第10話



「それで何?」


 急に固まった俺にカリンは懐疑的な目で見る。


「あ、いやー。そうだなー……」

「ん?」


 じっと見つめて、少し歩み寄ってくる。


「あ、あの。なんで近づいた?」

「圧迫感があって、話しやすいでしょ?」

「それは話しにくいのでは?」

「圧迫面接って相手の本心を聞き出すため、こういうことするんじゃなかったっけ?」

「それは精神ストレスを与えても、きちんと受け答えができるのか試してるの!」


 間違った理解をするカリンに正しい情報を教える。


「あれ? そうだっけ?」


 気が抜けたように離れていくカリンに俺は安堵の息を吐く。こういう少し変わってるところと魅力的だと思う。


 緊張感のないカリンに俺は自然と言いたい言葉が浮かんできた。


「カリン。一緒に星祭りに行こう」


 俺の言葉にカリンは首を傾げた。


「私、今年は行けないって言わなかったっけ?」

「聞いてるよ」

「そしたら、なんで?」

「俺が今年もカリンと一緒に星祭りに行きたいから」

「……えーと」


 困ったような表情をするカリンに俺は言葉が足りなかったと思った。


「先輩とじゃなくて、俺と一緒に行こう。俺はカリンと一緒が良い。ずっと、好きだったから」


 困惑。そんな表情から徐々にカリンの口元が緩むと、カリンは急いで口元に手のひらを当てた。


「そ、それってどういう意味?」

「そのまんまだよ」

「いや、そうだけど……恋愛って意味で?」

「そうだよ」

「え、いつから?」

「ずっと前から。幼稚園ぐらいからずっとだよ」


 俺の答えに顔を赤くしていくカリン。片手で顔を抑えていたが、両手で頬を押さえるように顔を隠すようになる。


「好きな人いないんじゃなかったの? 中学の頃に言ってたじゃん」

「カリンが好きなのに言うわけないじゃん」

「たしかに!」


 髪からわずかに見える耳が赤いような気がする。

 奇妙な手の動きで必死に表情を隠すカリンに俺はなんとなく思い当たる事を言う。


「もしかして、意外と喜んでる?」

「んっ!?」


 目を大きく開けて、カリンは驚く。そして、眉間にシワを作る。


「あ、当たり前じゃん。だって、初めて告白されたんだよ。それにちっちゃい頃からずっとなんて言われたら、誰だってそうでしょ」


 カリンはそう言って俺から顔を逸らした。

 その様子に俺は思わず笑ってしまう。


 あぁ。可愛いなぁ。

 こんな自分の告白でも喜んで貰えるとは思わなかった。


「でも……」


 カリンはそう言って、大きく深呼吸した。

 表情をキリッとさせて、こちらに向き直した。


「私の想いは変わらないよ」


 その言葉が脳髄に反響して思考を停止させる。


 そこから何を話していたのか、あまり覚えられていない。


 分かっていた事だったのに。

 知らないはずがなかったのに。

 わずかな期待ばかりが膨らんで、見失っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る