第3話



 話の途中で茜音先生が教室に入ってきて、シキと六花に群がっていた集団は解散した。


 自席に戻ると、いつの間にか登校していたクルリに睨まれた。

 理由はわからない。ただ、何か良くない事をしたのかもしれない。


 次の授業までの休み時間。

 俺はシキに呼ばれて、学校の屋上にやってきた。


「どうしたんだ? 朝の話についてか?」

「まあ、それに関係するけど、話しておきたい事があってさ」

「それにしても朝の歯切りの悪さは疑われて仕方ないよな」

「広まってなきゃ楽だったけどな」

「ごめんごめんって、土日の話されて思わず言っちゃった」


 誰が言っちゃったかは言わないが。

 シキはわざとらしく俺を睨んだ後に大きく息を吐いた。

 これがシキの許し方で、俺はこれを見て少し安心する。


「土日の話をしたいけど、その前に話さなきゃいけない事があるんだよ」

「なんだ?」


 シキは少し真面目な表情をする。

 柵の向こうの空を見上げて、俺もそれに倣うように見上げる。


「俺の家って道場なんだよ」

「へー、そうだったんだ。やたらとデカい家住んでるもんな。何の道場?」

「中国拳法。流派は……言ってもしょうがないから省くけど」

「まあ、言われてもよくわからないからな」

「なんか結構有名な流派らしくて、跡取りが必要になったんだ」

「ん? 跡取りだったらシキがいるだろう?」


 俺が訊ねるとシキは首を左右に振った。


「俺の下に跡取りを作ろうって話になってる」

「つまり、シキの子供か? なら、急ぎすぎてるんじゃないか?」

「そうでもないんだ。俺は家の武術を習ってないから、他に継がせるしかないんだ」

「そうなのか? 言われてみると中学の時に文化部だったな」

「武術なんて暴力的なのは嫌いだったからな」

「シキは妙に家庭的だからな。むしろ、裁縫とか料理の方が得意だよな」


 風が吹いて、髪を乱した。

 五月にしては冷たい風が肌を撫でる。


「でも、なんでそんな話を?」

「じいちゃんとばあちゃんが許嫁を用意してたんだ」

「許嫁? もしかして……」

「そう。その許嫁が六花むつか千秋ちあきだった」


 シキは大きくため息を吐いた。

 俺からしたらあんな美人と婚約しているのに、ため息を吐く理由がわからない。


「あんな美人の婚約者が出来るなんて羨ましい」

「俺には好きな人がいるんだぞ?」

「そうだったな。まあ、なんと言っていいのか」


 二階堂のことが好きなシキにとってはいらない婚約だったのだろう。


「婚約を断れば良かったんだけど、断りづらくてな」

「なんでだ?」

「六花と同棲することになった」

「……随分と面白いことになったな」

「面白いって、俺にとっては重大なことだぞ」

「ああ、ごめん。んで、ラッキースケベは起きた? もう裸見ちゃった?」

「お前、謝る気ないだろ」

「そんな事ないよー」

「……まあ、見たような見てないような」

「へ、変態だっ!」

「違う! じ、事故だっ!」


 六花は美人すぎて、どういうスタイルをしていたが思い出すのが難しいが、身長は高く、すらっとしたふくらはぎに肉付きの良い太ももとお尻をしていた。


 胸に関してはあまり関心はないが、それなりにあったはず。それをシキは既に見てしまった。ラッキースケベって偉大だなぁ。

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