第13話 鋼鉄の刃、軟鉄の棟と剣の芯


 鋼鉄と軟鉄、2種類の元となる鉄が出来上がると、鋼鉄を今度は、コの字型に叩き、間に軟鉄を入れるようにする。


 軟鉄は、今まで行ってきた鋼鉄の素材を作る前の素材である。


 先の工程で鋼鉄にする前の素材をコの字の内側に押し込む。


 先端側は軟鉄を、完全に覆うようにギリギリの位置に配置し、そして、鞘側は、軟鉄が気持ち外に出る様に配置してみた。


(細かな寸法をどうするかまでは聞く事ができなかった。 だが、今までの経験がある。 エルメアーナも作れたジュネスの剣だ。 俺にも出来る)


 カインクムは、難しい顔をしながら、合わせた鉄の塊を見る。


(自分の頭の中で、実際に使われ方を考えながら、どうなったら一番剣に衝撃が少なくなるのか、剣の内部での力の掛かり具合などを頭の中でイメージする。 それは、今までの経験を活かせば良い)


 カインクムは、イメージを膨らませているのだろう。


 計算して、大凡の構造を予想する。


 それを脳内だけで、検討しているので、顔は真剣な面持ちになる。


(地金を叩く時も火の中に入れる時も、どのような状態に構造にするのが良いのか、……。 先端部に軟鉄は、それ程多くは必要無いか、無くても良いだろうが、それ以外は軟鉄によって、斬り裂く際に、当たった衝撃を吸収させる必要があるのか)


