第4話



 シキは頬を殴られ、軽くフラついていたので、保健体育委員の俺はシキを連れて、保健室へ向かった。


 保健室には保健医の教師である如月きさらぎヨル先生がいた。


「あれ? 2人ともどうしたの?」


 長い髪をかき上げて、こちらを見る如月先生。


「シキくんが頭を強く打ったようなので連れてきました」

「え、大丈夫なの?」

「……大丈夫です。少し横になって休めば治ると思います」


 シキはそう言うとフラフラとベッドへと向かい、寝そべる。それを後ろからついて行くと、如月先生がベッドカーテンを閉めて、シキの様子を窺う。


 先生は頬が腫れているのに気がつくと氷水の袋を持ってきて、シキに渡した。


 俺は検温し、保健室の入室カードを記入する。入室カードを先生に渡すと、先生は業務に戻り、ベッドカーテン内側には俺とシキだけになる。


「大丈夫か?」

「ん? ああ、大丈夫。流石にほっぺは痛いけどな」

「ははっ、綺麗な右ストレートが入ってたからな」

「本当だよ、あの女」


 シキは悪態を吐きながら眉間にシワを寄せた。


「それにしても六花さんと知り合いだったんだな」


 会話の内容から大体、何があったのか理解できたが、確認のために訊ねる。


「ああ、へいから飛び降りてきた女の子とぶつかったって、朝に話しただろ? その女の子がアイツだったんだよ」

「やっぱり、そうだったか。そんな奇遇があるもんなんだな」

「俺も驚いたよ。それに思ってた通り、暴力女だったし」

「そういうなって。気になるのは覗き魔ってところだけど、何かあったのか?」

「あー、それか」


 俺が聞くとシキは言いにくそうに目を逸らした。


「制服ってスカートだろ? それで塀から落ちてくる時にパンツ見えちゃってさ。そのときに責められて腹に一撃貰ってるんだよ」

「お前、格好のサウンドバックだな。んで、何色だった?」

「何の色だ?」


 シキは本当に分からないのか、首を傾げる。

 俺もそれを真似して首を傾げた。


 どうやら彼は察しも悪いので、話を切り替えよう。


「まあ、パンツの色は置いておこう」

「……お前も物好きだな」


 シキに呆れられたような視線で見られる。

 思ってたことが口に出ちゃった。キラッ☆


「全く、なんでゴリラ女のパンツを見たがるんだよ」

「ゴリラ女って誰のことかしらね」


 シキの呟きに、カーテンの向こうから返事があった。


 俺とシキは顔を見合わせると、シキは驚いたような表情をしていた。


 カーテンが開き、そこに現れたのは、朝に出会った美少女の六花千秋だった。彼女はこちらを睨んで、とても機嫌が悪そうにしている。


「それと人のパンツを言いふらすなんて、趣味が悪いじゃないの」

「そうか? 人の話を盗み聞きしている奴の方が悪趣味だと思うけどな?」


 シキは対抗するように六花を睨み返す。


 2人だけで会話をさせると何も生産的なことがない。

 ここは止めに入った方が良さそうだ。


「まあまあ、2人とも落ち着いて」

「俺は落ち着いてるって」

「私は落ち着いてるわよ」


 2人は声を揃えて、俺に言い返す。


「わぁお。仲がいい」

「誰とだ!」

「誰とよ!」


 そこまで声が揃っていると、この2人はむしろ相性が良いかもしれない。


「まあ、それよりさ。六花さん何か用事があって来たんじゃないの?」


 俺がそう訊ねると、六花は腕を組んで顔を横にプイッと逸らした。


「別に! 何もないわよ!」


 何もないのに、わざわざ保健室に来る人はいないはず。

 きっと謝りに来て、タイミングを見失ったのだろう。


「何もないのにわざわざ保健室に来ないでしょ。ほら、何かシキに言わなきゃいけないことがあったんじゃない?」


 ここは俺がひと肌脱ごうじゃないか。

 彼女が言いやすいようにアシストしよう。


「そうね、言うべき事は一つね。死に晒せ、このポンコツ!」


 ダメだったかぁ〜。

 良い攻撃に使われちゃったなぁ〜。


「ポンコツだって?」


 今にも対抗するようにシキの頬は引き攣っている。


「このクソガキが」

「ガキって言う奴がガキよ」

「この年になってもクマのパンツ履いてる奴はガキだろ! ぐぼっ!」


 六花の右ストレートがシキの顔の中心を捉え、シキはそのまま身体ごと後ろに倒れた。


 こいつはバカなのだろうか。

 そんな事を言えば、六花に報復されると分かるだろうに。


 六花を見れば、顔を真っ赤にして怒っているように見える。きっと恥ずかしくもあったんだろう。


「クマパンかぁ。それは恥ずかしいよな。ぐべっ!」


 俺も同じようなバカでした。


 彼女の綺麗な回し蹴りが俺の後頭部を捉え、俺は意識を失った。


 意識がなくなる直前。

 彼女の回し蹴りによって、ふわっと浮き上がったスカートの中からクマさんとこんにちは出来たのはご褒美だった。


 ありがとう。スケベの神様。

 ありがとう。全てのスケベへ。

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