第46話 来店するユーリカリア達


 カインクムが、金の帽子亭に、ユーリカリア達の剣ができたと、伝言を伝えた翌日、ユーリカリア達は、全員で店を訪れた。


「カインクムさん。 お邪魔するよ」


 ユーリカリア達は、朝食を済ませて、すぐ、その足で、カインクムの店を訪れた。


「おお、こんなに早い時間に来るとは思わなかったよ」


 店の準備を始めようとしていたカインクムが、ユーリカリア達を迎えた。


 ただ、ユーリカリアの腰には、ジューネスティーンの剣と同じような剣を下げていたので、カインクムは、その剣を見て眉を顰めた。


「おい、ユーリカリア。 お前、俺の所に剣を頼んでおいて、他にも、同じような剣を頼んでいたのか?」


 カインクムは、ユーリカリアが、戦斧を使っている事を知っていた。


 そして、ヴィラレットの剣を試し斬りして、自分も戦斧から剣に変更すると言っていたのに、もう、腰に剣を下げているので、不思議に思ったようだ。


「ああ、これな。 この前、南の王国の商人から頂いたんだ。 それで、この剣は、ここに持ってこなければいけないと思って、今日は持ってきたんだよ」


 そう言って、腰に下げていた剣を鞘ごと外して、カインクムに渡した。


「南の王国の商人? ひょっとして、ジュエルイアンか!」


「ああ、そうだ」


 カインクムの表情が変わる。


(ジュエルイアンが、帝国に来たのは、パワードスーツの納品の時だ。 あの時、この剣を持っていたはずなに、俺には何も言わなかったのか!)


「これは、エルメアーナの剣じゃないのか?」


 カインクムは、情報を確定させるための質問を、ユーリカリアにした。


「そうだよ。 ジュエルイアンが、こっちに持ってきたようだ」


 渡された剣を持つ手が、震え始めた。


「ジュエルイアンのやつ、そんな事、何にも言ってなかったぞ。 あいつは、あの時、この剣を持っていたのに、俺には見せなかったのか!」


 カインクムは、腹を立てているのが周りに分かった。


 ユーリカリア達は、全員が一歩下がる。


 ユーリカリアとしたら、良かれと思って持ってきたのだが、それによって、ジュエルイアンが、エルメアーナの剣を、カインクムには、持っている事を教えてなかったことを知られてしまったのだ。


「リーダー。 ちょっと、雲行きが悪いようですけど」


 フェイルカミラが、焦った様子でユーリカリアに話しかけるのだが、ユーリカリアも、カインクムが今にも爆発しそうな様子なので少し焦っており、カインクムから目が離せないでいる。


「ああ、俺だって、ジュエルイアンがカインクムの店に寄ってたなんて知るわけないだろう」


 少しビビり気味でフェルカミラに答える。


「そうですよ。 カインクムさんとジュエルイアンさんが、繋がっているなんて、こっちがわかるわけないですよ」


 その2人の会話を聞いていたウィルリーンが、そんな所に繋がりがあるとは思ってなかったので、2人の会話に入ってきた。


 すると、奥から、フィルランカが店に入ってきた。


「ユーリカリアさん。 いらっしゃいませ」


 そう言って、丁寧にお辞儀をした。


 フィルランカとしたら、ユーリカリア達は、一度に5本の剣を買ってくれた大切なお客様なのだ。


 これだけで、どれ程の金額になるかと思ったら、丁寧な対応になってしまった。


 ただ、頭を上げる時に、雰囲気が、変だと気がついたようだ。


 ユーリカリア達6人は、少し怯え気味になっているので、不思議に思って、カインクムの様子を確認すると、手に持った剣を凝視していた。


 そして、その手は、少し震えていたのだ。


 不思議に思ったフィルランカは、カインクムに話しかけた。


「あなた、それはどうしたのですか? ……。 おや、注文を受けた剣とは、少し違うみたいですねぇ」


 カインクムの持つ剣を見て、フィルランカは、不思議に思って聞いた。


「なんだか、どこかで見たことのあるような剣ですね」


 フィルランカは、自分の記憶の中に思い当たるものがあったようだ。


 それは、エルメアーナの剣なので、元はジューネスティーンの作った剣となる。


 先日、家に来た時にカインクムが食い入るように見て、根掘り葉掘り聞いていたのを知っているので、フィルランカとしても僅かに自分の記憶の中にあるものと一致して見えたのだ。


 そして、フィルランカは、エルメアーナの剣を見たので、カインクムもフィルランカの様子に気が付いた。


「これは、エルメアーナの剣だ」


 カインクムが、ボソリと答えた。


「まあ、エルメアーナの剣だったのですか。 よかったですね。 では、早速、確認させてもらいましょうよ」


 フィルランカは、エルメアーナと聞いて、カインクムは喜ぶと思ったのか、笑顔で、確認を促した。


「あなた、いつも、エルメアーナの事を心配してたじゃないですか。 娘であって弟子である、エルメアーナが、どれだけ腕が上がったのか、確認できますよ」


 フィルランカに言われると、カインクムの怒りも徐々におさまったようだ。


 そのカインクムの表情を見て、ユーリカリア達も、緊張が和らいだようだ。


「ユーリカリア、済まないが、剣を見させてもらっていいか?」


 フィルランカのお陰で、カインクムの様子もおさまってきたこともあり、ユーリカリアはホッとしたようだ。


「あ、ああ」


 まだ、少し緊張しているのか、ユーリカリアは、少しどもり気味で答えた。


 カインクムは、鞘から剣を抜くと、上にかざして見た。


 そして、方向を変えて確認をしてから、ゆっくりと、鞘に収めると、ユーリカリアに剣を返す。


「ありがとうよ。 いいものを見させてもらった」


「あ、ああ」


 カインクムの表情が、今まで見たこともない表情だったので、ユーリカリア達は、いまだにその余韻に引きずられている。


 その雰囲気を嫌ったフィルランカが、声をかけた。


「さあ、皆さん。 そちらのテーブルへどうぞ。 今、お茶を出します」


 そう言って、商談用のテーブルにユーリカリア達を促す。


「あなたは、注文の品を持ってきてください」


 フィルランカに言われて、それぞれが、動き出した。


 カインクムが、工房に行くため、店の奥に消えると、ユーリカリア達から、ため息が漏れた。


「すみませんね。 皆さん。 何か嫌な思いをさせてしまったみたいですね」


「ああ、いえ、こちらも、何も考えずに、この剣を持ってきたのが、よくなかったみたいなんです」


 ユーリカリアの言葉に、フィルランカは、笑顔を返す。


「男の人は、一言足りないところがありますから、それでだと思います。 でも、主人も、エルメアーナの剣を見れて、嬉しかったと思います。 ありがとうございました」


 そう言って、フィルランカは、ユーリカリア達にお茶を振る舞っていった。

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