第11話



 勉強会をしている部屋に戻ると、意外にもみんなは勉強していた。

 六花と八千は勉強を教え合い、二階堂とシキと勉強を教え合っている。


 少し見たような光景に記憶を探ろうとするが、あまり上手く思い出せない。


 何があったかなぁ。


 ひとまず、部屋に入って向けられたのは哀れみと軽蔑の眼差しだった。その軽蔑の眼差しを向ける女の子の隣へ座る。


「ねえ、何かあった?」

「……何も覚えてないの?」

「覚えてないって……。確か来客があって、トイレに行って戻ってきたら、今って感じだよな」

「……そう。辛かったわね」


 軽蔑の眼差しから哀れみの視線へと変わる。

 わけが分からない。


「そういえば、シキの好きな女の子って、もう言ったっけ?」

「いいえ。代わりに好みのタイプを聞いたわ」

「そうだったか。居合わせなかったから勿体ないことしちゃったな」

「……そうね」


 クルリはそう言って視線を合わせてくれなくなった。

 だから、何故なんだ?


 気にしても仕方ないので、俺は思い立ったように立ち上がった。


「そうだった! 豪華景品をシキに渡すの忘れてた!」

「んあ? そんなこと言ってたな」

「ああ。すごいぞ! 景品は……じゃっじゃーん! 今度、上映する映画のチケットだ!」


 俺はポケットから映画のチケットを2枚取り出す。


「これって、流行ってた小説の映画化?」

「そうそう。二階堂も読んでた?」

「うん。面白そうだったから読んだよ」


 ふむふむ。ならば自然にチケットを渡すことができるな。


「まずは、これをシキにプレゼントだ」

「お、おう。ありがとう」


 俺はチケットの1枚をシキへ渡す。


「問題なのは残りの1枚をどうするかなんだよねぇー」


 俺は困ったように呟くと、二階堂はソワソワしたように下を向く。


 六花は興味ありげにこちらを見てくる。そう見られると渡したくなっちゃうな。


「ハズレのラムネに当たった人が出てくれば渡したいけど、最初に名乗り出なかった時点でズルいし、渡すのも惜しいなぁー」


 そう言って焦らすと、二階堂は分かりやすく視線をキョロキョロする。


 それと六花は爛々と目を輝かせている。本当にかまいたくなってしまう。


「ま、冷静に考えて、二階堂にあげるよ」

「うぇ!?!?」

「小説も読んでたんなら興味あるでしょ?」

「うんうん」


 上気させた表情で首を縦にコクン、コクンと頷く二階堂は素直で可愛い女の子だった。


 可愛い表情見れるなら親友役も役得だな。

 そんなどうでも良いことを思いながら、チケットを二階堂へ渡す。


「あ、ありがとう! 楽しんでくるね!」

「いえいえ、シキと2人で観に行ってくれよ」

「……え?」

「……ふぇ?」


 俺の言葉に突然フリーズするシキと二階堂。

 その様子に思わず首を傾げた。


「それ、ペアチケットだし、当たり前じゃない?」

「あーーーーっ!!!」

「えーーーーっ!!!」


 分かりやすく反応してくれる2人は純情で見ていて面白いな。


 少し羨ましい気持ちに俺は息を多く吐き出した。

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