第7話



 クルリと青春のノート会話を終えた後のことだった。


「よし、ゲームをしよう」


 突然、変なことを言い出した人がいた。

 それは間違いなく、俺だった。


 突然にゲームをしようと言い出す俺に、みんな首を傾げた。


 勉強中にゲームなんて言語道断。そんな反応をされるのは分かっていた。だから、きちんと説明しよう。


 ゲームとは言ってもミニゲームみたいなもの。罰ゲームに近いかもしれない。


「ここにラムネが6つある。このうち4つは甘いラムネで、残りの2つは超すっぱいラムネだ」


 俺はカバンから3つ入りのラムネの駄菓子を2つ取り出す。その封を切ると座卓の真ん中に置いた。


「これから1人1つずつラムネを取って、食べてもらう」

「つまり、ロシアンルーレットをしようってこと?」


 クルリが眠たげな目をこちらに向けた。


「そうそう。超すっぱいラムネがハズレで、ハズレを引いた人には罰ゲームと超豪華景品をあげるよ」

「はいはい! 超豪華景品って何?」


 八千が元気よく訊ねてくる。


「それはハズレた時のお楽しみ」

「ハズレなのに景品があるなんて、なんだかあまのじゃくみたいね」


 クルリが小さくため息を吐いた。


「逆に罰ゲームって何をするんだよ?」


 シキがこちらに視線を向ける。


 この罰ゲームは三分の一の確率で起きるシキヘのビッグチャンス。


 俺は不敵に笑って、シキを見る。


「自分の好きな人を言ってもらう」

「うぇ!」

「えぇ!」

「おぉ!」


 それぞれ驚きの反応があるようだ。

 クルリはじと目でこちらを睨んでいるが、かまうものか。


「恋バナね! 経験したことないわ!」

「おぉー、六花ちゃんはノリノリだね」


 六花はませた子供のように目を爛々らんらんと輝かせた。

 見た目に反して行動が幼くて、八千の言っていた“思わずかまいたくなる”の意味がよく理解できた。


「それでやってみる?」


 周りの様子を伺う。


 赤面2名、ノリ気2名、じと目1名で俺も含めたら過半数は取れている。


 多数決で話を進めれば、このゲームは成立する。


「私は良いよー」

「私もやりたい」


 八千と六花が手を挙げる。


「なら、俺を含めて過半数になってゲームは成立するけど」

「成立しないわ。提案者のあなたを含めたら公正じゃない」

「さっすがクルリちゃん、なかなか手強いこと言うね」

「あなたの思惑に乗るのは嫌だから私はパスよ」


 だいぶ嫌われてしまったようだ。


 そして、困ってしまった。クルリが参加しないと多数決で全員参加ができない。


 そうすると好きな人を言いたくない人は参加しないだろう。なんとかクルリをゲームに参加させたい。


「クルリちゃんは俺の勝負から逃げるのか。ま、しょうがないよね」

「やすい挑発ね」

「いやいや、クルリちゃんだもん。好きな人いなさそうだし、参加しても“いない”って答えちゃうよ」

「まあ、そうなるわね」

「それに恋愛経験も皆無そうだし、興味ないのもしょうがない」

「よく喋る口ね」


 クルリの鋭い視線が俺に向く。俺は動じずにける。


「おお! ゲームの前からバッチバチだね! 盛り上がってきたよー!」


 八千がヤジを飛ばす。


「良いわ。そのゲームに参加してあげるわ。それでハズレを引いて、罰ゲームのひと枠を潰してあげるわ」

「この負けず嫌いさんめ」


 クルリはニヤリと、嗜虐的しぎゃくてき笑う。見たことのないクルリの笑顔に怖くなり思わず本音が出た。


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