが、カインクムの魔法紋と比べてみようと、もう一つの台車が気になったようだ。


「ご主人、さっきの台車も持ってきてもらえるか」


 言われるままに持ってきて、台車をひっくり返して並べて置くと、2つの魔法紋を見比べた。


「魔法紋の感じは、ほとんど一緒だな。 だが、微妙な違いもありそうだ。 師匠と弟子の魔法紋は似ているから、恐らく微妙な違いは描いた人のイメージで変わってくるのだろう。 だが、基本的な部分は、南の王国のギルド高等学校の魔法紋に近い。 この魔法職はギルドの高等学校の出身者だな」


「そう言えば、そんな事を言ってたな」


 カインクムの答えに、ウィルリーンの脳裏に1人の顔が浮かぶ。


「そうか、あの時の娘が、この魔法紋を刻んだのか。 フフフ。 そうだったのか」


 そう言うと、カインクムに向かって、満面の笑みで伝える。


「ありがとう。 ご主人、私にも新たな師が見つかったよ」


 立ち上がって、ユーリカリアに伝えようとした。


「この人達に魔法を教えた人達が分かった。 それと、ヴィラレットの剣も、そいつらが絡んでいるはずだ」


 そう言うと、今度は、カインクムに向いた。


「ご主人、今日、購入した剣だが、それも、この魔法紋を刻んだパーティーの誰かが、ご主人に作り方を教えたんじゃ無いのか」


 少し焦ったカインクムだが、ウィルリーンの勢いに気圧されてしまった。


「あっ、ああ」


 1人で納得しているウィルリーンに、何事かとみているメンバー達なのだが、ウィルリーンは、周りの目を気にする事なく、笑い出しながら、何か呟いていた。


 ウィルリーンとすれば、全ての謎が解けた事から、笑いが込み上げてきたのだろうが、その笑い方が、周りからは不気味に見えたようだ。


 メンバーの5人は、心配そうにウィルリーンを見ていた。


「リーダー、ウィルリーンさん、壊れちゃったんじゃないの。 このままでいいの?」


 フィルルカーシャが、小声で、ユーリカリアに話しかけた。


「ああ、ちょっと、そんな感じだな」


 ユーリカリアは、フィルルカーシャの意見に同意するが、このままではまずいだろうと思ったようだ。


 そして、恐る恐る、ウィルリーンに話しかけるのだった。


「なあ、ウィルリーン。 何か分かったのか?」


 ウィルリーンは、ユーリカリアに話しかけられると、ユーリカリアとメンバー達を見た。


 惚けたようなメンバー達を見て、少し優越感に浸ったような顔をすると、自分の分かった事を伝えるつもりになったようだ。


「この剣も、魔法紋も、全て、この前、帝国に来たあの新人達だよ」


 それを聞いて、誰もが思い当たる顔が浮かんだようだ。


 ユーリカリア以外のメンバーは、ハッとして、ウィルリーンを見ていた。


 しかし、ユーリカリアは、思った通りだったと表情に出していた。


「ああ、やっぱり、ジュネス達か」


 ユーリカリアも、同じ意見だった様子で、この前、ギルドでカインクムと出会った時から、カインクムとジューネスティーンには、繋がりがあると思っていたのだ。


 だが、カインクムは、苦虫を噛んだような顔をしていた。


 そんなカインクムの表情を、誰も気にせずにいる中、ウィルリーンは、話を続けていた。


「そうか、そうだったのか、リーダー、今日の夜にでも、また、一緒に食事でもしておこう。 Cランクだって言ってたが、あの連中がCランクなら、私達はDどころか、FかGランクと言ってもいい連中だ。 魔法にしたってそうだが、その剣を作る技法を考えた連中だ、もっと、隠された何かを持っている。 世界のことわりを書き換える位の連中だ。」


 興奮しているウィルリーンに、ユーリカリアが、信じられないような顔をした。


「それは、ちょっと言い過ぎじゃないのか」


 諭すように言うが、ウィルリーンは、それには同意しないという表情をしつつ、自分が確信した内容をユーリカリアに伝えなければならないと思ったようだ。


「リーダー、あんた、その剣の試し斬りをして、その後どうした。 本当なら、ヴィラレットが買うはずだった剣を、先に買ってしまおうと思っていたんじゃないか。 ヴィラレットが、支払いをしていた時の顔を、私が見てなかったと思うのか。 これ程の剣を考えて、作り方を伝えた。 それを、ご主人が作ったんだよ」


 ユーリカリアは、言われてカインクムを見た。


「ご主人、その剣の作り方は、金糸雀亭にいるジューネスティーンなのか」


 ユーリカリアは、いつものジュネスではなく、ジューネスティーンと、略さずに言うのは、カインクムの選択肢を狭める為に言ったようだ。


(カインクムなら、ジュネスと会う程度の事なら、周りに話したりするだろうが、この前から、ども様子がおかしい。 ジュネスとカインクムのつながりを意図的に隠しているという事は、何か、秘密があるのだろうな)


 その声には、ユーリカリアもジューネスティーン達が、カインクムと、周りには知られたくない内容の何かを行なっているのではないかと思ったようだ。


 渋い顔をするカインクムが、仕方無さそうにうなずいた。


「ああ、そうだ、あいつの持っていた剣を見せてもらって、無理矢理教えてもらった」


 カインクムも嘘を付けない性格なのか素直に答えた。


 ユーリカリアの質問に正直に答えてしまったのだ。

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