第4話
シキのラッキースケベの話は置いておいて、同棲を始めた経緯について話を聞こう。
「同棲なんて、どうしたらそんなことになるんだ?」
「六花は小学生の頃まで日本にいたらしいけど、中学の3年間は中国で過ごしてたんだ。それで今回の婚約で日本に帰ってきたんだけど、日本に住む家を用意してなくてウチに住むことになった」
六花の家族は無計画すぎないか?
土日の2人の会話を思い出すと、ガサツな感じが六花に遺伝子しているような気がする。
「婚約を破棄して中国に帰れば良いと思ってたんだけど、中国の家を売り払ったらしくて、無下に婚約を破棄できなくなった」
「……後先を考えない行動力だな。ある意味すごいと思うよ」
「そうだよな。しかも、六花をウチに置いて、両親は仕事で海外に出張だからなー」
シキは大きくため息を吐いた。
「俺の両親も出張で家にいないし、お互いに困ってるよ」
「え? そしたら、2人で住んでるの?」
「いや、じいちゃんとばあちゃんがいる」
「そうか。婚約を取り付けたのじいちゃんとばあちゃんって言ってたな」
「俺の両親は小さな頃からずっと出張で家にいないからな。俺はずっとじいちゃんとばあちゃんと暮らしてるよ」
「そうだったんだ」
意外とシキのことについて知らなかった。
考えてみると、シキの家族の話をあまり聞いたことがなかった。
「そういうわけで、俺と六花は婚約させられて、同棲もしている」
「なかなか大変なことになってるな」
「本当だよ。これでようやく土日の話になるけど、俺と六花は仲が悪いだろ?」
「常に言い争いしているとは思ってるよ」
「それをじいちゃんとばあちゃんの前でやっちまってな。それで仲良くなるようにデートに行ってこいって言われて家を追い出されたんだ」
ショッピングモールで見たのは、家を追い出されて行く場を無くした2人が、なんやかんやで一緒に行動することになり、言い争っている場面だったのか。
たまたまの行動で面白い場面に遭遇したが、思っているよりも深い理由があったようだ。
「んで、仲良くなれたか?」
「いいや、全く。お互いに別々の場所行こうとしたら、たまたま同じ場所で出会って暴言を言ってくるし、婚約を破棄するにはどうするか話そうとしたら、腕っぷしで婚約契約書を奪って破るとか言うし、全く仲良くなれそうにない」
「……そうか。仲良くできそうだな」
「は? どう捉えたらそうなるんだよ」
「いいや。気がついてないならいいんだよ」
「……わけがわからない」
シキはこう言って悪態を吐く。
シキがこういう態度を取る相手は少ない。
俺に対してはよくあることだけど、他の人に対しては基本的に親切で優しい態度だ。
こんな態度を取るのは、きっと仲良くなれる証だろう。
「それで、ここから相談なんだけど、二階堂に勘違いされてそうでさ……」
シキが言いにくいそうに言葉を濁した。
本題はこれか。
「かもしれないな」
「だよな……」
「でも、シキがちゃんと話をすれば、ちゃんと理解してくれると思うぜ」
「……そうかな?」
「ああ。だって、二階堂はちゃんと話を信じてくれる」
「……そうだな」
シキは何かを思い出すように微笑んだ。
その表情は二階堂に見せれば両思いだと気がつくと思うが、シキは彼女の前では緊張して、こんな表情を見せられない。
「シキ、本当に二階堂の事を好きだよな」
「……なんだよ、急に」
「いや、そうと思っただけ。シキはいつから二階堂のことが好きなんだ?」
「ん? 中学の頃に同じクラスになってからかな。くじで隣の席になったんだ。毎日、なんともない会話しててさ。見てる番組が同じだったり、好きな曲をススメあったりしててさ。それが楽しかったんだろうなー……って、なに恥ずかしいこと言ってるんだろう」
シキは照れ臭そうに頭を掻き、視線を下に逸らした。
「別に恥ずかしくない。人を好きになる気持ちに恥ずかしさはないよ。誰だって、好きな人がいるんだから。シキの今の言葉だって恥ずかしくない」
「……たまにヨウキは良いこと言うよな。お前にも好きな人いるのか?」
「……さあ、それはどうだろう。強いて言うなら、世界中の女の子、みんな大好きさ!」
「また適当な奴だな」
そう話していると、次の授業の予鈴が鳴る。
「教室に戻るか」
「そうだな」
屋上を後にして、階段を降る。
自分の教室へ戻る途中に通り過ぎた女子の会話が耳に入った。
「六花さんって絡みづらいよね」
「うん。なんか距離を置かれてるみたい」
その会話を聞いて何気なく、シキを見てみる。
シキはじっと通り過ぎた女子を見て、開きかけた口を閉じた。
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