第4話



 土曜日の参加者は6人で、俺、シキ、クルリ、二階堂、六花、八千がシキの家に集まる。


 ここに百合川ゆりかわまいという女の子も誘っていたが、どうしても勉強したくないと言い張り、ついには不参加になった。


 どうしてそんなに勉強したくないのだろうか。


 断るメッセージも『勉強したくないでござる! 勉強したくないでござる!』と既に重症の勉強嫌いだった。


 そんな世間話はさておき、ついに土曜日はやってきた。


 俺はクルリ、二階堂、八千を案内するために駅で待ち合わせ、みんなが集まるとシキの家へ向かった。


「ノリで勉強会に参加させてくれて、ありがとう」


 八千はクルリと二階堂に両手を合わせて、お礼を言う。


「いや、大丈夫だよ。みんなで勉強した方が楽しいから」

「そうそう。みんながいれば文殊の知恵だぜ!」

「それ、違うと思うわよ」


 二階堂と俺が八千に気にしないように伝える。


「もう〜、クルリちゃんたら理屈のお化けさん。冗談に決まってるじゃん」

「はぁ……。あなたって本当に疲れるわね」


 クルリは眉間に人差し指を当てて、シワを伸ばすようにほぐす。


「2人とも仲良いよね」

「息が合ってるね!」


 二階堂が柔らかく笑い、八千は人差し指を立てて楽しげだ。


「……やめてちょうだい。こんなのと同類なんて嫌よ」

「こんなのって酷いなぁ〜」

「ほら! 仲良いじゃん!」


 太陽と青空。それと元気が似合う活発さは八千のトレンドマークだ。

 今日の格好も水色のシャツに白のワイドパンツと青空のようだ。


 そんな彼女の明るさが眩しすぎるのか、クルリは眠たげな目を細くした。


 そんなクルリの隣に二階堂は並び、微笑む。


「今日、楽しみだね」

「コハルはぐいぐい行きなさいよ」

「な、なな何のことかな!」

「……がんばれ」

「……うん」


 少し赤面した二階堂は前髪をいじり頷いた。


「コハルちゃん。可愛いわね」

「突然、どうしたんだ?」


 俺の隣に並んだ八千は、うんうんと頷きながら前を歩く2人を見つめた。


 視線の先には7分丈のジーパンとTシャツのポニーテールの女の子と、黒のプリーツロングスカートと白のブラウスを着合わせた黒髪の女の子がいる。


「分からない? あの透明感と可愛さは女子高生ならではだよ」

「急にオッサンみたいなこと言い出すな。でも、そう捉えますか〜」

「おっ、藍原あいはら師匠せんせいはどう捉えますか?」

「そうですなぁ〜。透明感と可愛さは同意だけど、まだ足りない。すこやかで爽やかな感じとほんのりと甘い感じの可愛さ。柔らかそうな髪質。風に揺れるミディアムヘア。夏の太陽にも負けない白い肌。女子高生の中でもズバ抜けている」

「ほうほう。なるほど、なるほど。言われてみれば、カルピスのイメージCMにチョイスされそうな美少女ですね」

「あれに白いノースリーブのワンピースで片手にカルピス。絵になるだろうなぁ」

「応募しとこ」

「やめときなさい」


 暴走気味に八千とふざけ合う。

 男子の会話にも付き合ってくれるとは、やはり八千は接しやすい。


「クルリちゃんとコハルちゃんと絡む事なかったから、今日は一緒に勉強できて嬉しいなぁ」


 八千はニンマリと笑い、満足そうだ。


「そういえば、六花と勉強会だったのが変わったけど大丈夫だったのか?」

「大丈夫、大丈夫。みんな集まれば文殊の知恵なんでしょ? それにチアキちゃんとは放課後に勉強してたし」

「ほー。すげー仲良くなってるんだな」

「でしょでしょ」


 八千は指でブイマークを作る。


「チアキちゃん。頑張り屋だから、ついつい、かまいたくなっちゃうからね」

「そうなんだ。まあ、頑張り屋な気がするな」


 シキと放課後に2人で日本語の勉強してたのを思い出すと頑張り屋な気がする。


「それに、分からない日本語を教える時の背徳感がすごい」

「変な言葉を教えてそうだな」

「大丈夫。まだ健全だから」


 まだってなんだよ。これから怪しくなるのかよ。


「それにしても、六花と仲良くなれて良かったな」

「まあねぇ。藍原くんがあの時に教えてくれて良かったよ」


 八千が人と仲良くなるのが上手で良かった。

 六花もクラスに馴染んできたし、日本語も慣れたようだった。

 あの頑張りが報われたと考えると、こちらも達成感があった。


 そんな会話をしていると、シキの家に着いた。


「でか……」


 八千が呟き、二階堂は目を大きくしている。

 みんなそれぞれ驚いてるようだ。まあ、クルリはいつも通り反応が薄い。


 シキの家は和風建築だ。

 瓦の乗った漆喰しっくいの外壁が並び、それに沿って歩くと長屋門が現れる。


 長屋門の脇にはインターホンがあり、それを押して、到着したことを伝える。


 しばらくして、長屋門の大扉の横にある勝手口が開いた。


「よっ! いらっしゃい」

「みんな、いらっしゃい!」


 そこに現れたのはシキと六花で、俺は思わずため息を吐いた。


 シキと六花の様子を見て、みんな不思議そうに首を傾げた。


「六花さんは随分と早く着いたのね」


 クルリが訊ねる。


「え!? ああ、うん! そうそう!」


 何の回答にもなっていない六花を見て、薄く笑う。

 この2人はバカなのかしら。

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