第4話



 話しているうちに食堂へと着き、俺とシキは自動販売機の前で飲み物を選ぶ。


「いつから気が付いてたんだ?」


 シキが自動販売機に小銭を入れて、烏龍茶を選ぶ。


「いつからって言われてもなぁ……」


 シキは身体を屈めて、取り出し口から烏龍茶のペットボトルを取り出す。


「なんか気が付いたら、コイツそうなんじゃないかなぁって感じだな」

「なんだそれ。すげー曖昧じゃん」

「しょうがないだろ。なんとなく察した感じなんだから」


 シキは俺に自動販売機の前を譲る。俺はそれに従うと、自動販売機に小銭を入れる。


「でも、間違いなくわかった瞬間はあった」

「へー、そんな曖昧なのに意外だな」

「まあ、あれは誰でも気がつく」


 俺はどれにするか迷った結果、有名なメーカーのミルクティーを選ぶ。


「カリンが好きな人を俺らに言った日だ」


 ガシャン、とペットボトルが取り出し口に落ちる音がする。


「あの時もヨウキは無理してた気がする。いや、あの日から無理しているヨウキによく気が付くようになったかな」


 俺は身体を屈めて、取り出し口からペットボトルを取り出す。


「はぁー。何でバレちゃうかなぁー」

「そう言われてもな。俺もよく分からん」


 俺は立ち上がり、ペットボトルのフタを開けると一口飲み込む。


「誰にも言ってこなかったんだけどな」

「……むしろ、何で言わなかったんだよ」

「それは聞かれなかったからな!」

「……確かに一度も聞いたことなかったわ」


 シキは首を左右に振って、息を大きく吐いた。

 ペットボトルのフタを閉じると近くの椅子に腰掛けた。


「いつからカリンが好きなんだよ」

「それは物心ついた時にはずっとだったよ」

「そ、そんなに前か。ぜ、全然気が付かなかったぞ」


 シキは俺から視線を逸らして、恥ずかしそうにする。


「……まあ、シキは結構鈍い方だから。むしろ、よく気が付いた方だよ」

「それは……カリンに好きな奴が出来たからな」

「……うん」


 シキは気まずそうにこちらを見る。

 不自然に跳ね上がった心音に俺は思わず苦笑いする。


「それで、どうするんだよ」

「どうするって?」

「そりゃ、自分の気持ち伝えないのか?」

「……それはないかな」

「何でだ?」


 シキは不思議そうに首を傾げた。


「そりゃあ、カリンは先輩に告白するんだから、伝えられないよ」


 シキは驚いたように目を大きくする。


「カリンに気持ちを伝えて、困らせてどうするのさ。カリンは先輩に告白するって決心しているんだぜ。今更、告白されたって迷惑なだけだろ」

「……でも、後悔するだろ」

「それは言った側の自己満足だよ。相手に好きな異性がいないならまだしも、いるにも関わらず告白するなんて、相手の迷惑だ」

「……もし、そうだとしてもよ」

「それにシキとカリンと仲良い関係が続くなら、俺は満足だ」


 シキはじっと俺を見る。


「今年の星祭りにカリンは先輩に告白する。たとえフラれたとしても、カリンは先輩を諦める気はないそうだ。そこに俺が入り込む余地はないよ」


 今年、来年、再来年。これからますますカリンとの距離は出来ていく。カリンは俺らから離れていく。


 仲良い関係が続くならと、そんな事を考えていても、カリンは俺の気持ちとは関係なく離れていく。


「だから、この想いはゆっくり忘れていくさ。時間が解決してくれるはずだからな」


 俺はそう言って笑うと、シキは困ったように頭をかいた。


「……そうかもしれないな」


 その言葉を聞くと、俺は立ち上がって食堂の出口へと向かう。


「戻ろうぜ。勉強の続きだ」

「……ああ」


 シキは眉間にシワを寄せて、難しいことを考えているような表情で後をついて来る。


 これに関しては、どうにも出来ない。

 誰が何と言ってもカリンの想いは変わらない。

 そして、その想いを邪魔しないように、俺の想いはここで鍵をかける。

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