第2話
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放課後の教室。あいにくの天気には教室内は薄暗く、勉強道具を照らす蛍光灯もなんだか頼りなく映る。
シキ、二階堂、六花は、百合川の机の周りに集まり、教科書やノートを広げながら、お互いに自分の課題に取り組んでいた。
「なんだか突然に雨になっちゃったね」
激しく音を立てる雨音に二階堂が思わず呟く。
「そうよね。この間まであんなに晴れてたのに」
六花は窓の外を見つめて言葉を返した。
「今年も七夕の日は雨になりそうね。お祭りの日は晴れればいいけど」
百合川が二階堂や六花の言葉に続ける。そして、お祭りという言葉に六花は反応した。
「お祭りがあるの?」
「そうだよ。七夕って呼ばれるんだけど、織姫様と彦星様っていう2つの星が再会する日にお祭りをするの」
「あー、七夕って8月9日のアレか。お祭りするのね」
「そうなの? 中国にも七夕ってあるの?」
「あるわよ。中国だと男の人から女の人にプレゼントして、愛の告白をする日よ」
「へぇー、バレンタインみたいだな」
六花との文化の違いに驚きながら、話が進む。
「そもそも、小学生の頃に七夕祭りやらなかったのか? 竹に願い事を書いた紙をぶら下げるお祭り」
「あんまり覚えてないわ。でも、小さな頃に幼稚園でやったような気もするわね」
幼稚園ぐらい前になってしまうと忘れてしまう事が増えてくるのは仕方ない。
それでも4、5年前まで日本で暮らしていた六花は覚えていても良い伝統だと思っていた。
「お祭りなぁー。行きたいなぁー」
百合川が呟く。
「それより先に勉強しなきゃね。追試が先に来ちゃうし」
「勉強嫌だよぉ」
二階堂がクスクス笑いながら言うと百合川の表情は沈む。
「まあ、追試が終わったらみんなで行こうか」
「そうだね」
「良いわね、お祭り」
「やったわ。追試も頑張れる気がする」
俺はその会話に乗っかるように話をすると、みんなの表情が明るくなる。ただ、1人を除いて。
「……いいのか?」
お祭りの話で盛り上がるみんなを他所に、シキが眉間にシワを寄せて小声で訊ねてくる。
「おー、大丈夫だ。カリンは今年は用事があって来れないみたいだし、みんなで行こうぜ」
「……それは初めて聞いたけど、それでも大丈夫か?」
「何がだよー。深刻な表情しちゃってさ」
俺がシキにそう返すと、彼は大きくため息を吐いた。
「ま、いいならいいんだ」
「そうだよ。大丈夫だよ」
そう言った後にシキはじっと俺の顔を見た。
「ただ、ちゃんと説明してくれ。カリンが来れない理由も含めて」
その表情に俺はふざけて返せなかった。
「おう。わかったよ」
諦めたように笑うと、シキは俺から視線を逸らした。
少し驚いた。
シキに突っ込まれるとは思わなかった。
普段から人の想いには鈍いはずなのに。
特に恋愛における好意には鈍感なはずなのに。
案外、自分に向けられる好意だけは気が付かないで、他所へ向けられる好意には気がつくのかもしれない。
鈍感ハーレム主人公は何とも都合の良い能力だ。
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