第3話



 勉強も進み、少し休憩をする事になった。

 この機会に飲み物を買う事にし、俺とシキは食堂へと向かっていた。


「それで、さっきの話なんだけどさ」


 シキが目をキョロキョロと俺から逸らしながら訊ねてくる。


「えー、なになに? 二階堂のスリーサイズの話? 詳しいサイズは分からないけど、目測なら……」

「違う違う違う!」


 顔を赤くして必死に否定してくるシキ。

 その様子がおかしくって思わず笑いそうになる。


 笑いを精一杯に堪えると、真面目くさった表情を作るように目を大きくして、眉間にシワを寄せる。


「カップ数はCに届く程だと思っている」

「あーあーあーあー、聞いてなーい!!」


 シキに聞こえるかどうか、ギリギリの声量で教えるが、シキは大きな声を出して聞こえてないフリをする。


 相変わらず良い反応だ。からかっていて楽しい。


「シキは胸派だからな。気になっちゃうよな」

「誰も胸が好きとか言ってねぇー!!」

「そう必死に否定されると怪しいぞ」

「おめぇーのせいだよ!!」


 ニヤニヤと肩を叩くとシキは俺のことをキッと睨む。

 そして、大きく息を吐くと額に手を当てた。


「……なんか、無理してないか?」

「無理なんかしてないさー。突然、何のことだよ」


 そう言葉を返すとシキはじーっと俺の顔を見つめる。


「そう見つめられると、男相手でも気恥ずかしいな。なんだよ、急に。見つめる相手間違ってるぞ」

「いや、別に間違ってねぇーよ。ヨウキは嘘が表情に出ないから分かりづらいけどさ、なんか無理してる時がたまにあるんだよ」

「それが今だって? 全く、無理なんかしてないって」


 俺がいくらそう言ってもシキは疑う様子を変えない。


「ほら、前にお前のお母さんが倒れた時があったろ? その時に平気な顔して遊びに来たけど、今みたいに無理してるような感じだった」


 そう言われて、少し心臓が跳ねた。


「俺やカリンは後から聞いて驚いたけど、ヨウキはあの日にそんな様子を全く見せてなかっただろ?」


 小学3年生の頃に母親が倒れた。

 暑い夏の日に貧血気味だった母親が熱中症で倒れた時の話だ。

 俺は邪魔になると父親に家へ置いてかれて、たまたま約束のあったシキ達と遊んだのだ。


「強がってるようにも見えないけど、無理にいつも通り明るくしてるっていうか、なんというか……」


 あの日は確かに気が気でなかった。

 シキやカリンと遊ぶ事で心を落ち着けるのに必死だった。


 それがきっと今と同じなのだろう。

 全く考えてもいなかった。考えないようにしていたつもりだったが、どうやらバレてしまうようだ。


「はぁー、さすが幼馴染ってところかな」


 普段は鈍感なはずの男なのに、どうしてだかバレてしまった。


「……やっぱり、星祭りにカリンが来ないのが理由なのか?」


 下手に察しが良いシキが会話から逃げようとする俺をじっと目で捉えた。


「そそ、せいかーい!」


 なるべく戯けてみせるがシキの表情は真剣なままだ。


「なんとなく気が付いてたけど、ヨウキはカリンのことが……」

「そうそう。その通りだよ。全く、自分の恋愛は疎いくせに、こういう時は察しが良いんだからなぁ」


 シキの言葉に被せて話し始めると、シキが疑わしそうに俺を見た。


「自分の恋愛って……なんのことだよ」

「シキと二階堂だよ」

「それは俺の片思いだろ」

「どうだろうなー。俺から見たら二階堂はシキのこと気にかけてると思うぜ」

「そ、そんなのわかんねぇーだろ」


 シキは頬を僅かに赤めらせて俺から目を逸らす。


 そういう反応は二階堂の前で見せればいいのに。

 まあ、二階堂も鈍感なので気が付かないだろうが。


「それより、ヨウキの話だろ」

「おっ、うまく誤魔化したつもりだったのに、気が付いちゃったかー」

「お前なぁ……」


 シキはそういうと大きくため息を吐いた。

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