第3話



 スマホのメッセージの先頭には昨日に作られたグループ会話から並んでいる。


 『よろしく!』とメッセージから数時間が経っている。それを見ていると、新しい通知がメッセージを更新する。


「おっ、きたきた」


 下駄箱で時間と共にメッセージだけ確認するとスマホをポケットへしまった。

 届いたメッセージを教室で返そうと、自分の教室へ向かった。


 教室へ着くと、教室内はいつもよりも人が多い気がした。

 ふと見回してみれば、運動部が多い。その中に知った顔を見つけて近づいた。


「よっ、八千」

「おっす! おはよ」

「おはよ。この時間に教室にいるの珍しいな」

「うん。今日から試験前休みで朝練ないから」

「もうそんな時期か」

「昨日にグループ出来たじゃん」

「そうだけど、意外と実感なかったからさ」


 表情を崩せば、八千も笑う。


「土曜日の勉強会って、藍原くんも来るんでしょ?」

「もちろん。面白そうなことが起きそうだしな」

「あはは。朝一くんと六花さんがいたら飽きないだろうね」


 そんな話をしていると、背の低いポニーテールの女の子が教室から入ってくると、俺の横で止まった。


「……邪魔よ」

「およ? おはよ、クルリちゃん」

「おはよー、クルリちゃん」

「……おはよ」


 血圧の低そうな返事と眠たげな目をクルリは八千に向けると、小さく手を振る。それを八千も手を振って応える。


「それで、通り道の邪魔よ」


 八千への優しげ態度とは裏腹に俺へは厳しい態度だ。

 俺は少しズレて通り道を空ける。


「一応、他にも通り道はあるよ」

「あなたの居所が悪かったのよ」


 それは虫の居所が悪かっただけじゃないだろうか。


 空いた道をクルリは通って、自分の席へと向かう。

 それを見ると俺は八千へ視線を向けた。


「んじゃ、また後で」

「うん。またね」


 簡単に挨拶を終えると、彼女の後を追って自分の席に着いた。


「それで何かあったの、クルリちゃん?」

「何が?」


 質問に質問で返す。

 しかし、これは俺の聞き方がよくなかった。


「いや、シキも六花も二階堂も登校してない時間に来るなんて珍しいじゃん」

「……気分よ」


 いつも眠たげな目をしている彼女は登校する時間は遅い。


「ふーむ。今朝は俺に会うために早く来たのか」

「勘違いも甚だしいわ。……でも、全く関係ないわけじゃないわね」

「ほよよ? やけに素直だね」

「土曜日の勉強会について、いろいろと説明してほしくてね」

「勉強会? 六花と八千が加わったこと? それとも百合川ゆりかわが『我、勉強したくないぞ』って呟いたことか?」

「全く関係なさそうな話題はあげないでちょうだい。バカにされている気分だわ」

「あはは。百合川は面白いなぁーって思ってさ」

「そんな世間話をするつもりじゃないわ。あなたは私の目的を分かっているのよね?」


 クルリに睨まれる。怖くはないが嫌われているのはビシバシ伝わってくる。


「あー、知ってるけど。あの時は流れでそうなっちゃったからなぁー」


 俺にとっては不可抗力だった。

 ダブルブッキングを解決して、なおかつ面白い方向にするにはこうするしかなかった。


「コハルの邪魔は許さないわ」

「うん。邪魔はしないよ。する必要もない」

「分かっているならいいわ」


 クルリはそう言うとカバンから文庫本を取り出す。


「それと、あと一つ」

「何?」


 クルリはしおりの挟んだページをつまらなさそうな目で見ると言った。


「あなたを勉強会に誘ってなかったのだけど」

「何でいるのかを聞くのは野暮だぜ」


 俺への態度は相変わらず辛辣だ。

 でも、凹んだりはしない。

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