転校生の悩み事

第1話



 朝、目が覚めるとなぜか泣いている。そういうことは時々ない。


 朝はぱっちりと目を覚ますと、すぐさまカーテンを開けて大きく伸びをする。


 こうして太陽光を浴びる事によって、セロトニンが分泌されて幸せな気持ちになる。


「んー、良い天気!」


 俺はこうして寝起きをスッキリと起きるようにしている。今日が土曜日で学校が休みの日でも活発に行動するように心掛ければ、習慣付いて普段の生活から活発になっていく。


 大きく背伸びをすると、スマートフォンのロック画面にメッセージがあると通知があると気がついた。それに素早く返信し、俺は閃く。


「圧倒的な閃き……! 今日はショッピングモールでも行こう……!」


 理由はない。ただ、そう思っただけだ。

 ここで面白いものが見れると本能が教えてくれる。


 俺はメッセージを一つ多く返すと、身嗜みを整え始めた。



 ✳︎✳︎✳︎✳︎



「藍原の誘いは突然だな」


 短髪の爽やかな男の子、瀬良せら隆也たかやは困ったように言った。


「いやー、悪いねぇ。映画の前売り券が欲しくてね」

「大丈夫だ。ちょっと驚いただけだから」

「今朝に閃いたもんだから、誘えるの瀬良だけだったんだよ」

「理由は分からないけど、俺も暇だったから助かったよ」

「相変わらず、イケメンだなぁー」

「……突然で脈絡がないな。まあ、藍原らしいか」

「そうだろー」


 今はショッピングモールでクラスメイトの瀬良とウィンドショッピングをしている。俺の目的だった映画の前売り券を買い終えたところだ。


 エスカレーター降り、今年の夏服がどうなっているのか2人で確かめに行く最中に、俺らは気まずいカップルのようなクラスメイトを発見した。


「あれ、朝一と転校生じゃないか?」

「んん? どれどれ?」


 瀬良の指差す方向に目を向ければ、洋服屋の前で言い合いをしている朝一と六花がいた。


「何やってるんだ?」

「仲良くお話ししてるように見えないけど」

「店の前だし、声掛けて止めた方が良いか?」

「そうかもなぁ」


 瀬良と話して決めると、2人に近づく。


 近づいてわかったのは、2人は案の定、言い争いをしていたことだった。

 何で喧嘩しているのか耳を澄まして聞いてみると……


「私たち、既に婚約してるのよ! 最悪よ!」

「だから、どうやって父さん達を納得させて、破棄してもらうか考えながら歩こうって言ってるんだよ!」

「無理よ! アンタといるとイライラするの!」

「俺もだよ!」

「あの紙を奪って破り捨てればいいのよ!」

「どうやってだよ?」

「腕っぷしよ!」

「ほんっとにゴリラだな! 暴力以外の方法を考えろよ!」


 もう、既にラブコメ展開で笑いを堪えるのがキツい。

 それに腕っぷしで親を説得するって展開は、どうやって出てきたんだよ。


「な、なぁ。アレってどういうことだ?」


 困ったような様子の瀬良が俺に訊ねる。


 瀬良も会話の内容は聞いていたはずだ。

 それでもって困っている様子ってことは2人が婚約している、というところに戸惑っているのだろう。


「2人の会話は、俺にもよく分からない」

「俺もいきなりすぎて理解が追いつかない」

「でも、2人は一緒にショッピングしている」

「一緒にショッピングしていると、どうなる?」

「知らんのか? デートということだ」

「……なるほど。つまり、どういうことだ?」

「……2人は付き合っている」

「そ、そうだったのか!?」


 察しが悪いのはイケメンやハーレム主人公の特性なのか。思わず疑いたくなるような聞き返しだった。


 それと、適当に付き合っているとか言ってしまったが、瀬良は素直に信じすぎたな。でも、このままバラしてしまうのは面白くない。


「2人の邪魔をするのは良くない。2人はほっといて、別のところに行こう」

「でも、店の邪魔に……」

「店もカップルが言い争ってみえてイチャついているとわかったら許すだろう。てぇてぇ」

「許すかな?」

「許すだろう。神は許します。だから、移動しよう」

「お、おう。わかった」


 無理矢理に瀬良を説得すると、俺らは2人に気付かれないように、その場を去った。

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