第5話



 早速、シキの家へと上がらせてもらう。

 シキの家は平家で、畳の部屋がいくつかある。

 俺らはそのうちの一つに案内され、みんなら座卓を囲むように座る。


「んじゃ、お茶の準備してくるわ」

「わ、私も行く」


 シキが立ち上がると、つられるように六花が立ち上がる。

 シキはサルエルパンツにTシャツ、六花は8分丈のシルエットパンツにTシャツとラフな格好だ。


 そして、六花は友達を歓迎したいのだろうが、色々と墓穴を掘っている。


 クルリはそんな2人の様子をじっと睨んで、何か思案しているようにみえた。

 そのうちクルリには同居しているとバレるだろう。


 そして、視線を二階堂へと向けると胸の前に片手を握り、少し悲しそう表情で2人を見ていた。

 二階堂の様子は痛々しく、俺は思わず視線を逸らした。


「あの2人ってカップルというよりも夫婦だね」


 八千が両手でカメラの構えをして、2人の出て行ったふすまを片目を瞑って見ていた。


「そうね。六花さんもこの家の勝手を知っているようだし、まるで一緒に暮らしているみたいね」


 クルリはカバンの中から勉強道具を取り出して、興味なさそうに八千へ言葉を返した。


「あはは。それぐらいお似合いだよね」


 二階堂は困ったように笑い、その姿はどうにもずっと見ていられるものではなかった。


「そうだよね。さて、何から勉強する?」


 その様子に察したかのように、八千は話題を変えた。

 各々で勉強道具を取り出して、教科を合わせて勉強を始めた。


 シキ達が戻ってくるとお茶を配り、空いている場所に座った。


 何かの策略を感じるが、俺、クルリ、二階堂、シキ、六花、八千の並びで座卓の周りを囲っており、シキはきちんとヒロイン達に囲まれている。


 これが主人公補正か。そう思わずにいられなかった。


「ねぇ、クルリ。これってどうやって解くの?」


 二階堂が隣に座るクルリに訊ねる。

 クルリは視線を一度向けるとすぐに戻す。


「エー、ワッカンナーイ。ドウヤッテ、トクンダロー」

「え。く、クルリ?」


 突然、棒読みで話し始めるクルリに二階堂は動揺する。


「どうしたの?」

「私じゃなくて、朝一に聞きなさいよ。ワタシ、ワッカンナーイ」

「えぇー……。絶対、嘘だよね。だって、隣で同じ問題を解いてたよね」

「知らないわ」


 クルリの態度はあからさまで、その行動の意図も見え見えである。


 もちろん、俺と八千は察したように猫目で興味を持ち、シキは喜びを見せないように顔を手で覆っていた。


 これでお互いに両想いだと気がつかないのだから、主人公補正とヒロイン補正って凄い。


 同じヒロインの六花はどうしているか見てみると、ソワソワと目をキョロキョロと動かして、何かを待つような様子だった。


 どういう心境なのかは分からない。

 一体、何にソワソワしているのだろうか。


「えーと、朝一くん」

「は、はい」

「勉強教えてもらってもいい?」


 少し頬を赤らめさせた二階堂が潤んだ瞳でシキに訊ねた。


 手で顔を覆ったシキがコクコクと頷くと、二階堂はノートをシキの方へ寄せる。


「ごめんね。この問題なんだけど……」

「ああ、この問題か。えーと、解き方は……」


 2人で勉強し始める姿を見て、八千はニンマリと満足げに微笑んだ。

 クルリも安心したように息を吐いて、勉強に戻る。

 そんな中、1人だけ挙動不審に視線だけをキョロキョロさせる女の子がいた。


「六花さん、どうかした?」

「ふぇえぇ! ななななんと!?」

「動揺しすぎ。何かキョロキョロしてたから、何か気になることでもあるのかと思って」


 六花は大きく狼狽うろたえる。

 美人でクールな印象を持たせる目つきは大きく開き、頬が上気したように赤い。


「何にもないわよ! 全く何もないわよ!」


 そう口走るわりに視線はキョロキョロと動き、二階堂のノートと自分のノートを行き来する。


「なんだよ。俺に何か用でもあるのか?」


 二階堂と勉強し始めたシキがじと目で六花を見る。


「は? あんたには一切用事なんてないわよ」

「お、おう。……ごめん」


 素に戻る六花にシキは驚いたように謝った。


「あっ! もしかして、勉強教えてみたかった?」


 八千の言葉に六花は顔を赤くする。


「そうか。だから、二階堂のノートをチラチラと見てたのか」

「なっ!!」

「挙動不審だったのも、そのせいかしら?」

「きょ、挙動不審?」

「普段、教わることが多いから逆のことをしたかったとか?」

「……うん。そうよ。ダメ?」


 みんなからアレコレ言われて、六花は顎を引いて、周りを見る。

 その様子は普段は気丈な猫がおっちょこちょいをするような姿に似ている。


「……ふふ」


 二階堂が手を口元に持っていって笑う。

 柔らかく、温かみのある微笑みに思わず天使が降りてきたのかと勘違いしてしまいそうだ。


「そしたら、教えて貰おうかな。朝一くん、場所変わってもらってもいい?」


 優しい眼差しで六花とシキに視線を向ける。

 シキは二階堂の表情に驚いたままだったが、話しかけられてると気がつくと、頷く。


「おう。もちろん」

「ありがとう」


 場所を交代する2人を見て、クルリは1人で小さくため息を吐いた。

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