第10話



 カリンは桃を受け取るとシキの家を出て行った。


 勉強していた部屋に2人で戻ると、意外にもみんなは勉強していた。

 六花と八千は教え合いをしていたのか同じ教科者を眺めて、何か話している。


 勉強会という名のおふざけ会になると思っていたが、思いのほか、ちゃんとした勉強会になっていた。


「おかえりー」


 ニヤニヤと八千がそういうと六花がソワソワし始める。

 二階堂も少し頬を赤くして、シキを見る。


 俺らがいない間に何か話し合いがあったようだ。

 これはクルリが何かしたな。


「なんかあったか?」

「いやー、何も」


 六花はそういうが目が泳いでいる。


「絶対なんかあったろ。嘘が丸わかりだぞ」

「本当に何もないわよ」


 六花はシキを睨む。

 その中でクルリが何もないように言った。


「朝一の好みのタイプはどんな女の子か話してたのよ。きっと、髪が短めで清純そうでハンカチ渡してくれるような女の子じゃないかしらーって話してたわ」

「く、クルリ!」


 クルリの棒読みに二階堂が顔を赤くさせる。

 シキもクルリの発言に誰のことを言っているのか気が付いたのか顔を赤くして、口元を手で隠した。


「それで朝一はどんな女の子が好みなのかしら? あ、そもそも、好きな人を言う罰ゲームだったわね。いなければ好みのタイプで良いわよ」


 饒舌に言いくるめるように話すクルリはシキに首を傾げた。


 いつもと変わらず眠たげで表情の薄い彼女だが、内心はこの状況を楽しんでいるに違いない。


 シキが好きな人を言えなければ、好みのタイプを言うように仕向けている。


「い、いや……俺は……」


 潤んだ瞳の二階堂が上目遣いでシキを見る。


 そこで否定しては男ではない。

 いけ。いけ! 言ってしまえ!


 シキは気がついてないが、そんな眼差しをシキに向ける。


「今は好きな人いない……」


 この意気地なし!

 思わず、ため息が出そうになるのをグッと堪える。


「そしたら好みのタイプね。教えてちょうだい」


 クルリの追撃に俺は思わず顔が緩む。

 今日のクルリは攻めている。確実に決まりそうだ。


 六花も八千も楽しそうに目を爛々としている。


「好きなタイプも言うのか!?」

「言っちまえよ」


 俺はシキの肩に手を置いて、イケボで囁く。


「言っちまえば、楽になるぜ」

「囁くなよ」

「いいじゃねぇーか。吐いちまえよ」

「……優しい人だ。見た目は置いておいて、優しい人が良いと思う」


 照れたように耳まで赤くしたシキがそう言った。


 期待を裏切られたのだろう。

 クルリの視線が生ゴミを漁る人を見るような目になっている。


「その中途半端でありふれた好みのタイプは何? もっと具体性はないの?」

「お前は俺をどうしたいわけだ!?」


 シキが困ったようにクルリに言うが、彼女は舌打ちをするだけだった。

 彼女、いかつすぎでしょ。堂々と舌打ちってしないよ。


 仕方ない。俺もゴリゴリでアシストしてあげよう。


「ハンカチを渡してくれる優しい女の子とか好きだよな」

「その具体的すぎる話はやめてくれ」

「優しい女の子なんてたくさんいるからなー。わっかんなーい」


 クルリが二階堂を茶化したような言い方で俺もシキを茶化す。

 その様子にシキはため息を吐いた後に鼻で笑う。


「ま、あそこのゴリラはねぇな」

「誰がゴリラよ」

「六花は熊だぞ」

「熊? えーと、なんだっけ。思い出せない」


 どうやらシキはクマのパンツの記憶を失ってしまったようだ。どれだけの暴力を受けたのだろうか。


 それとシキへ余計なことを吹き込んだせいか六花からの視線が痛い。と言うよりも、既に肩が痛い。


「いたいいたいいたい! 指が肩にめり込んでる! お肉に沈んでいく!」

「藍原くーん。ちょっとお話がしたいなぁー」

「えぇ! 既に反省してるから大丈夫だよ!?」


 俺は笑顔で凄む六花に肩を掴まれたまま引っ張られる。


 その様子をシキ達は呆れたように笑い、クルリは悩ましげに眉間に手を当てていた。

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