第6話
一日の授業が全て終わり、茜音先生が教室に入ってくると帰りのホームルームが始まった。
今週に学年集会があるなどの連絡があり、ホームルームの終わりに茜音先生が思い出したように言った。
「あと、文化祭が9月にあるんだけど、その実行委員を勝手に決めたから」
「先生、随分と早いですね」
「夏休み終わったら1ヶ月も時間がないからね。早めに決めて動かないと準備ができないから」
「なるほど」
数ヶ月程先の事だが、8月はほとんどクラスメイトと顔を合わせない。
9月に準備するとなると夏休み前には何をするかや予算をわかっていればスムーズだろう。
「委員会に入ってなくて、部活にも入部してない奴に任せようと思ってる。それで朝一にお願いしようと思ってる」
「え、俺!?」
「そうだ。それと仲が良さそうだった六花にも任せようと思ってる」
「わ、私!?」
「六花も委員会と部活に入ってないだろ?」
「そうですけど、なんでコイツと一緒に!?」
「転校初日から顔見知りだったみたいだし、さっさと決めたかったから」
茜音先生は良い笑顔で言う。
よくよく考えるとシキと六花の家が一緒なら学校に住所がバレているような気がする。
そうすると先生はそれを知って、言っているような気がする。
「ひとまず、お願いね」
「っ……」
お願いされると断れないようで六花は黙り込んだ。
「わかりました」
「お、悪いね。早速で悪いけど、今日の放課後に残ってくれ」
2人から良い返事を聞くと茜音先生はホームルームを終わりにした。
面白い事態になったので、茜音先生の話を聞こうと俺も残る。
「文化祭実行委員になってもらって悪いな。早速なんだけど、来週の学級活動の時間で文化祭の出し物を決めたくてな。あらかじめ、どんな出し物がいいか簡単に考えて欲しいんだ」
茜音先生はシキと六花のところまで来ると話し始める。
「みんなのやりたい事を聞かなくていいんですか?」
「聞くよ。でも、何も出なかったら時間がかかるから、ベースを用意しておきたいんだ。あとは事前に2人には文化祭で禁止事項やルールも伝えたくてな」
「そうだったんですね。そうしたら今日は何かやる事ありますか?」
シキが茜音先生に訊ねると先生は腕を組んだ。
六花も不満そうだが、2人の会話を静かに聞いている。
「そうだな。そうしたら2人で思い付く出し物をいくつか出してもらおうかな。考えてもらった出し物の注意事項を日を改めて教えるよう。考える時間は30分ぐらいでいいかな」
「わかりました。いくつか案が出てきたら職員室へ伝えに行けばいいですか?」
「ああ、それでいい。助かる。よろしくな」
先生はそれを話すと掃除の指示しに離れて行った。
「アンタ、妙に小慣れた感じに話してたわね」
横で見ていた六花がシキに訊ねた。
「まあ、中学の時に部長をやってたからさ。ああいう仕事はよく言われてた」
「ふーん。なんの部活?」
「……」
口を開きにくくするシキ。
そんなシキの代わりに俺が話し始める。
「家庭科部だよ。シキのお菓子、美味いんだぞ」
「そうなの。なんか器用なアンタらしいわね」
六花は視線を一度こちらに向けると、シキに戻して言う。
六花の反応は新鮮だったのか、シキは少し驚いた表情をしていた。
「……なんか変なもん拾って食ったか?」
「そんなことしないわよ。一体なんなの?」
「いや、いつもだったらバカにしてくると思ったから」
「いつもじゃないわよ。本当に細かくて女々しいわね」
「細かくも女々しくもねぇ! お前がガサツなだけだろ!」
いつも通りに言い争いする2人に俺は軽く呆れる。
2人のペースに合わせると、この間の保健室のようになりかねない。
「シキ、30分ぐらいなら図書室で待ってるから、一緒に帰ろうぜ」
「ああ、わかった。終わったら図書室に行くわ」
俺はシキにそう言い残すと教室を後にした。
教室を出る時に2人の言い争う声が背中から聞こえてきたが、アレは平常運転だと思うようにした。
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