デートの追跡

第1話



 尾行。

 探偵が行う追跡調査。


 悪意のあるものは犯罪行為とみなされるが、探偵の尾行は犯罪ではない。


「さあ、クルリちゃん。俺たちは探偵だ。彼らのデートを見届けようじゃないか」

「近づかないでほしいわ」


 俺は私服姿のクルリと学校の最寄駅から2駅離れた駅にいた。


 改札口から少し離れたガラス張りのパン屋のイートインに2人で飲み物を飲みながら、待ち合わせをする二階堂を眺める。


「またまたぁ〜。テスト終わって暇なんだから一緒に行動しても良いじゃないか〜」

「暇だから一緒に行動しようと、私は思わないわ」


 あ、こいつ。一度ぼっちでも極めたのかなぁ?


「それにしても、シキは遅いなぁ〜」

「何言ってるの。待ち合わせ時間の30分前よ。コハルが来るの早すぎるのよ。到着するのが遅れてれば、改札で鉢合わせていたわ」

「それはクルリちゃんが寝坊助ねぼすけさんだからだよ」

「否定できないから、悔しいわね」


 クルリは眠たげな目を軽く擦る。

 今の時間は朝の10時。普通なら目はバッチリ覚めているはずだ。


「それにしても、デートに誘うまで早かったわね」

「それは公開日がテスト明けの映画だからね。行くなら早いに越したことないでしょ。映画はネタバレが回る前に観るべきだし」

「そうね。同意できるわ。不思議なのは、そんな映画のチケットを持っていたあなたの方ね」

「たまたま持ってたって言ったじゃん」

「あなたのたまたまは、どこかワザとらしいのよ」


 クルリのじと目が俺を睨む。

 俺は少し胸がチクリと痛むが、それをクルリに伝える気はなかった。


 定期テストが終わり、勉強会の成果をみんなで喜びあったのも、この間のこと。


 テスト終わりの土日にシキは二階堂を映画に誘い、俺はそれを尾行しようと考えた。

 そして、当日に駅に着いてみれば同じ考えの女の子がもう1人いた。


 Tシャツにジーパン姿と勉強会で見たようなラフな姿でクルリは店内飲食も出来るパン屋に入ってきたのだ。


 今は改札口の見える位置に2人で座り、デートするシキと二階堂を待っているのだ。


「まあ、いいわ。あなたは教えてくれないだろうし」

「あはは。本当にたまたまなんだけどなぁ」


 本当にたまたまだ。

 本当ならあそこにいたのは俺だった予定なのだから。


 ピンク色のロングスカートを揺らして、コンパクトを開いては前髪を整える女の子を見た。


 あんな緊張した面持ちで彼女カリンは待ってくれただろうか。

 いや、それはないだろう。あれはシキと待ち合わせる二階堂だからこそ見せる表情なのだから。


 じっと見ていると、そこに白いTシャツに黒いカジュアルパンツ姿のシキがやってくる。


「ようやく来たか〜」

「十分早いわよ。あの2人がルーズだったら私もゆっくり出来たわ」


 恨めしそうにクルリはシキ達を眺める。


「いや〜、意外にクルリちゃんはだらしないんだねぇ」

「時間に対してはゆっくりで良いと思ってるわ。休みの日の朝はゆっくり眠っていたいのよね」


 意外な一面に少し驚く。

 もっと、ストイックな生活をしていると思っていた。


「さて、私たちもお店を出ましょう」

「おや、俺も一緒に行動する前提になったんだね」

「嫌と言ってもついてくるでしょ。なら、初めから一緒に行動する方が騒ぎ立てなくて良いわ。2人のデートを見守るのが私の目的なんだし、それが叶うなら一緒にだって行動してあげるわ」

「おお、合理的な考え。そんじゃ、お言葉に甘えて一緒に行動させていただきます」


 ふざけるように言うと、クルリにじと目で見られる。

 いや、彼女の目付きはデフォルトでこの表情だから仕方ない。


 シキと二階堂が移動したのを見計らって俺とクルリはお店を出た。


 2人の後をバレないように離れた位置から追いかけていく。


 そうすると、視界の端に目立つ2人組を見つけた。

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