試し斬り

第17話 来店するヴィラレット

 

 フィルランカは、カインクムの店の番をしている。


 通常ならカインクムが行うのだが、工房に入り込んでしまうと、店番はいつもフィルランカになる。


 店に売っているものを、販売するだけなら、価格も全部わかっているので、問題はない。


 ただ、修理の相談や特注の場合は、カインクムの作業の邪魔にならないように、お客様との時間の調整を行うのだ。




 カインクムの武器は、冒険者から、人気が高い。


 ギルド、ツ・バール支部に近い事もあって、購入してくれる人も多い。


 武器は、既製品を、色々、作っているが、防具に関しては、見本になるフルプレートアーマーが、一つ飾ってあるが、購入目的ではなく、見本として飾っている。


 フルプレートアーマーともなると、金額も高くなるが、その人の体型に合わせて作るのが一般的な為、こういったものも作れますと、アピールする事が目的である。


 フィルランカは、そのフルプレートアーマーを、毎日磨き、埃が付かないようにしてから、店番をするので、その為、見本として置いてあるフルプレートアーマーに愛着を感じているのだった。


 おっとりしたフィルランカなので、時々、見本のフルプレートアーマーに話しかけている事もある。


 それは、カインクムが、工房にこもってしまうと、話もせず、食事も取らずと、自分が居ないかのような態度を愚痴ったり、来てくれたお客の話だったり、色々である。




 朝の日課が終わって、カウンターの中に入って椅子に座ると、今日の夕食に何を出そうか、考える事にしている。


 昼食については、ローテーションで出す事にしているので、8日後には、その時と同じ物が出てくるが、盛り付け方とかを変更したり、月に1回か2回のペースで新しい料理を出すようにしている。


 その為、考える料理は、いつも夕飯のメニューである。




 今日も、いつものように夕飯のメニューを考えていると、入り口のドアが空いて、冒険者達が入ってくる。


「いらっしゃいませ」


 笑顔で、入ってきた冒険者に声を掛けるフィルランカは、入ってきた顧客の顔を見ると、直ぐに応対をする。


「今日は、どのようなご用件ですか」


 いつものように冒険者に伝える。


 冒険者は、6人だった。




 全員が女性、最初に入ってきた女性は、背が低いのだが、体格はしっかりしているが腹は出てない。


 筋肉質の体躯で胸板が厚いことが、一目でわかるが、厚い胸板の上に二つの膨らみがあることから、女性とすぐにわかる。


 女性のドワーフである。


 普通のドワーフの女子より背が高いので、一瞬、小さめの人属かと思ったが、その顔を見てドワーフの女性とフィルランカは判断した。


 ドワーフは女性の出生率が低い為、帝国の冒険者で女性のドワーフといえば、ユーリカリアしか居ない。


 フィルランカは、冒険者では無いが、パーティーはAランクであって、女性だけのメンバーで、人属の居ないこのパーティーの事はよく知っている。




 フィルランカに声を掛けられたので、ユーリカリアが受け答えをする。


「今日は、ご主人は不在ですか」


「いえ、今日は工房に入っております。 今日は、呼ばれても直ぐに出れると言ってましたから、呼んできましょうか」


 カインクムは、火を使う時は、声を掛けないようにと伝えるのだが、それ以外の時は、呼んでも構わないと言われている。


 今日は、声をかけても構わないと言われていたので、呼んでこようかと声をかけた。


「すまないが、お願いできますか」


 ユーリカリアは、そう言うと、後ろにいたヴィラレットに声を掛ける。


「おーい、お前の用事で来たんだ、お前も、ちゃんとお願いしろ」


 そう言われたヴィラレットが ユーリカリアの横に来る。


「ご主人に相談したい事が有って来ました。 よろしくお願いします」


 申し訳無さそうに、ヴィラレットが、フィルランカにお願いする。


「わかりました。 今、呼んできますから、少々、お待ちください」


 何事か判らないが、笑顔で答えるフィルランカは、ヴィラレットの表情を気にしながら、店の奥に行く。




 店の奥に行って、直ぐに戻ってきたフィルランカは、商談用のテーブルに招く。


 ユーリカリア達なら、商談用のテーブルに案内して、お茶を出しておいてほしいと、カインクムに言われていたので、フィルランカは、言われた通り、ユーリカリア達をテーブルに案内する。


「主人は、直ぐに来ますので、そちらでお待ち下さい。 今、足りない分の椅子は用意しますので」


 そう言って、店の中にある、商談用の4人がけのテーブルに招く。


「じゃあ、失礼する」


 ユーリカリアが、そう言ってテーブルに座ると、ヴィラレットに隣に座るように招くと、ヴィラレットは申し訳無さそうにその椅子に座る。


 残りの4人は、フィルランカが持ってきた椅子をもらって、その周りに座った。


 フィルランカは、カインクムが来るまでの間に、お茶を6人に振る舞うと、カインクムが奥から出てきた。




 カインクムは、店の商談用のテーブルに座るユーリカリア達を確認すると、いつもより機嫌よくこ話しかける。


「おお、あんたらか、今日はどうしたんだ」


 そう言いながら、片手には先日作った曲剣を持っている。


 カインクムは、ユーリカリア達が来たと聞いて、新たに作った剣が必要になったと思い持ってきたのだ。


 そして、ヴィラレットのレイビアが折れた事を確信して、それまでに自分の剣が完成した事を密かに喜んでいたのだ。

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