第2話



 次の月曜日の朝。朝礼前の時間は暇であることが多い。


 とある生徒は課題に取り組み、とある生徒は読書に勤しみ、とある生徒は友達と話して交友を深める。


 そんな生徒たちの朝の時間はとある噂話で、盛り上がっていた。


「朝一くんと六花さんって付き合ってるんだって」

「えー、本当!? 転校してきて、まだ1週間ぐらいだよ?」


 そんな噂話を耳にした俺は、教室を見渡した。


 朝の早い時間にシキは登校していない。しかし、クラスの中には二階堂が既に登校している。


 この噂を彼女は既に耳にしているだろうか。クルリに聞こうにも、彼女もまだ登校していない。


 この噂を否定してもらおうにも、六花もまだ登校していない。


 噂の出所から否定してもらおうと、1番心当たりのある瀬良のところへ向かった。


「瀬良。シキと六花さんが付き合ってるって噂が広がってるんだけど」

「あぁ……それ多分、俺のせいだ」


 瀬良の顔色は少し悪い。


「どうかしたか?」

「まずいよな。2人が付き合っているなんて、こんなに広まるなんて思ってもなかった」

「ああ。そういうことだったのか」

「土日に何してたか聞かれて、なんでも答えちゃったのが良くなかった」

「まあ、瀬良らしいな」


 素直な性格の瀬良は聞かれたら、なんでも答えてしまう。

 迂闊に話してしまうだけに残念な奴だ。


「どうしたらいいかな。言いふらすなんて、まずいよなぁ」

「瀬良がわざと広めたわけじゃないしなぁ。ちなみに誰に言ったんだ?」

「新井と中塚だ」

「ほう。朝から女の子2人に囲まれて、お喋りしてたのか」

「囲まれてない。軽く話しただけ」


 いまだに暗い表情をする瀬良。

 朝に女の子に囲まれてたんなら幸せそうな表情をしてほしいが、そんな気分も塗り替えられてしまったのだろう。


「そしたら、本人に言って聞いてみようぜ。本当に付き合ってるのかみんなで確認しよう」

「なんでだ?」

「本人が口から言えば公認だからな。瀬良が広めたかは重要じゃないはずだ」

「そういうもんか?」

「そうだって」


 なんとか元気付けようと適当に言っているが、シキがどう思うかはわかっていない。

 シキの人柄を考えると、気にするようなことではないと思っている。


 そんな話をしていると教室のドアが開き、シキと六花が入ってくる。


「わぁー。これは疑われても仕方ないなぁー」


 カップルの噂が流れて、朝に一緒に登校というのは確信犯だろう。

 もう茶化そう。これはイジっていいやつだ。


「おぉ! この間、デートしてたカップルがやってきたぞ!」


 俺はシキと六花に向かってそう叫ぶ。

 そうすると数人が2人に集まり始め、質問し始める。


「ねぇ、2人が付き合ってるって本当?」

「え? 誰がそんなことを?」

「土曜日にデートしてるの見たって聞いたけど?」

「いや、一緒にいたのは本当だけど、デートじゃない」

「きゃー! それって、つまり……」

「待って待って! 私たちは付き合ってない!」

「え、そうなの?」


 そこまでの会話でシキと六花の関係がなんとなくわかった。

 土曜日の話から婚約みたいなことがあっても、付き合っているわけでは無いようだ。


「いやぁ、ごめんごめん! 俺が土曜日に2人がショッピングモールで出掛けてるの見ちゃってさぁ」


 俺は話の中心にいるシキと六花に近づく。


「なっ! アレを見られてたのか……」

「でも、アレは偶然会ったんだろ?」

「いやー……」


 シキと六花は言葉を濁す。


 そこで言葉を濁されると付き合っているのか怪しくなるんだよなぁ。嘘でもきちんと説明してほしいよなぁ。


「なあ、俺も土曜日に2人の会話聞いちゃってさ。“婚約”って何の事だ?」

「えっ!? 何その話!? 瀬良くん。私、その聞いてないよ!?」

「婚約って2人が婚約してるってこと!?」


 瀬良が話に加わってきて、シキと六花にトドメを刺す。


 ここでシキと六花に聞いて良いタイミングではなかった。

 瀬良は鬼畜だったか。


 クラスメイトの視線がシキと六花に向くと、2人は同じように視線を逸らした。


「え、その反応って……」


 クラスメイトの女の子が呟く。


「いやいやいや! 付き合ってない!」

「婚約もしてない!」


 慌てたシキと六花が否定する。


「そしたら、なんで土曜日にデートしてたの?」

「……」

「……」


 シキと六花が黙り込む。

 そこで黙り込むから余計に怪しまれるんだよなぁ。

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