第9話



 走り出した足は止まらない。止める気もない。

 駅まで走り切ったら、そこにはカリンがいる。


 何をどう伝えようか。

 全く何も決まっていない。


 好きだと伝える。

 きっと一言だけで済むはずなんだ。

 でも、それだけじゃ足りないんだ。


 ずっと。ずっと目で追いかけていた。


 遠く離れて行った時も、側に近寄った時も、姿が見えない時も、その姿を目で追いかけていた。


 それはこれからも変わらない。

 このまま何もしなければ何も変わらない。


 夏の暑さに気がやられてしまったと思う日もある。


 いつからこうなってしまったのか。

 どうして好きになってしまったのだろうか。

 嫌になるほど考えてしまうのはやめられないだろうか。


 キッカケなんて何も覚えてない。

 理由なんて見当たらない。心当たりはない。


 カリンと初めて出会った日も、好きだと思った日も、カリンが離れた日も、はっきりと覚えていないものは多い。


 気がつけば。その言葉しか出てこない。


 気がつけば、カリンと一緒にいた。

 気がつけば、カリンを好きになった。

 気がつけば、カリンが離れていった。


 彼女の横顔が、笑った顔が、後ろ姿が、全てが自分の心を動かした。


 嬉しく思って、愛しいと思って、寂しいと思った。


 それを全部伝えたら、満足出来るのだろうか。

 好きだけじゃ足りないと思ったこと、全てだろうか。


 でも……。たぶん、満足できない。


 どうしようもないくらいカリンが好きだ。

 そんな想いをこれから伝えに行くんだ。


 空から大粒の雨がぽつり、ぽつりとこぼれ落ちて来る。


 色づいていた日々を思い出して、灰色の空を眺める。


 まだ、強く雨は降っていない。

 それでも大粒の雨が顔に当たる。


 やがて、雨は降り出して、駅に着く頃には制服も、髪も濡れてしまった。


 何とも情けない姿だ。こんな格好で告白とは締まらないだろう。

 こんなに情けないなら、自分らしく、カリンへ愛の告白としよう。


 蛍光灯に照らされた薄暗い駅舎内を進み、カリンの姿を探す。


 人の出入りの少ない改札口。その隣にある券売機。向かいのコンビニ。そして、通路にある柱の後ろ。


 その柱の一つに制服姿のカリンの姿を見つけた。


 俺はカリンを見て安心すると、彼女は驚いたように目を大きくさせて俺を見ていた。


 ……本当に待っていた。


「どうしたの、ヨウキ?」

「いや、何もないよ」

「何もないならびしょ濡れで駅に来ないでしょ?」


 彼女が首を傾げる。


「まあ、それもそうだよな」

「そうよ。それとシキは? 私、アイツに待つようにメッセージで言われたんだけど」


 俺はその言葉に鼻で笑ってしまう。


「何?」

「シキなら来ないよ。カリンを待たせたのは俺だから」

「そうなの? それより、やっぱり何かあるんじゃん」


 カリンは腕を組んで、少しむくれる。

 その様子が子供っぽくて少し笑ってしまう。


「ごめんごめん。それで話は……」


 ……告白。

 いきなり過ぎる事に今更ながら気がつく。

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