 そう考えて切先部分には、軟鉄は無くても問題は無いと考えたのだろう、コの字型に作った鋼鉄の先端部分を塞ぎ、空いている部分に軟鉄を槌で押し込んでしまう。




 剣の素材として、2種類の鉄を嵌合して作った鉄の塊を熱して、全体の温度を均一にすると、槌で叩いて剣の形になるように徐徐に伸ばしていく。


 鉄の塊だった物は、叩く度に、徐々に、長さを伸ばしていき、剣の形を形成していく。


 徐々に、細長く伸ばすように叩く。


 途中、横に広がるのを抑えつつ、長く伸ばすように叩く。




 剣の形に仕上がったら、形を整える。


 切先をどうするかと考えるが、やはり尖らせる事にする様だ。


 斬る為に作ってはいるが、戦いの状況では、全てが自分の思ったように、剣で斬る事は出来ないで、咄嗟に突いてしまう事も考えると、切先の鋭さは必要となる。


 そうなると、切先も尖っている方が良いし、硬い素材を使った方が良い。


 ならば、切先の形は先端に行くほど尖った方が良い。


 そう思うと、先端部分を斜めに切る事にする。


 刃側の先端から峰に向かって斜めに切り落とすと、その部分を槌で叩いて切断面を峰の方に曲げていく。


 切先を峰側に反らせるようにするが、部分的に行う作業なので、温度も直ぐに下がってくる。


 表面の色を確認しつつ、何度も炉のなかに入れ吹い子で風を送っては剣の温度を一定に保ちつつ、切先の形を整えていく。




 また、剣を砥ぐ時に砥石に当てた際、凸凹では、凹んだ部分に合わせて研ぐ事になる。


 この時に可能な限り凸凹を無くす事で、簡単に砥ぐことができるようにする。


 何度も剣をかざして表面の凹凸を取り除き形を整える。




 剣は断面が菱形になる様に厚みを整形していく。


 見せてもらった剣の形をイメージしながら、その形に近づける。


 その際にジューネスティーンの言っていた事考えながら槌を振るっているのだろう。


 叩かれている剣は、左右に曲がる事無く、真っ直ぐ伸びている。




 剣をかざして、表面の凹凸も気にならなくなったのだろう。


 納得のいく形になったので、真剣に向き合っていた顔つきに、僅かに笑みが見える。


「自分は刺す剣より斬る剣の方が好きなので、焼き入れの時、土の厚みを変えた事で、曲がりを作ってます」


 ジューネスティーンの言葉を思い出すと、焼き入れの際に表面に土を塗ることで、剣に曲りをつける。


 刺す剣は直剣のことで、斬る剣とは曲剣になる。


 この事から、最初は直剣を作っていて、最後の焼入れ工程で、曲剣にしている事が、カインクムにも予想が付いたのだろう。


 完成した剣は、曲がりの無い一直線の剣となっていた。




 曲剣を作る際、切先から手元まで同じ刃幅を維持させるのが難しくなることと、斬る際に刀が折れないように先端から手元までの刃幅を徐々に厚くして、手元や中程で折れ難くなるようにしてある。


 切先から手元迄同じ刃幅をキープした剣は、曲がった状態で剣を作るため、同じ刃幅をキープしようとするには、熟練の技が必要になるが、直剣であれば剣をかざして見ることで、どの部分が厚いか一目で分かる。


 その為、どの鍛冶屋も曲剣は作りたがらない。


 それが、焼き入れの際に直剣を曲げる事が出来るとなれば、高性能で見た目も豊かな剣になる。


 直剣のように仕上げる。




 焼き入れの際に、刃の部分は薄く土を塗り、背の部分は厚く土を盛ることで、焼き入れの温度差を利用して曲げる。


 このように土を剣に塗り付ける事で、刃と棟で、焼き入れの際の、温度の下り方を変える事で鉄の素材の変化を上手に利用する。


 カインクムは、このような方法は、今まで、聞いた事がなかったのだ。


 曲刀は叩いて、その形になるように叩きながら曲げていくのだが、直剣を曲剣にするなんてことは聞いた事がなかったのだ。


 焼き入れの際に土が薄い部分は早く熱が抜けて、厚い部分は熱が抜け難くなる。




 早く焼き入れが入る部分と、ゆっくりと、焼き入れをする部分ができる事で、鉄の持つ素材の伸縮率が変わるのを利用して曲げる。


 早く温度が下がる部分は、長めに伸縮するが、ゆっくりと温度が下がる部分は、短めに伸縮する。


 その事をジューネスティーンは、焼き入れの際に行っているのだ。


 ただ、高温に熱した剣は、その熱による熱膨張の影響で、急激に温度が下がった刃側と、ゆっくりと温度が下がる峰側では、熱収縮の影響で、熱が早く抜ける刃側に一旦反りが入り、ゆっくりと温度が下がる棟側との温度差によって、一旦は、刃側に反りが入り、刀が水の温度になれば、素材の焼き入れの入り方の違いで棟側に縮むので反りがでる。


 結果、焼き入れをおこなた後は、剣は棟側に反る事になる。


 焼き入れを行うと、鉄は強度が増すので、日本刀にはよく施される技術だが、この世界では、土を塗るとか、焼き入れの入れ方で曲げるとは聞いたことのない話だった。


 ジューネスティーンの言っていた内容を試してみる事にするので、その事を考えてみる。


 あのジューネスティーンが、持っていた剣を作りたい。


 そして、その技術を、自分の物にしたいとカインクムは思っているのだろう。




 ほぼ形になった剣を見て、修正を行わなければいけない箇所が無いか確認のため、手元から覗くように切先を見る。


 厚みが厚いところや幅が広い部分を剣をかざして見る事で確認して、厚めの部分や幅の広い部分を叩いて、剣の厚みと幅を均一にしていく。


 曲剣であれば、この時に厚みのムラは見つけにくいのだが、直剣なので、かなりスムーズに厚みの均等性が取れたようだ。


 厚みの均等性が取れてなければ、研ぎの工程で厚い部分を余計に削って均等性を取らなければならなくなるので、綺麗な平面になる様に何度もかざしてみては叩く事になる。


 納得がいく仕上がりになった。

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