第2話



 シキは朝の勉強会の話からうわの空なままだ。


 そんな状態で放課後になり、俺は筆記用具や課題をカバンの中へしまうとシキに話しかけた。


「シキ、帰ろうぜ」

「おう。いいよ」


 ようやくまともな反応が返ってきた。


 俺は椅子から腰を上げて、教室の扉へ歩き始めた。

 途中、クラスメイトに話しかけられれば挨拶を返して、教室を出る。


 ふと後ろを振り返ると、そこには珍しい人物が付いてきていて、普段はシキを避けて帰っていたはずだった。


 表情の暗い彼女を見て不思議思う。

 帰り道は同じなので、学校を出たら話し掛けてみようかと考えていると、彼女に話しかけられた。


「あ、あのさ」

「ん?」


 シキは振り返ると意外そうな表情をする。

 学校で話しかけられたのが珍しいのだろうか。


「帰り道、少しだけ話させて」

「え?」


 黒髪吊り目の美少女、六花はそれだけいうと下駄箱へ先に歩いて行った。


「何だったんだ?」

「さあ? 俺、お邪魔みたいだし、少し遅れて帰るよ」

「いや、大丈夫だろ。一緒に話を聞こうぜ」


 シキは良くても、六花が良いわけではない。


 そう思うのだが、面白そうな事が目の前で起きるのなら、その場面を目撃したいと思うこの頃。


 許可が出たなら、付いて行ってしまうのが面白いかもしれない。



 六花は校門から出た所で待っていた。


 ここはここで、人が多いような気がする。

 先に行ってしまった理由わけは分からなかったが、クラスメイトに見られるのが嫌だったのかもしれない。


 でも、今朝に仲の良いところを見せつけてんだよなぁ。


「藍原くんも一緒なのね」

「どうもー。よろしくねー」

「まずかったか?」

「ううん。むしろ心強いわ。シキだけだと不安だし」

「相談するくせに随分な物言いだな」

「しょうがないわよ。普段からナヨナヨしてるし」

「クマみたいなパワーのチアキに比べたら、しょうがないだろ」

「なっ! く、クマって!」


 シキと六花は口喧嘩を始めてしまう。


 クマはきっと、パンツのところから来てるんだろうな。

 くまぱわ〜。


「まあ、夫婦喧嘩は犬も食わないんだから、歩きながら話そうぜ」

「誰が夫婦だ!」

「誰が夫婦よ!」


 夫婦は声を揃えている君たちのことだよ。

 事実として婚約予定だし。


 なんとか2人をなだめて、帰路につく。


「それで、話ってなんだよ?」

「あー、うん……」


 シキが訊ねると六花の歯切れが悪くなる。


「あ、あんたさ。今度の土曜日に家で勉強会するって言ってたじゃない?」

「ああ。二階堂と工藤が家に来る予定だ」


 そこまで話が進んで、俺は不思議には思う。

 俺がシキと六花が一緒に暮らしていると、六花は知っているのだろうか。


 まあ、流れ的に知っている前提で話は進んでるし、気にするところではないか。


「私も……土曜日に人呼んじゃった……」

「えっ……」

「ひょっ?」


 まさか、どっちかがバレないように家に隠れてバタバタするラブコメ展開なのか?


「今朝に八千さんと勉強会するって言ったでしょ?」

「そういえば、言ってたな」

「それ、ウチで勉強会するつもりだったの」

「……」


 なるほど。ダブルブッキングだったか。

 普通に困るパターンだな。


 でも、その前に『ウチで』って、もう家族同然な関係だから、思わずお目目をぱちぱちして見ちゃう。


「ごめん。居候いそうろうの私が図々しく……」

「いや、別に責めちゃいねぇよ」

「日にちズラせば何とかなるかな?」

「うーん……やってみるか」


 2人の会話に俺はニッコニコしてしまう。


「六花は家に友達呼んだら表札で一緒に住んでるってバレないか?」

「……」

「……」


 全く考えてなかったようだ。

 アホなのかな。


「私、場所変えて貰うようにお願いしてみるね」

「ああ。頼んだ」


 六花の落ち込んだ表情にシキは申し訳なさそうに眉間にシワを作る。


「いや、大丈夫じゃないか?」

「なんでだ?」


 俺がそう言うとシキが首を傾げた。

 この状況をもっと面白くするなら、まとめてしまえばいい。


「だってさ、2人とも友達を家に呼ぶんだろ? なら、一緒に勉強すればいいじゃん」

「でも、一緒に住んでるってバレるだろ?」

「シキの家に行くって話でみんなを集めちゃえばいいじゃんか」

「……なるほどな。そうしたら、六花も家で勉強が出来るのか」

「でも、それって私達がいても大丈夫なの?」


 六花が申し訳なさそうに訊ねる。


「俺は大丈夫だけど」

「たぶん、二階堂たちも大丈夫だろ。そんな六花たちを嫌がる奴らじゃないし」

「なら、明日にでも八千さんに聞いてみるね」


 表情を明るくした六花が楽しそうに笑う。


 はてさて、土曜日は楽しいお勉強会になりそうだ。

 誘われてない俺も既に行く気満々で準備を整えよう。

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